第三十三話
なんて憎たらしい日曜日なんだ。外では緑が茂っている。だが、中にいる俺はまるで灰が漂う地獄門の前で、審判を下されるの待つ死刑囚の気分だ。居心地は悪いが気分は悪くない。俺を、俺だけを悪者にして済まそうって腹ならいくらでも対処してやる。とことんお前たちを追い詰めてやる。俺の業火は棺焼き切るだけじゃ飽き足らない。焦土だ。全てを…。
けっ、窓ガラスには俺の信者が映ってやがる。なるほど、どうやら無責任に言葉を聞き流すのは無理な状況だ。この信者が言うところの選択肢って奴がまだ残っているのか…。
彼は信者の僕に任せるらしい…。いつものように静観するんだそうだ。
「やめないか!」
K子さんの父親らしき男性が制止した。
「いいえ、そうはいきません!ここにはっきりと証拠があるんですから!貴方は一体、何をしたんですか!」
K子さんの母親は残された一枚の紙切れを地面に叩きつけた。そこには小さな文字で無数に次のように書かれていた。
“私は貴方に殺される。もうこれ以上追い詰めないで。”
この紙切れは、僕がK子さんにあげたドラクロワの本からの…。K子さんの大切に見ていた最後の姿が浮かぶ。
「貴方はうちの娘をたぶらかし、K助さんからK子を奪い、そのうえ妹のKにまで…。」周りの人達の目線は全て、僕の表情に向けられた。僕はまるで魔女裁判にかけられているような気分だった。近くに業火もあることだし。K子さんの父親が近づいてきた。
「たしかなことは…ないので、うちのが言ったことは貴方に失礼であることは重々承知です。しかし、私の愛する家族の一人が命を失い、我々が精神的に参っているのは君も分かるだろう?だからできるだけなぜこんなことが起きてしまったのかを知りたいんだ。だから我々の家族のために協力をしてくれないかい?」
悲痛の叫びをぐっと辛抱強く抑えているようだった。
「一体、うちの娘のK子とどんなことを話、何があったのだろうか?」
するとKちゃんが口を開いた。
「お父さん、お母さん。場所を移そうよ…。K子はまだあのままだし…。」
K助くんも続けて語りだした。
「そうしましょう…。」
まだK子さんの母親はこちらを睨んだままだ。しかし父親は母親の両肩に手を置いて悟らせた。
「そうだな…まだちゃんと式も終わってなかったしな。ほら、とにかく後にしよう…。」
ようやくK子さんの母親は、僕から目を逸らした。けれど今度は悟らせた本人が、鋭い眼光をこちらに向けている。
「ただ…、君には後でじっくり話を聞かせてもらうよ。そうでなければうちの家族の怒りは収まらない。」
まるで僕は犯罪者扱いで、みんなが去った後に身体中からいやな汗がでるような気がした。かなり追い詰められている。参った。どうしよう?でも本当に思い出せないんだ。それに彼女がドラクロワの本をあんな風に破ったりするだろうか?
なぜ死んだりしたんだ。彼女の心は支えが必要だったが、もう一度確実に死にたいと思うなら、必ず誰かに傷つけられたか、今まで信じていたものが信じられなくなった時だ。
窓ガラスに映る僕の静観している神を見た。彼が人を裏切るのだろうか?確かに裏切りこそ一番信用できるものだと言っていた。けれどそれは人の生死に関わることではなく、精神性の上位いる連中の固定概念を、粉々に壊すための戦略に過ぎない。もしくは未完成の理想的な思想だ。
やはりちゃんと思い出さなければ。僕の役回りは、どんな状況であれ、決して諦めずに選択をすること。嫌なことからも逃げずに、立ち向かっていかなければ、答えは決して見つけることは不可能だ。
だが…、もし仮にお前が、いや、俺が本当にK子を追い詰めて殺したとしたら、どうするんだ?
その時は、僕も潔く罪を認めよう。あなただって、口は悪いし、世の中を斜めから見て屁理屈ばかり呟いているけど、決して人を諦めないじゃないか。僕は信じたい。そして信じてもらいたい。身の潔白を、そして誰かの為に命を投げ出せる者は、決して誰かの命を奪わないことを認めてほしい。
全く、真実とは本当に退屈な遺産だ…。よし、もしこれから俺が、静観もせずに、言葉も受け流さないとしたら、お前は決して輝きはしないぞ。むしろ不幸や災いを呼ぶかもしれない。俺はそれらに浸るのが大好きだからな。
大丈夫さ、選択肢はいくらだってあるさ。まずはあなたの言い草じゃないが、『奴らの副流煙をめいいっぱい吸ってやろう…。』って事から始めるよ。彼らの痛みが分からなければ、退屈な真実の追求をしたところでも意味がない。
全く厄介な奴が、俺の信者になったもんだ。
続く




