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夢の監獄  作者: とみこ
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柊 由人

悪夢にうなされる柊。

「ヨシちゃん、好き!わたしね、ヨシちゃんのお嫁さんになるんだぁ。」

黄色い帽子をかぶったあの子。

あの子が⸺泣いている。

「どうして?どうしてパパとママがケンカして、ママがケガしたこと、どうしてヨシちゃんが知ってるの?こわい。こわいよヨシちゃん。もうきらい!だいきらい!!話しかけないで!!」


黄色い帽子を揺らしてあの子が走り去ってゆく。

右手にたんぽぽをにぎりながら。左手で涙を拭いながら。


瞬間、滝のような汗とともに目覚めた。

柊 由人。28歳。ふと時計に目をやる。無機質なデジタル時計は赤い色で02:38の文字を示していた。

目覚まし兼時計として量販店で買ったものだ。


大学では精神医学を学んでいた。いずれは恩師の長谷川先生のように⸺と望んでいた彼の夢は、彼の「異端」とも言える能力により打ち砕かれた。


過去視。


物心ついたときからそれは彼につきまとった。

最初の記憶は優しかったおばと手を繋いだとき。それは視えてしまった。

「おばちゃん、酒屋のおじちゃんと手を繋いでどこに行ってたの?」

その瞬間おばの顔が凍りついたのを、柊は永遠に忘れることはないだろう。その後、おばの不倫が発覚。おば一家はバラバラになった。


あの子⸺ななこちゃん。初恋だった幼稚園。

「ななこちゃんのパパとママ、けんかしたの?ななこちゃんのママ、おでこ切っちゃったの?大丈夫?」

口にした瞬間、ななこちゃんは眉をひそめ大粒の涙をこぼした。


そして初恋は砕け散った。


この能力はことあるごとに柊を苦しめた。

視たくないのに。視えてしまう。

視えないふりを決め込んで、余計なことな口にしてはならないと自分の心を殺すのに疲れきった小学3年生の頃、祖母に祖父の形見の白い手袋をもらった。

もう入らないその手袋は、祖母に貰ったときのように大切に桐の箱にしまってある。


「ばあちゃん⸺俺…。」

暗闇が支配する空間でひとりごちる。

「俺、また間違えたみたいだ。ごめん、ばあちゃん…」

しばしの間手で顔を覆う。祈るような、嘆くようなその姿は一つのブロンズ像のようだった。

程よく鍛えた身体。寝乱れた薄いシーツが寝汗で貼りついてほんのり色香すら放っている。


柊はフラフラと立ち上がると冷蔵庫へ向かった。ミネラルウォーターを一気に飲む。喉が癒やされて、身体がふわふわするような感覚に包まれる。口の端からダラダラと溢れる水も気にせず、柊は500mlのペットボトルを一気に飲み干した。


「気持ち悪い…」

熱帯夜。エアコンをかけていたにも関わらず滝のような汗をかいて不快感はマックスだった。

チラと時計を見る。赤くぼんやりと写し出される02:43の文字。

「シャワー、浴びてくるか…。」

ふらふらと柊はシャワールームへ向かった。

そして思い切り水でシャワーを浴びた。

身体に良くないことは百も承知だった。

だけど⸺

温かいシャワーを浴びることすら、今の彼には罪のように思えた。


そしてふらふらとシャワールームをあとにすると、ソファにドシンと身体を投げ出した。ソファが小さな抵抗のようにキシ、と音を立てる。


「ばあちゃん、俺⸺」

デジタル時計はすでに午前3時をまわっていた。

その無機質な赤い文字が滲んで見えるのは、おそらくメガネをしていないから、だけではないだろう。


汗を吸ったシーツに戻る気など起きるはずもなく、柊はソファに客人用のブランケットを引っ張り出してきて、また眠りについた。


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