猛暑の邂逅
過去視のできる男、柊と綾子の接触シーンです。
8月。今年も酷暑だ。TVでは連日、熱中症対策が騒がれている。経口補水液の作り方を見た隆弘が、ステンレス・ボトルに持たせてくれた飲み物も飲み干してしまった。
「暑…」
クリニックを出た瞬間、誰に言うともなく、口をついて出る言葉。
今日は隆弘は大事な会議があるとのことで一緒には来れなかった。
⸺仕方がない。毎週木曜、サラリーマンである彼が無理をおして取っている休み。私のための休み。これ以上のわがままは言えない。
アブラゼミの声すら鬱陶しい。
頬に張り付く髪から滴る汗。
バス停までの道のりをのろのろと歩く。
と、向こうから白衣の誰かがやって来るのが見えた。確か、クリニックの薬剤師さん…?
すれ違いざまにペコリ、と会釈しようとした瞬間、日傘を持つ手に力が入らなくなった。
え、と思う間もなく膝から崩れ落ちる。
ああ、そうか。これが熱中症か…と、焼けた地面に崩折れる瞬間、消毒液の匂いに包まれた。
「大丈夫ですか!?大丈夫…え…?あなた…!?」
長身の薬剤師が一瞬、顔をしかめたように見えた。が、
綾子の意識は一旦そこで途切れた。
次に目を覚ましたのは夕刻。
クリニックのベッド。頭に冷たい感覚。
これは…氷嚢…?
腕には点滴が繋がれていた。
「綾子…?綾子!起きたんだね?済まなかった、会議なんてほっぽっときゃ良かったんだ。済まなかった…。」
涙目の隆弘。
そうか、私倒れて…。
「ごめんなさい…」
まるで蟻のような小さな小さな声で、綾子はぽつりとつぶやいた。
「いいんだ。一人にした俺が悪かった。ごめんよ…。」
以前会津に旅行に行ったときに見た赤べこのように頭を下げる隆弘の肩越しに、白衣の男性が見えた。
「あの…」
と声をかけると、隆弘が綾子の手を握りしめながら、「こちら、柊さん。ここの薬剤師さんだ。君が倒れたときに抱きとめてくれたんだよ。柊さん、この度は本当になんてお礼を言ったらいいか…」
隆弘は今度は柊という男性に向かって赤べこのようになってしまった。
「いいんです。医療の道にいるものとして当然ですから。お気になさらず。それよりも、いや、その…。主治医の先生と僕とで綾子さんに少し、お話があるのですが…。」
外はもう、真っ赤に焼けるような夕焼けと夜空のコバルトブルーが混じり合う色をしていた。
写真を嗜む者なら、マジックアワーとして切り取るような空。
しかしその空はまるで、これから先の運命を示すかのような不穏ささえ感じるような、そんな色をしていた。




