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第五話

「あの子はねぇ、少し片意地張るきらいがあるの…。」


K子…。彼女はKの姉である。優しい物腰と優雅な微笑みで魅了する彼女の呟きは、こちらも自然と言葉遣いが丁寧になってしまう。

「別に敬語なんて使わなくていいから。年も二つしか変わらないんだし。」

既婚者で五年目。学生からの付き合いからだそうだ。まるで紅茶でも飲むように、緩やかグラスを傾ける指先には、そうは言ってもK子のわずかな年齢差を感じずにいられなかった。


いつもはKと二人で飲んでいるこの店も、今夜初めてあった来客とともに、今の時間や自分の視界には存在しない人物の話で花を咲かせる事となった。


「絨毯が…。」

目を細目ながら思い出したように語り始める。

「ううん、いや昔ね、旦那が全然帰って来なかった時があって、絨毯が涙でびしょびしょになるくらい泣いていたの。それも毎日…。」

口元で浮かべた笑みには、その思い出を大切にしている真心が表れていた。

「でね、あの子素直だからすっごく一緒に落ち込んでくれて、恥ずかしい話だけど私も耐え切れなくなって、しがみつきながらわーわー泣いたわけ。そしたら…あの子。」

小さな笑みは、突然爆発したように大きく変化し、

「あたしの頭の上で同じように泣き始めて、おまけにいっぱい鼻水まで流しちゃって『ごめん、お姉ちゃんの頭に鼻水がいっぱいついちゃった…。』って!ベットベトになって。」

店中に腹を抱えた互いの大きな笑い声がこだました。あのいつもすましたKからは想像できなかったからだ。夜だというのにレイバンのサングラスをしてきたかと思えば、一人でカウンターにタバコを曇らせてラム酒をストレートで飲んだり。情に脆い話は苦手なイメージしか見当たらなかったからだ。


何時間過ぎた頃だろうか?いつの間にか、K子とは互いの恋愛観について話すようになっていた。そう、何十年経っても決着のつかない、男女の差とは何かってやつだ。つまり、この話の本質は、自己防衛と過剰な自己主張が互いに交差しながら平行線を引くようなもの、妥協点を見いださなければ、永遠に答えなど見えはしないのだ。アルコールを含んだ会話には丁度いい話なのだが、K子との会話では、しばらくするとなんだか妙な話になってきたのだ。


洗面台…。鏡を前にした自分の目の前にまたしても沈黙貫いたあいつが現われた。分かっているよ、大したことではないけど、でもK子が何かを求めているのは明らかだ。


そう、望みを叶えてあげなければ…。


続く


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