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第九話

その昔、壁と橋がいた。

彼らは人の役に立ちたいと常に願っていた。ある時、一人の旅人が壁と橋の前にやってくる。


彼らはこの時を待ちわびていたかのように、旅人へ話し掛けた。「私を乗り越えられれば、どんな苦難も乗り越えられる偉人になれるだろう」と壁は言い、「私を渡ることができれば、どんな人々とも仲良くなれる偉人になれるだろう」と橋は言った。

旅人はしばらく考えた後、彼らの言葉を信じず、今まで辿った道を戻ってしまう。旅人の行動を理解できなかった壁と橋は、それ以降、人の役に立ちたいと望むことを止めたという…。


あれから、Kとは全く連絡が途絶えてしまった。まるで返事が無い。まぁそんなものなのだろう、若い世代は…。元々、彼女自身に何かを求めていたわけでもなく、互いに何か共有できればそれで十分だったからだ。残念ながら、俺にはその才能はなく、悪戯に時間が流れていたに過ぎなかったかもしれない。


いつもそばにいるわけではないKの存在を、元々存在していなかったと思うだけでなんとかなりそうだ。口癖のように何となく分かるだとか、その場しのぎの共同創作の約束に、いちいち期待をしたところで、彼女自身には本当は興味が無い事が分かったのだから。


不思議なのはたまにK子から連絡くることだ。彼女はあの一件から、俺に色々な意見を求めるようになってきた。所謂、相談というやつだ。同じ世代が抱える不安や抑制、そして人間関係における悩みなどを、一つ一つ丁寧に答えを見出だしてあげていった。しかし、まるで避けるように互いにKの話はしなかった。


「今度、また飲みにいきましょう?どうかな?」


答えは簡単、二つ返事だ。K子とは普通の会話ができることが幸いしている。既婚者だし、過剰な自意識や、壁を感じないのだ。すごく楽なのである。


数日後、再びあのテーブルでK子と酒を飲んでいる。話も無駄なく、テンポ良く、しまいには敬語さえも忘れてしまった。


あの、二点の事を除いて…。


続く

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