第九十五話
しばらくK助が車を走らせていると、彼の携帯でメールが着信している。彼は交通法規を無視して、前を見ながら運転し、メールを器用に確認している。
「またかよ…。本当に、うぜ。」
「どうしたんだ?」
「K先輩からです。何かと最近、頻繁に自分を頼ってくるんです。」
KはK助にかなり依存しているのか。前からそんな感じがあったけど、ますます激しくなって、歯止めが効かなくなっているんだな。ちょっと待てよ、何か腑に落ちない。
「そういえば…、さっきK助くんは、K子さんは何度もリスカを繰り返していると言ってたけど、Kちゃんはこの間の自殺未遂が初めてだったみたいだけど…。」
K助は携帯電話をおき、一呼吸を置いて事実を話し始める。
「本当は…クスリもリスカも、全部自分が流さないよう止めていたんです。向こうの両親から、K先輩には余計な心配を掛け無いでくれって言われ、その、自分はあの家族から、結婚する前から可愛がられたので断り辛いんです…。」
「それじゃ…本当はK子さんとも、離婚をしたかったんだな…。」
突然顔をくしゃくしゃにして、泣き出したK助は鼻水も垂れ流し始めた。子供そのもの姿だった。
「なんで…?なんで…?Yさんは、そうやって、当てる…んですか?!」
「…。」
こいつも、胸にいつも爆弾を抱えて生きていたんだ。その、爆弾を落とさない様に懸命に這っているが、ひょっとしたらK子が死んだ時点で、トガが外れたのかもしれない。もう疲れてしまったのかもしれない。誰かに支えて欲しいからか?
リスカとクスリ…。少なくともK子は、生きている間は二つの闇穴を心に空けたままだったんだ。こんな事なら、幼馴染のK央に相談すれば、ひょっとしたら最悪な結末だけは避けられたかもしれない。俺はさすがに、クスリの闇穴だけは気が付かなかった事を悔やんだ。かもしれない…。かもしれない…。そんな後悔ばかりではいけないのは分かっているが、巡ってしまう。
ようやく着いたK子のマンション。 前回来た時は、泥酔状態の記憶が吹っ飛んでいたから、全景をまじまじと見る事は無かったが、よく眺めると、一人で住むには寂しい住居に感じる。彼女はここで懸命に何かを胸に抱えながら、人間としてギリギリのラインで生きて行こうとしていたのかもしれない。
「Yさん、俺、なんであいつと結婚しちゃったんでしょうか…。」
「何でだと思う?」
「正直、分かりません…。俺、やっぱり最低ですよね…。」
「それを探しに行くんだろう?」
K助の強張った表情はこちらを見つめている。
「そんなもの、見つかるん…ですかね?」
「今はそんな悠長な事を言っている暇は無いだろう…さぁ、行こう。」
続く




