第十八話
ドアをノックする音が聞こえると、笑顔を携えてたK子が顔を覗かせた。
「おはよう~。昨日はゆっくり寝れた?」
夢を見たんだ。だから多分、寝れたんだと思う。
「全然寝かせてくれなかっけどね。」
まさかそんな。記憶にない。いくら酔っていても、それくらいは覚えている。いや、むしろ酔ったときの方が、鮮明に残像が残っている。間違いない、あり得ない。
「冗談~。」
全く…、これだから嫌いだ。なんて面倒なんだ。だがK子は目を輝かせ、リビングへ誘う。至るところに観葉植物が置いてるのが目に入ってきた。妙な静けさに、ボサノバが流れていた。レースのカーテンは平和そのものを象徴し、風に揺られて爽やかな朝と踊っている。朝日は彼女の幸せを演出するため、眩しいくらいだ。まるで雑誌で見かけた優等生のような部屋。そして違和感を感じる俺…。一つだか共感できたことは、K子だけが生活するには広すぎて、誰かを取り込もうと待ち構える、淋しさがうまく隠れている。今は見えないけど…。
浴室で、洗濯機の上にバスタオルを置いたK子が、シャワーの使い方、シャンプーやリンスの位置などを丁寧に教えてくれた。一緒に入ろうか?などと耳元で囁くオマケもついてきた…。勘弁してくれ…。鏡のあいつもこちらを見ようとさえしないじゃないか。
頭からシャワーをかぶりながら、ふと現実的なことを考えてると、ひとつ落ち着ける場所があった。浴室の床がタイルではない…。ここもまたフェイクでプラスチックのような感じだ。大抵のマンションはそんなもんだ。そして一つの疑問がまた浮かぶ。旦那はどうしているんだ?俺がこんなに堂々と上がりこんでていいのだろうか?
リビングに戻ると、K子はこちらに嬉しそうに抱きついてくる。さぁ、そんな所に立ってないで、と言わんばかりにソファーへ座らされ、上にまたがってきた。
「これからどうする?」
重たい言葉だ…。両肩に乗せられた彼女の両腕よりも…。
「せっかく土曜の朝だし、天気もいいから出かけようか?」
気が滅入る…。天気がいいと、なぜ人は出かけようとするんだ?休日の混雑には吐き気もしないのだろうか?
「なんてね…、邪魔したりしないから、せめて一緒に紅茶だけでも飲んでって。」
ありがたい。ここは俺が長居できる場所じゃない。K子は気分を損ねるどころか、鼻歌など唄っている。ふと目の前のテーブルに目をやると、目の前の灰皿には吸殻が散らばっている。K子はタバコなんか吸っていたっけ?それに、どこかで見かけたライターだ…。
すると、玄関と思える奥の方から、慌てて扉を開ける音と共に、誰かが入ってきた。
それは、昨日泥酔していたはずのKだった…。




