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第十六話

一度だけ、姿を変えなかった事があった。あの頃は、自分もKと一緒だったのかも知れない。


高校時代、奇妙な家族をもったことがある。こぼれ落ちそうな脆い想いを、なんとか互いに心を繋ぎ合わせたくて、そんな切実な理想像を求めた形だった。結局、救うことができなかったのだけれど…。


父親役の俺、母親役である同級生の女性、そして娘役の後輩の女性。互いに互いを想い、淡い恋心を抱きつつも、決して繋がることはできず、また互いを傷つけあうこともできず、世に取り残された空虚な三人だった。


Sに手を出した娘の原因を作ったのは俺だ。彼女は素直に俺を求めてきたが断った。何度も何度も断った。そう、俺が何度も何度も母親役に断られたように。だから俺たち三人は家族になった。本当は誰もそんなことは望んでいなかったのに、傷つけたくも壊したくもなかったからだ。


高校を卒業した年の秋、ある病院でばったり娘役の彼女と出くわした。彼女は嬉しそうにこちらへ駆け出して、自分の事を次から次と話してくれた。色々などん底を味わい、今は元気で病院にいると。左手首には俺と同じような包帯が巻いてある。


何があった、見せてごらん。娘は笑顔を絶やさず、その傷を見せながら、その当時の事が思い出せないと言っていた。だが、俺はそんなことはなかった。ちゃんと覚えていて、ヘラヘラ笑っていたことも、タイルに流れた血の色も覚えていると語った。


自分に嘘ついちゃ、自分が可哀相だよ。ちゃんと取り戻すんだよ。彼女は最後まで涙を見せず、俺の想いを笑顔で愛情を込めて答えてくれた。その時も、きっと俺は断ったのかもしれない。


数日後、娘役の彼女はこの世を自らの力で去った。彼女の橋は自壊したのだ。


みぞれ混じりの雨が降りしきる葬式で、俺と母親役の彼女とで初めての夫婦喧嘩をした。母親役の彼女は俺にしがみつき、あんたが全部悪いんだと非難してきた。あんたがあの娘を受けとめなかったからだと。俺は堪り兼ねて彼女を非難した。お前も俺を受けとめなかったからだと。だが、事実は奇妙な形だった。母親役の彼女は、娘役の彼女に何度も何度も断られていた。母親役は男性を愛せない女性だったのだ。


結局、彼女は俗世でまともに生きるために、俺と交わる事で魂を売り飛ばし、母親も娘の後を追うように、この世を自ら去った。


俺達の奇妙な家族は、娘と母親を失ったことで崩壊した。


続く

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