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プロローグ
夢遊病と過去視をテーマに重めの作品を書いてみようと思います。
ぴた、ぴた、という水音で綾子の意識は現実に戻された。
ああ、今日はここか。
無機質なタイルに、ピカピカに磨かれた浴槽。
今日の目覚めは、バスルームだった。
早乙女綾子、32歳。
彼女を悩ませているものは、夫の隆弘の両親が事故死してから3年以上続く、夢遊病。
隆弘も慣れたもので夜中に一度起きては綾子を見つけ、厚手のブランケットをかけてくれる。
そしていつもお決まりの、結婚前にDIYで作った小さな椅子⸺綾子の好きな空色に塗った椅子に水の入ったペットボトルとメモが置いてある。
気だるさを抱えたまま、視線を泳がせるとバスルームの片隅に空色の椅子はあった。
メモには「仕事に行くけど寒い思いはしかなったかな?何も気にすることはない。大丈夫だよ。君は俺が守るから。次の木曜日、クリニックでまた長谷川先生と良く話し合おう。隆弘」の走り書き。
もそもそとブランケットを持ち上げて、隆弘の用意してくれた水を一口のむ。一気に現実に戻された、そんな感覚に陥る。
こんな、夢遊病の女なんて薄気味悪いだろうに。なぜ隆弘はここまで私に献身的なんだろう。
見捨てられたって可笑しくない、こんな女に。




