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晩餐

帝国の第十七巡回艦隊による強襲を受け、黄金色に輝いていた「虚無の翼号」が雲海へと散ってから数日が経過した。かつての祝宴の余韻は、今や遠い前世の記憶のように霞んでいる。

ウィンカスターへと続く荒野は、ただただ白く、そして乾いていた。冬の凍てつく風が、遮るもののない平原を容赦なく吹き抜け、逃げ場のない冷気を三人の旅人に叩きつける。かつて空を飛ぶ手段を失った彼らに残されたのは、泥と砂にまみれた自身の足跡だけだった。

「……キャンプにしましょう。これ以上、夜の風に体温を奪われるのは『非効率』よ」

先頭を行くハルが、感情の起伏を一切排した声で告げた。彼女の銀灰色の三つ編みには、風に舞った砂塵と霜が混じり合い、無機質な美しさを際立たせている。彼女は極寒の中でも鎖帷子を纏い、肌には寒冷地特有の赤らみさえ浮かべない。精霊に「食われた」その身体にとって、この冬の嵐も単なる空気の流動という物理現象に過ぎないのだ。

不屈の策士、ローランドは、疲れを隠すように黒い上衣の襟を立て、小さく溜息をついた。かつては伊達男らしく銀時計を愛でていた彼も、今は使い古された背嚢を背負い、砂埃にまみれた手で焚き火の準備を始める。

「……さて、今夜の『晩餐』のメニューは何かな、ウィン?」

ローランドが促すと、十二歳の少年ウィンは、膝まで積もった雪と砂を払いながら、大切に抱えていた鞄から配給用の包みを取り出した。鞄の中には、帝国が血眼になって探し求めていた「シャード」が眠っている。かつてロージアの宿屋「レオンハルト」で、イドゥンの癒しの力によってハルの深手を治したあの夜、彼は確かに英雄への第一歩を踏み出したはずだった。

しかし、今、彼の震える手の中にあったのは、新鮮な肉でも芳醇な酒でもなかった。

「……これだけだよ。石みたいに硬いパンと、塩辛すぎる乾肉。それに、少しの凍った水」

ウィンが差し出したのは、かつての祝宴とは対極にある、生存のためだけの最小限の糧食だった。

三人は、小さく爆ぜる焚き火を囲んで腰を下ろした。燃料となる枯れ木さえ乏しいこの地では、炎は頼りなく揺れ、周囲を照らすよりも闇を深く際立たせるだけだ。

ウィンが硬焼きパンを口に運び、力を込めて噛みしめる。ガリッ、という鈍い音が静寂に響いた。

「……硬い。唾液が出ないから、飲み込むのも苦労するよ」

その様子を見て、ローランドが自嘲気味に笑う。

「ロージアの宿で食べた、あの『野猪の薪火焼き』が懐かしいな。厚さ三センチの肉から溢れ出す琥珀色の脂、炭火で炙られた香ばしい匂い……あの時の一切れがあれば、今のこの石ころのようなパンも、黄金のパイに見えるだろうに」

「……喉を焼くような『シュヴァルツァー・ヤック』もな。泥のような色をしていたが、あの酒精は確かに今の僕らに欠けている『熱』を持っていた」

ローランドは、空っぽになったピューターのゴブレットの代わりに、冷え切った水筒を口にした。かつて優雅に赤ワインを嚥下していた面影はどこにもない。

ハルは、ウィンが手渡した乾肉を一切れ、無造作に口に運んだ。彼女にとって「美味しい」という主観的な感覚はすでに失われている。しかし、噛みしめるごとに、乾燥した肉の繊維から染み出す僅かな塩分を、彼女は「維持管理」のためのエネルギーとして、冷徹な論理的帰結を持って受け入れた。

「ウィン、食べなさい。クエスターとしての機能を維持するには、感情に関わらず栄養を摂取する必要があるわ。今の貴方に『イドゥン』の加護を使う余力はないはずよ」

ハルの言葉は突き放すように冷たいが、それは彼女なりの守護の形でもあった。

ウィンは頷き、凍った水で無理やりパンを流し込んだ。

かつて「虚無の翼号」の甲板で、西日を浴びながら、希望に満ちた空気の中で交わした乾杯。

そしてロージアの宿屋で、死線を越えた祝いに笑い合ったあの夜。

それら全ての輝きが、今のこの荒野の食事をいっそう寒々と、しかし残酷なほどに愛おしく思い出させる。

「……ハルさん。僕、ウィンカスターに着いたら、またあんなお肉が食べられるかな?」

少年の問いに、ハルは焚き火の爆ぜる音を背景に、わずかに瞳を細めた。彼女の陶器のような横顔は、オイルランプの炎を反射していたあの夜と同じように、揺るぎない芯を持って、暗闇の先を見据えている。

「ウィンカスターがまだ地図通りの場所にあるなら、可能性はゼロではないわ。歩きましょう。道はまだ続いているのだから」

三人は、粗末な食事を終えると、再び沈黙の中に身を投じた。

冬の風は止むことなく、彼らの体温を奪い去ろうと牙を剥く。

だが、少年の懐にあるシャードの微かな光と、かつての宴の記憶という熱が、凍てつく荒野を一歩ずつ踏みしめる彼らの足元を、僅かに照らし続けていた。

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