第百話
自宅に帰ると、いつもの静けさが出迎えてくれた。でも、なんだか心地良い。酔ったせいかな?なんかワクワクしてる。うん、今日はすっごく気分が良かったの。いつもだったら、君達の静けさを邪魔したくなって、テレビつけたり、音楽流したりするけど。
今夜はしたくない。
"色々想像すると、街の雑踏や路上に咲いてる花でさえ、面白く感じられるんです。自分から面白い事ないかな?って思ってるとね。だから、僕はあんまりテレビ見ないんです。だってずっと何も考えないでダラダラ見れちゃうでしょ?そうすると後で出てくるのは文句と錯覚だけだから、楽しめないんです。どうせ錯覚するなら自分の想像の中で思いっきり錯覚したいんです。"
意外だった。そんな風に考えている人が、この世の中にいるなんて。確かに私は一人でいる時の静けさが嫌で、テレビをつけてた。何も考えないでダラダラしていた。でも、自分が本当は寂しい人間だと知りたくなかったからなのかも。
"独りって、惨めで寂しいって言うけど、一人にして欲しいって思う事もあるじゃないっすか。って事は、独りが怖いんじゃないんだと思うんですよね。望んでる事が叶わないから寂しいだけなんだって。それは一人でいる時も、みんなでいる時でも一緒だと思います。さみしい時は惨めで、楽しい時は明るい。なぁーんだ、何処にいても一緒じゃんってね。"
そっか…。でも、そんな単純なんだ。結局色々考えても、自分がいけないんだって思ってた。だからグレーゾーンが欲しかった。でも、それは私の人間としての言い訳。三十路越え女の理屈。周りと比べるとまともに生活できてない主婦らしき女の性。
"グレーゾーン?そんなもん僕はもう流行らないっす。幼馴染みには『人の生き方とかは流行らないとかじゃねぇだろ?』なんて怒られたけど、昔はグレーゾーンが心地良かったけど、色々な事を感じたり考えたりして、留まったら何もできなくなるだけなんだろうなって。複雑に絡み合った大人の言い訳だなって。家庭も大切にしたい、けど浮気もしたいやつの言い訳かもしれないっす。"
そうは言っても、一番可笑しかったのは、Yくんが一番グレーゾーンっぽかった事。チャラいし、エロいし、女慣れしてるし、口は上手いし、女なんか吐いて捨てるほどいそうな感じ。当然浮気なんて経験しているんだろうな~なんて思っていたら、思いもしない答えが返ってきた。
"基本、女の人の方が男よりドライだから、僕はポイって捨てられるんです。ほら、僕も一応男の子だから、それなりの欲求もありますし…。特にドライなのはシングルマザーね。散々子供の前で僕にお父さん扱いをさせておきながら、突然に前から消えちゃうですから。タハハハ。恋愛したくてたまらない女性や結婚目的の女性は、逆にねちっこいっす。いっぱいルールを作ってて、それに当てはめようとするんです。でも、やっぱりダメだって思うとポイってドライに捨てるんです。ただ、不思議なんですが、旦那さんとちゃんと同居している若い女性は近寄って来ないですね。だから浮気したくてもできないんですよ~。あ、違うか。僕が浮気されたい願望があるって事か!タハハハ~!"
Yくんは、自分だけは夢の中で生きていたいって思っているような感じもしてきた。ピーターパンでいたいんでしょ?って言うと、僕はフック船長に憧れてるんだって、さらって言いのけてしまう。
あれ?私、何一人で舞い上がってるんだろう。やだ、今日初めて会ったばっかりなのに。
でも、Yくん、良い匂いだったな…。
続く




