3 Fire Spirit
ショッピングモールの制圧に成功したユキノジョーたちは、物資の確保と整理を済ませた後安全圏の内側まで移動する。予想通りエリアの北側には敵が少なく、次の縮小までを無戦闘でやり過ごしたころ、生き残りの数は大幅に減り、残り3チームとなった。
「ひとつは東の方だろうな。さっきまでド派手にやり合ってたみたいだし、勝ち残ったやつらがいるはずだ。もう1個は不明だけど」
「で、どうするんだ? うまいことここまで来れたが、こっからは確実にぶつかるだろ?」
ノイズの言葉に、ユキノジョーもそうだなと頷いた。戦闘エリアは順次狭まり、次に示された範囲はほぼ1エリアのみだ。遠からず、そこで3チームがぶつかることになる。
「農場か。どんなエリアなんだ?」
「背の低い建物がまばらに建ってる場所だ。ロケーションのひとつには数えられてるけど、障害物が少ないし、しかも地形が平坦だから射線が通りやすい」
「射撃戦メインになるってことか」
「そうなる。建物とかあるし歩兵なら麦畑とかに潜むこともできるけど、アルスはまず隠せない」
「つーことは砂がメインか」
「ロケランだと遠距離で微妙にぶれるのがつらいな」
「しゃーない。とりあえずノイズは例によって先行偵察頼む。俺たちもまっすぐ向かおう」
「わかった」
まずはノイズがワイヤーフックで素早く跳んでいき、残りメンバーは警戒しながら前進する。しかし流石にここまできてちまちまと嫌がらせしてくる敵歩兵はおらず、道中は平和に進む。
「見えたぜ。東に1、南に1だ。どっちも農場に向かってる」
「東だけでなく、南の方面でも乱戦になったのかもな。わかった。そうなると、まだ圏内に入ったチームはいないわけか」
なかなかに悩ましい。残り3チーム。理想的なのは自分たち以外の2チームがぶつかり合い、消耗したところで漁夫の利を得ること。しかしどこも考えることは同じだ。理想通りに動いてくれるはずもない。
ならばどう敵同士を食い合わせるか。それについて考え、ふとしたひらめきを思いつく。
「ノイズ、今のうちにバトルライフルを拾えるか?」
ボイスチャットで連絡。敵の本隊が移動中なら、多少の猶予はあるはずだ。
「バトルライフル? あー、あるな。今いる家ん中に丁度ある」
「よし。なら、それを担いでこっちの指示通りに動いてくれ」
「あいよ」
ノイズに指示を出した後、レミルトンとテチにもマップでピン刺しして移動先を指示し、ユキノジョー自身は単身で走り出す。敵の目を避けて目指す先は、平家がほとんどの農場エリアで異彩を放つ、巨大で縦にも高い建物。粉挽きのための風車小屋だ。
中の螺旋階段を駆け上り、上階の窓から顔を出す。ユキノジョーが合図を送ると、受け取ったノイズが早速行動を開始した。
建物の比較的密集している場所に陣取り、単独で東の敵部隊へと攻撃を開始する。
バトルライフルは、現実ではアサルトライフルよりも古くから使われていた銃だ。小口径高速弾が開発される以前に使用されたもので、大口径高威力の弾丸を放つ。
アルスレイジにおいてはスナイパーライフルに次ぐ射程と威力を持ち、かつフルオート射撃が可能な銃としてデザインされている。対歩兵はリコイルで暴れるため使いづらいが、的の大きいアルスに対しては長距離からそれなりに高いダメージを叩き出す手段となる。
ノイズの攻撃に合わせ、ユキノジョーもスナイパーライフルで射撃を開始。ただし狙いは東ではなく、南から来たチーム。隠れ場のない平地を移動しているところ、歩兵のひとりを狙撃する。
攻撃を受けた南の敵は、慌てたように身をかがめながら周りを見渡す。そうして見つけるのは、東側の部隊。ユキノジョーが入り込んだ風車小屋は農場でも東寄りに位置し、南の部隊からだと、東の部隊から攻撃してきたように見えるのだ。しかもこちらのアルスはノイズの攻撃によってダメージを受け、若干煙を上げている。
隙を晒せば喰われるのは、バトルロイヤルの常。南の敵からすれば、東の敵はわかりやすい攻撃対象だ。
もちろん冷静になって考えれば、なぜダメージを受けた状態で仕掛けてきたかなど違和感を覚えることは多いだろう。だが隠れ場所のない状況で現在進行形で攻撃されていて、熟考などできるはずもない。物資がないから回復できないなどと、適当な理由を思いついて納得してくれる。
「いい具合にぶつかったな」
「ああ。ここは待機だ」
敵同士潰し合いになってくれたなら、これ以上手を出す必要はない。あとは決着がついた瞬間に攻め立てて消耗した勝者を食らう。それで自分たちの勝ちだ。
しかし、敵もまた勝ちのために動いている。すべて狙い通りに行くほど、甘くはない。
「東の敵がこっちに攻めてきやがった!」
「はぁ?」
その展開は、ユキノジョーからも見えた。追い詰められたチームがひとりを殿を置いて足止めしつつ、残りが一斉にテチたちのいる北方面へと移動を開始したのだ。
「この状態で2部隊同時に戦うとか、何考えてんだよっ!」
「知らん。こっちの罠に気づいて復讐してるんかもな」
なんにせよ一気に嫌な状況になった。東の敵はすでに死に体だ。ひとりが落ちて、ひとりは殿として足止め。向かってきているアルスともうひとりも、ダメージを回復するいとまがなくてかなり削れている。しかし真っ向からぶつかれば、こちらも消耗は免れない。最悪なのは、消耗したまま南の敵に攻撃され連戦になることだ。それを実現させないためのタイムリミットは、あと少ししかない。
「テチはこっちに移動だ。向かってくる敵を奥の敵と挟み込む位置に陣取る! レミルトンもテチをガードしながら移動」
敵を挟撃する位置への移動。同時にユキノジョーも風車小屋から離れ、テチたちと合流する。これでただでさえ追いつめられた東の部隊はさらに不利になったわけだが、重要なのはそれではない。この位置関係なら、南の敵のヘイトを買っても、間にいるチームがユキノジョーたちにとって盾として機能してくれる。浮きかけていた駒が効いてくる。
「ノイズ。南の奴らを削れ」
「南のほうだな? 了解だ」
返ってきた言葉に頼もしさを感じつつ、ユキノジョーたちは正面の敵を迎撃する。すでにあとの無い敵は無理な突撃を敢行。危なげなく撃退したが、やはり無傷とはいかず、テチの耐久が2割ほど持って行かれた。
「くそっ! やられた!」
「敵はどれくらい削れた?」
「ひとりだけだ」
「十分!」
1対1の交換だが、相手が味方の蘇生を待ってくれれば、立て直すための時間を得られる。
「やつらこないぜ!」
「よしっ!」
敵が復活するのとほぼ同じタイミングでノイズもリスポーンする。状況はリセット。あとは真っ向勝負で雌雄を決するだけだ。
だが、時間が経過するということは、ゲームの段階が進むということでもある。エリア縮小が完了し、次の範囲が表示される。
「敵側かよっ!」
運がない。こちら側が範囲内ならば射線の通らない場所で待ち構えることができたのに、これで自分たちが前に出なければならなくなった。
「よし。最終決戦だ。ノイズは機動力で側面に回って十字砲火をしてくれ。それ以外は正面から撃ち合う。異論は?」
反論なし。よって即座に行動する。
「スモーク焚け! ありったけだっ!」
敵のアルスの主装備は機関砲だ。ロケットランチャーはDPSこそ高いが遠距離射撃の精度に難があり、長距離の撃ち合いではまず勝てない。だからスモークで視界を塞いで接近する。
しかしスモークの範囲は野外で考えるとかなり狭く、農場には射線を切るのに都合のいい建物もほとんどない。煙の範囲から出たところを、敵の射撃が容赦なく襲う。機関砲にミサイル、そしてバトルライフルと、対アルス用の攻撃がテチの機体に突き刺さり、たちまち全身から黒い煙が噴き出す。
「耐久半分! このままじゃ持たんっ!」
テチも反撃を行うが、ロケット自体がぶれるせいで命中率は悲惨。側面に回ったノイズが狙撃で歩兵ひとりを落としたが、テチに与えるダメージのほとんどは敵アルスによるものだ。そしてユキノジョーたちの誰も、この距離でアルスに有効な武器を持ち合わせていない。
これはもう、詰みか。そんな風にユキノジョーが諦観の念を抱いたとき。
「ここなら届くっ!」
ユキノジョーとともに走るレミルトンが、銃を片手に開いた右腕を敵へと向ける。そこから、何かが飛び出した。レミルトンの選択スキル。カタパルトだ。それは機体に内蔵された単発式グレネードランチャーで、使用するのは手榴弾のような投擲武器。ただしレミルトンが撃ち込んだのは、攻撃を行うためのものではない。
突然出現した大量の煙が、敵部隊の姿を覆い隠す。スモークグレネードだ。あらかじめ腕に装填しておいたそれを、直接投げるよりはるかに長射程のカタパルトを使って敵の足元で炸裂させたのだ。
周囲を煙に覆われてしまえば、まともな射撃などできない。当然こちらからもろくに攻撃できなくなるが、得られた空白の時間は値千金。
「でかしたっ!」
稼いだ時間で、距離を詰める。機関砲有利の射程から、ロケットランチャーの間合いへ。さらに煙が消える直前、ノイズがワイヤーフックで突っ込んでいき、混乱の中にある敵歩兵をショットガンにぶち込む。ユキノジョーもまた走るのをやめて一番近い建物の屋根に飛び乗り、煙が晴れた瞬間を狙い狙撃で1キル。これで敵歩兵はすべて片付いた。
だが、油断はできない。テチの耐久はすでに半分以下。機体の全身から煙を吐き、割れた装甲からショートした電線がバチバチと火花を散らす。すでにいつ爆発してもおかしくない状態だ。敵もそれは理解しているのか、やられる前にやるとばかり、近くのノイズなども無視して全攻撃をテチへと浴びせる。テチもまた、望むところだとばかりの全門斉射。さらに前進しつつ大量の爆発物を放つ。ユキノジョー、ノイズ、レミルトンもたいしたダメージにはならないと知りつつ、それぞれの手持ち武器で最大限の火力貢献を果たす。
「さっさと沈めやオラァッー!!」
全力の叫び声が、爆音を切り裂いて響き渡った。
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