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夢の監獄  作者: 杜 妃湖
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赤と黒/蜉蝣

薄明かりの駅前で抱き合う二人。

柊はただその姿を見つめていた。


(いつか何かで見た絵⸺そうだ。たしかあれは…)

クリムトの接吻が如く神々しさすら感じる二人の包容。


と、そこにワゴン車からまた一人誰が出てきた。

「綾子ねえちゃん…なんだよな…?」

同じく修道服に身を包んだ男性⸺とは言ってもまだその面差しは少年のようだ⸺がおずおずと降りてくる。


綾子が口を開く。

「洋平ちゃん…?洋平ちゃん…よね…?」

少年のようなその男はニカッと笑うと、

「当たり!綾子ねえちゃん、すげえきれいになったな」と叶恵と同じように綾子に縋りつく。

「ちょっと!洋平!邪魔よ!」

叶恵が鬱陶しそうに言う。

(変わってない…)綾子は嬉しそうに微笑む。

叶恵が「案内する。ついてきて。あと、そちらの⸺」と柊の方を見やる。

柊はペコリ、と頭を下げると事前に用意していた挨拶を叶恵に投げかける。

「初めまして。私は柊と申します。綾子さんとはひょんな事で知り合いました。日本各地の郷土史を研究してまして⸺今回その、綾子さんがこちらに行くと言われたものですから。厚かましくも同行させていただきました」

小さな嘘に胸がチリチリと痛む。

聖職者であり、綾子の美しい思い出の中の彼女らに嘘をつくなんて。

(仕方ないんだ⸺綾子さんと決めただろう。夢遊病のことを言えば彼女らが心配する。それを一番嫌がるのは綾子さんだ)


「そう⸺なんだ。綾子お姉ちゃんの彼氏さん…では」

「ないわよ。」

ズバリと切り捨てる綾子。

その潔さもまた柊の胸に突き刺さる。


「叶恵ちゃん私ね、結婚したの。あなたがピアノを聴きたいってねだったあの人。覚えてる?」

「えっ!?えっと、確か⸺隆弘お兄ちゃん?」

綾子は微笑みながら

「そうよ。今はその⸺出張中で。私一人では危ないからって柊さんが同行してくれたの。」

(ああ⸺こんなに純粋に再会を喜んでくれた子に、私は…)

綾子もまた胸の痛みを感じながら⸺しかしそれを顔には出さずに叶恵と洋平の頭を撫でる。


「そうなんだ…おめでとうお姉ちゃん。」

叶恵は涙を袖でぐい、と拭うと

「行きましょう。立ち話もなんだし。色々と変わったのよ。案内するわ。」と促す。


修道服の黒が、ぼんやりとホームの光に照らされていた。



その頃。隆弘は予想もしない事故渋滞に巻き込まれていた。テールランプの赤が眩しい。

「クソ、クソッタレめ。あと少しってとこで…」

苛々を隠せぬままポケットに入れた指輪を取り出す。

それに口付けながら、

「綾子…もう少しだからね…迎えに行くよ…」

と呟く。

「嗚呼!会ったらまず何をしようか!熱いキス?抱擁?それとも⸺ねえ綾子。俺は君にこんなにも会いたくてたまらないんだ!」

ハンドルをバンバンと叩くと隆弘は自分の下半身が熱く脈打つのを感じた。

「綾子…俺じゃなきゃだめなようにしてあげる。俺以外見えないように。好きだよ…愛してる…」

目に宿るは真っ赤な狂気。それは長く続くテールランプのせいだけではなかった。


狭い田舎道を15分ほど。

綾子たちは聖マリアンナこども園に到着した。


荘厳な白塗りの建物。屋根の上には十字架。

かつてのこども園の面影はどこにもない。

かつてのこども園は廃校になった小学校に少し手を入れた程度の質素なものだった。それが、こんな⸺要塞のような建物に変わっているなんて。

(全ては遷ろうのよね…)

綾子は今はもうない木造の、貧しくはあったけど暖かかったこども園を思い出していた。

いつも子どもたちの声に溢れ、賑やかで⸺決して裕福ではなかったけど。それでも⸺。私が育った場所。

(もう、ないのね…)

綾子が感傷に浸っていると叶恵が説明を始めた。


「園が閉鎖されるときにね。お父様にわがまま言って、別の場所に新しく建てて頂いたの。私、どうしても⸺思い出のこども園を残したくて。今では親を亡くした子どもたちだけでなく、虐待を受けた子たちなんかも預かってる。お父様の意向でこうして、キリスト教の様相を呈してはいるけど…やっていることは昔とほとんど変わらないわ。」

それに、と叶恵は続ける。

「こんなところに建てたのには理由もあってね。ここまで来るのにだいぶ苦労したでしょ?虐待に遭った子たちが簡単に連れ戻されないようにしているの」

と、そこまで一気に話すと叶恵はふぅ、と息をついて


「綾子お姉ちゃん。そして柊さん。ようこそ、聖マリアンナこども園へ。我々はキリストの名において、来訪者を心より歓迎します。」と恭しく一礼した。




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