第二十一話
何を考えているの?
うん…。
何かあった?
あった…。色々な事があったよ。
話せる?
うん、多分。
本当に?
うん、きっと世界中誰よりも信じているから。
ありがとう…。
こちらこそ。本当に感謝している…。
そっちはどう?
あんまし変わらないかな。ごめんね、そばにいなくて。
大丈夫だよ、そっちは?
変わらないかな、笑顔を見れることが、救いかな。
僕なんて本当は大したことで悩んでないのかもしれない。
そうかな?
うんきっとそうだよ。
でも元気になって欲しいよ。
本当に?
うん、だからこうやって笑顔でいたいの。
笑顔でいたい…か。
気分いいでしょ?
うん、気分いいね。
また会おうね。
うん、また会おうね。
それまで、死んじゃダメだよ。
うん…。
じゃあね。
うん、バイバイ…。
サラは消えていく。ゆっくりと音を立てずに、目の前から消えていく。笑顔を残したまま。
彼女とは逢ったことはない。ただ、自分が何かに陥っていると、必ず目の前に訪れる。それも決まって真夜中だ。窓辺で自分を包む世界を眺めながら、もう現われないと思っていたが、やはり彼女は現われた。理想の女性。汚れても輝こうとする女性。
あれから3ヶ月。全くの音沙汰無し。これでいいんだ。あの姉妹に関わるとろくなことしかない。緩やかな時間の流れに身を任せながら、少しずつ自分の作品を描こうとしている。知人が個展を開くので、よしみで参加させてもらうことになった。彼はとても激しく人物の描ける人間だ。俺はどちらかといえば、風景画が多い。彼のように素晴らしい主張を曝け出すことには、まだ長けていないと感じている。だが、知人は自分の風景画を絶賛してくれた。人物もまた風景の一部であるという考えに賛同してくれたからだ。だが、影は所詮黒だという彼の主張だけは相反するものがある。ドラクロワの日記をなぜ読み返さないのだろうか?なぜゴッホの夜空に関する手紙を読み返さないのだろうか?黒は単純な黒ではない。
まぁいい。人それぞれだ。俺はコツコツ世界を構築していくだけだ。リストの調べを聴きながら、自分の描きたいものを描こう。
メールが大切な何かを知らせているのに、その時の俺は全く知らなかった。
続く




