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第四十二話

自分の知らない所で自分の知らない事が起きている時、それに関わる自分の知り合いは何をしているのだろうか?だから少なくとも自分の知っている愛だけは、裏切らないで欲しいと願わずにいられない。


いよいよ、今週末にK美さんとの初デートを控えた月曜の朝を迎えた。散々課長に叩きこまれたコースと、積もり積もった不安と高揚で身体中は今から震えてる。武者振るいってものかな?いつものように支店へ天気予報を添えてFAXを送ってみる。


「あれ…?返信されてくる。」

「どうした?」


課長がそばにやってきてFAX機の故障かと、色々な見てくれたが、特に故障は無い。唯一川崎支店へだけFAXが送れないようだった。


「何があった?溝ノ口に電話も繋がらないぞ?」


社長がこちらに寄りながら話しかけてきた。どうやら自分の携帯電話から支部へ電話したが繋がらなかったらしい。支部に常駐している温厚な部長とも連絡が取れないらしい。自分もデスクから川崎支店へ電話したが、全く繋がらなかった。社長と課長はとにかく状況の打破に思案中だった。


「このままでは川崎市内のクライアントに依頼されている仕事も回せませんね。」

「参った。とにかくお前はすぐに支店へ向かって状況を確認してくれ。俺は直接クライアントへ出向いてくる。」

「分かりました。」

「他の者は通常通り職務を全うしてくれ。支店に関する質問があった場合は、現在調査中である事だけ伝えろ。分かったな!?」

「はい!!」


会社内に一斉に社員の声が響いた。自分は初めての状況にオタオタするばかりだった。支店へ向かおうとする課長に目が行き、つい自分はK美さんへ毎日届けている連絡票を渡した。


「これは…連絡票だな?」

「はい、K美さんには毎日送っていますので、是非とも課長からお渡しいただけますか?」

「分かった。そんな不安そうな顔するな。きっと大丈夫だ。」

「だと、良いんですが…。」

「男だろ?シャキッとして俺からの電話を仕事しながら待ってろ。状況が分かり次第、一目散にお前に電話してやるから。」

「はい!ありがとうございます!!」


そう言って課長は颯爽と出て行った。自分は課長の言葉を信じて、しっかりと業務をこなすしかなかった。いつもと同じ毎日のはずだったのに、今日ばっかりはやたらと時間の進みが遅く感じる。激務の中、頭の中に思い浮かぶのは、あのK美さんの悲しんでしゃがんだ姿ばかり。目の前にあるデスクの電話ばかり気になって、仕事はミスが目立つ流れ。本当に情けない男なんだ自分は…。


昼前になると、クライアントへ出向いていた社長が携帯片手に怒鳴りながら戻ってきた。話の内容から察するに、社員の誰かと話しているようだけど、まさか?!K美さんとでは?この間の親睦会での一件もあるし…。


さらに数時間後には、あの温厚派で有名な部長が、凄まじい形相で本店に戻ってきた。社員は部長の顔を見るなり戸惑いを隠せなかったが、怒りの込み上がった社長だけは違い、部長に即されて表へ出る事になった。


社内には異様な緊張感と雰囲気が漂い、さらにピリピリした空気が沈黙を支配していた。一体自分が知らない所で何が起きてるんだろうか?自分の不安はますますエスカレートして行き、デスクの電話に掛かるのは、全て課長からだと思い込んだ凡ミスまで多発した。


すっかり陽は暮れて、不安ばかりが募る中、ようやく普段の仕事の落ち着きを取り戻し始めた頃、社長と部長が談笑して戻ってきた。二人は何事もなかったように、社長室へ入ってしまった。説明を受けていない自分たちは、今までの緊張感がまるで全てが拍子抜けに感じてしまった。しばらくすると、社長と部長が自分の席に近づいて、ニヤニヤしながら自分に指を指してきた。


「こいつか?」

「そうですね。こいつですね。」

「そっか…。上手くできそうなのか?」

「まぁそこは、課長がさばいてくれるでしょう。」


一体、何の話なんだろ?自分がさっきの支店が普通になった事と関係があるのだろうか?それとも、何か新しい仕事を任されるのだろうか?そんな時、けたたましくデスクの電話が鳴り響いた。課長からだった。


「お前、今夜空いてるか?」


続く

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