第4話 初日から夜ふかし
試合開始直後は広大に感じられたエリアは、そのほとんどが立ち尽くすだけで体力を削るガスが漂っている。
この試合には3人パーティーで挑んでいたが、俺以外のメンバーはすでに1人が天に旅立ち、残ったもう1人も他パーティーの奇襲によりダウンをしていた。フルでそろうパーティ2つに対して物資こそ十分であるものの俺はたった一人だけ。
この最終局面において、一番狙われやすいものは何か。
それは少数の戦力だ。
正面の建物から俺が隠れる家屋にグレネードが投げ込まれるのが見えた瞬間、俺は舌うちをしながら俺はアイテムで加速をしながら建物から飛び出す……ように見せかけて、扉からスキルで生成された分身を走らせた。
その囮に引っかかった敵パーティーが集中砲火を浴びせてくれたおかげで敵の位置を補足。建物の隙間から一瞬見えた相手のヘッドに死ぬほど取り回しの悪いヘヴィーライフルでワンショット。
敵のダウン音が聞こえると同時、こちらの味方が敵のグレネードによって天に召されていく。もう一つのパーティーが静観していることをいいことに、俺は先ほどダウンした敵のパーティへと突貫する。
単騎が突撃する驚きと、先ほどのデコイによって判断が鈍ったのだろう。このレベル帯ならば、俺の突撃に合わせて射撃が飛んでくる程度のことはしてくるはずだが、正面からも横合いからも弾が飛んでくるのが一拍遅い。
閉められた扉にグレネードを投げながら、壁から屋根、そして反対側の扉に降りたつ。その瞬間に先ほど投げたグレネードが爆発した音を確認した俺は扉を開けて敵が籠城する建物へと侵入した。
先ほど投げたグレネードは俺が入ってきた扉とは反対の扉を破壊していた。そこから俺が入ってくると思ったのだろう彼らは破壊された扉に釘付けで、そちらに銃口を向けている。
開いた扉の音に気がつき、こちらへ振り向いたところでもう俺に照準は合わない。
壁や手すりを蹴って移動する俺にたまをかせることもできない彼らにサブマシンガンを順番に浴びせる。1つのマガジンでワンキル、それを二回繰り返して1つのパーティーを壊滅させるも、そんなことを喜ぶ暇はない。
漁夫の利を狙うもう一つのパーティーが、俺のいる建物に接近していた。
「こっから勝ったらえげつないクリップになるんじゃないか!?」
最初のグレネードで削れた体力のまま、俺は敵の装甲をはぎ取った俺は敵を迎え撃った。
★★★
────YOU ARE THE CHAMPION────
俺は手汗で濡れたマウスを手放して夜中にも関わらずガッツポーズをした。そのときに出た物音に俺のベットで寝ていた飼い犬のチャビが顔を上げる。嬉しさのあまりワシワシと頭を撫でてやると、いつの間にか外れていたイヤホンから小さく「Yeaaaaaaa!!!!!」という音声が漏れていた。
この状態で耳につけたら鼓膜が破れるなと思ったので、音漏れが小さくなるまで待って再度耳につける。
「HAYATO!!! ナンでそンなtough!? ドウシテそンなtough!?」
「もっともっと褒めてくれ~!!!」
「You are the best playerrrrrr!!!」
「Hooooo!!!!!!」
俺はいま圧倒的な不利状況だった3vs3vs1の状態から、計6人を叩きのめしてマッチに勝利をしたのだ。こうやって手軽にとってつもない興奮を得られるのがゲームのいいところだ。
喜びをゲーム友達の───テオと喜び合う。テオは終盤まで俺と一緒に生き残っていたのだが、敵の最後のグレネードでやられてしまった。本当はテオを復活したかったのだが、グレネードがテオの目の前に落ちたのが運がなかった。
「ア、でモ。さいごシャヘイをちゃンとツカわズにタタカッたノだめ。クリップねらイにいッたヨね」
「……はい」
カッコよかっタけどね、と褒めつつもテオからプレイの粗を指摘されてしまう。テオと俺は普段は教師と生徒という関係だが、学校の外では友人に近い関係性だ。
同じ趣味を持っていることもあって、一部のやつらを除けば来栖学園の中で最も同じ時間を過ごす人間だ。
「それで、セイトカイってどうなっタノ?」
俺が自分のプレイを見返していると、そんなことを聞かれた。
「何とか入れたよ。色々と問題はありそうだけど」
「それはヨカッタ」
「明日から生徒会に来て仕事をしてくれ、だって。だから、今までみたいに長時間ゲーム出来ないと思う」
具体的な仕事内容は聞いていないが、簡単なものだと考えない方がいいだろう。
思っていたより大変だった場合落差でモチベーションが無くなってしまう。
「それは残念ダ。マあ、ハヤトはモットもとメラれるばしょにイるベキだし……シカタナイ」
テオは本当に残念そうな声でつぶやいた。
まあ、今までみたいに毎日深夜までゲームができないというだけでこれからも遊べるとは思うが。
「セイトカイってどんな感じ?」
「どんな雰囲気かってこと?」
「そうそう」
「うーん、結構いい感じ」
会長は明るく接しやすいし、副会長は厳しそうな人だがなんだかんだ俺の話を聞いてくれる。ついでに言えば2人とも美人であるので、男ならば誰もが羨む職場ではないだろうか。
「フランスって生徒会みたいな組織あるの?」
「あるよ。ボクはやったことナイけど」
「へーーー、もう一戦やる?」
「やろう」
★★★
「……はぁわ」
「滝沢くん、寝不足なの?」
「はい、ちょっと夜中までゲームを」
テオに「もう一戦ダケ」と何度も言われた結果、深夜3時ぐらいまでゲームをしてしまった。おかげで授業中眠ってしまい、青山先生にたたき起こされる羽目になった。
放課後になっても眠いままで、生徒会室に来てあくびをしてしまう。テオも今日学校に来ているはずだが大丈夫だろうか。
「初日からそんな調子で大丈夫かしら」
大丈夫?と気遣った様子で聞いてくる会長に対して、副会長は冷ややかな視線と言葉を向けてくる。
「今はまだ忙しくないからいいけど、体育祭や文化祭が近い時期に仕事の効率が落ちるようなことをされると困るわ」
「おっしゃる通りで。今日から気を付けます」
「当たり前よ」
そう言いながら副会長は書類を見ていた。1枚づつ確認していき、最後の1枚を見終わると紙の束を机に置いて立ち上がる。生徒会室の奥にある棚に近づき何かを探し始めた。何をしているんだろう。
「ねえねえ、滝沢くんってゲームに詳しい?」
俺が副会長を見ていると会長に話しかけられた。
「詳しいかと言われると答えにくいですが、ゲームは好きですよ」
俺がそう答えると会長は嬉しそうにパンッと手を叩く。
「ほんと?」
「本当ですよ。それがどうかしましたか?」
「うん、実はね……」
会長が話そうとしたとき、俺の前にパソコンが置かれた。
「えっと、これは……」
「アナタのパソコンよ。仕事をする時はこれを使いなさい。そして……」
続いて副会長は俺の前に書類をドドンと置いた。これさっき副会長が見てたやつじゃないか?
「これがアナタの仕事よ」
「……多いですね」
中身を確認する、どれどれ?
在校生に向けた広報誌の作成……なるほど。
自動販売機に搬入される商品の変更願い……これはなんだ?
「副会長、この自動販売機の商品変更願いとは何ですか?」
「あぁ、それね。生徒会の仕事の1つよ。職員室前に置かれた意見箱を見たことないかしら。あそこに投函された生徒からの要望をすい上げて、企画書にまとめて学校に提出するの。他にもネット経由で生徒からの要望が来るからそのチェックも必要よ」
「なるほど」
そう言えば、そんなものがあったな。青山先生に呼び出される度に見たのでよく覚えている。もう一度書類を確認したら、意見箱に投函された要望書なるものがいくつも出てきた。
どうやら商品の変更を希望した生徒が複数いるらしく、それが今回学校に伝えることになった理由のようだ。
ペラペラと書類を流し読みしていく。読み進めていくうちに「あれは生徒会がやっていたのか」と感心させられた。生徒会ってすごい組織だな、と感じると同時にこれらを俺がやらなければならないと思うと面倒なとも思う。
「アナタはこういう仕事が初めてみたいだから、私がやり方を教えるわ。出来上がったものもしばらくは私がチェックする、いいわね?」
「問題ないです」
俺が答えると副会長はズイッと顔を近づけてきた。眼鏡の奥で鋭く光る眼が俺を射抜く。ほんと美人だな、この人。
「昨日アナタが言ったこと忘れないから。厳しくいくけど、なんとかしなさい」
「アハハ、頑張ります」
俺は笑ってごまかした。おそらく副会長は「これからの行動を見てください」という俺の発言のことを言っているのだろう。アレは勢い余って言ってしまったのだが、本当に頑張らなければならないらしい。
「滝沢くん、何のこと?」
「昨日会長が来る前に、俺の意気込みを副会長に伝えたんです。多分、そのことかと」
「そうなの?レンちゃん」
「はい。でも、本心で言ったかは怪しいところです」
副会長の視線は冷たかった。だが、期待してくれているだけ昨日よりは温かみがあると言えなくはない。
「もう深夜までゲームはしません」
「次、そんな理由で眠そうにしていたら、つねるわ。それが嫌だったら努力することね」
「滝沢くん、がんばって。困ったら手伝うから」
俺は2人から、それぞれの性格が表れた激励をもらい仕事に取り掛かった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるの!?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にありがたいです!
なにとぞよろしくお願いいたします。




