第36話 体育祭、なににでる?
「えー、もう週替わり丼ないのー?」
「まあ、人気だからなぁ。7月に食えるうな丼の週のときなんて、昼休み前に完売するぜ」
「誰が授業中に食ってるんだよ」
家族全員が弁当用の食材を前日に食い尽くすというポカをやらかした結果、俺は吉川と一緒に学食に来ていた。
両手で数えるぐらいしか来たことがないのだが、いつ見ても人がごった返している。食堂自体はかなり広いのだが、中高合わせて6学年もいれば焼け石に水だ。
人の波をかわしながら俺はカツカレー、吉川はお好み焼きを頼んで料金はICカード(ICOCA)で支払う。どんどん埋まっていく席の中から2人分の椅子を見つけた俺は昼食とともに腰を下ろした。
「滝沢、お前なんの種目に出るのか決めた?」
「まだ。どうせ出られるなら全部出てみたくはある」
「だよな〜? 去年の体育祭もめちゃくちゃ盛り上がったんだぜ」
この学園における今週1番ホットな話題は、もちろん体育祭のことだろう。
今日からだいたい一か月後の6/29,30の2日間を使って中高合同で行われる体育祭は、中高6学年のA・B組を赤組、C・D組を青組、E・F組は黄色組と3チームに分けて総勢1000名以上が参加する。
中学生・高校生が同じチームに所属する来栖学園でも有数の規模を誇るビッグイベントだ。
開催場所も気合いが入っていて、広島の室内スポーツの県予選なんかに使われるアリーナを使うらしい。1000人の中高生とその保護者が入る場所なんてそれぐらいしかないのだ。
以前から体実のSNSや掲示板で紹介されていたのだが、俺たちのクラスでも改めて今日の午前中のホームルームで実行委員である堀北と北爪から参加できる種目の紹介があった。
以前から種目の内容の確認と申込ができたのもあり、出場種目の第一次締め切りは二日後の水曜だ。その申し込み状況から各種目の人数を調整して今週の金曜までには全員が参加する種目を決定するらしい。
そういうわけで月曜である今日から締め切りの二日後まで、必然的に学園内の話題は体育祭が中心となる。
ちなみに、俺たち2-Bは赤組だ。
「今年は玄道や中曽根と組が違うから楽には勝てない……だが、今年はお前がいる!」
ビシッ、と箸の持ち手部分で俺を指す吉川。ニヤッと笑うその歯には青のりがついていた。
「いっしょに玄道と中曽根をぶっ倒すぞ」
「おう、頑張ろうな」
吉川が突き出してきたこぶしに俺もこぶしを合わせる。
普段からこういうノリをしてくるやつなのだが、今日はいつにもましてテンションが高いし話題の広げ方がちょっと雑だ。
こういう雑な話題展開を見た時に思い起こされるのは姉の教えが1つ。『急な話題展開は相談事の合図』だ。
相談事がある人間は、その相談内容をいきなり口にすることに緊張をしてしまうから、遠回しに話を展開して本命の相談をするか、ちょっと関係のない話題から始めて自分の緊張をほぐすものらしい。
ちなみに、この教えは姉の教えの中でもかなり役に立つ部類だ。
そのため、俺は吉川が何を言い出してもいいように心の準備をする。
「ところでさ、滝沢は水沢さんと付き合ってるよな?」
この話題展開はさすがに予想外だった。
「付き合ってないけど、それがどうした?」
「あれで付き合ってないとぬかすなら、俺はお前の目に大人のチョキを食らわせなきゃならねぇ……ともかく、仲はいいよな?」
「少なくともクラスの女子の中では1番」
「だよな……」
俺の返答の何が問題だったのか、吉川が口を開いたり閉じたり視線が泳ぎ始める。
この分かりやすい仕草、なんか見覚えがあるなぁ……あ、そうだ。ひまりを前にした村重くんだ!
「そのさ、阿古屋さんとお近づきになりたいんだよなぁ……」
「阿古屋さんって、水沢とよく一緒にいる?」
「そう、その阿古屋さん」
やはり姉の教えは正しいことが証明された。
阿古屋さんとは、俺たちと同じ2-Bのクラスメイトでおっとりたした印象を持つ水沢の友人だ。俺もたまに話すことがあるのだが、よくニコニコと笑っていて人当たりがいい。
「水沢さんと仲のいいお前に頼みがある!」
吉川が芝居がかった感じで頭を下げた。そのとき、吉川の背後の方にいた友人と目が合ったので手を振った。
「水沢さんに頼んで阿古屋さんと一緒に遊びに行く予定を立ててくれませんか! このとおりだ!」
ガバッと顔を上げた吉川の表情は真剣そのものだ。力になってやりたいが、気になる女子を紹介した経験なんてない。
こいつが自分から話しかけてくれたほうが俺としては楽なんだが。
「……別にいいけど、それぐらい自分で話しかければよくない?」
「滝沢さんのようにモテる人生歩んでませんので、そう簡単に声かけられねぇんですわ!」
見を開いていかにも必死な様子の吉川を見ながらカツをかじる。
「仕方ねえなぁ。要は阿古屋さんと接点が欲しいんだろ?」
「まあそうだけど」
「オッケー。じゃあ、今すぐにその歯についてる青のり取っておけよ」
俺の指摘に吉川が驚いたように自分の歯を確認し始めたあたりで、先ほど俺が手を振ったゲーム友達───水沢がトレイに定食をのせてやってきた。
「滝沢くん、やほ! 吉川くんもこんにちは!」
「水沢さん、ども」
急に水沢がやってきて吉川は驚く。日常的に顔を合わせるクラスメイトであるため、歯を隠しながらもいつも通り挨拶をする。
「2人とも今日は食堂でご飯なんだ」
「そうそう。滝沢が弁当ないっていうんで」
「そうなんだ! 私も今日は食堂で食べたかったからお弁当なしなんだよねー」
「そりゃ奇遇だなー。せっかく会ったんだし、よかったら一緒に食べるか?」
俺の隣の席を指さしながら言うと、水沢はポニーテールを揺らしながら目を輝かせる。
「いいの!? まーちゃんも一緒なんだけど、大丈夫かな?」
そう言った水沢の視線の先には、キョロキョロと周囲を見回す阿古屋万美。通称まーちゃんがいた。
阿古屋さんの存在に気がついた吉川は、歯についた青のりを急いで取った。
「……! ぜんぜん、俺は大丈夫っす!!!」
「俺も大丈夫」
「2人ともありがとう! まーちゃん!!!」
「あーちゃん!」
水沢は俺の隣の席に座り、阿古屋さんは吉川の隣に促す。
「吉川くん、滝沢くん。席一緒でもいいー?」
「も、もちろんっすよ!」
「ありがとう。じゃあ、失礼させてもらうねー」
自分の隣に阿古屋さんが来た吉川は見るからに緊張している。まあ、隣に好きな相手が来たら緊張して当然である。
俺だって会長や副会長が隣に来たらテンションが上がる。
「このメンツでご飯食べる初めてだね。吉川くんとも滝沢くんともあまり話す機会無いから新鮮~」
「……そうっすね!」
「いつも男2人で食べてるから俺たちも新鮮だよ。そういえば、2人とも今日は北爪と一緒じゃないの?」
「さきちゃんは今日委員会の人たちと打ち合わせしながらお昼一緒に食べるんだって」
「昼にもなんかやってるのか。大変だな」
吉川が緊張しすぎていつもほど舌の回転がよくないみたいなので、俺が雑談を振る。
「ところで、2人ともなんの種目出るか決めた?」
俺がそう言うと、阿古屋さんが人差し指をあごにあてながら笑う。
「わたしは借り人競走や、UFOかなー。ドンくさいから怪我せずにできるものが少なくて」
「そうなんすね! いい選択だと思います!」
「ありがとう~」
「私はチャンバラ合戦出てみたいかも。デモ映像見たけど、すごい面白そうだったし!」
「今年の体育祭は初めてやる種目も多いしすごい楽しそうだよねー。滝沢くんと吉川くんは何に出るのー?」
阿古屋さんからの質問に、答えが詰まった吉川の代わりに俺が答える。
「まだ決まってないんだけど、出られる種目はぜんぶ出たいなって話をしてたところ」
「え、2人ともすごいね! 全部の種目っていったらけっこうな数だよ?」
「滝沢くんは身長高いし、吉川くんはサッカー部なんだっけー? 2人とも運動神経いいって聞くし、色んな種目出てくれるの心強いな~」
「あはは、どうもっす」
何でもないようなふりをしているが阿古屋さんに褒められてかなり嬉しそうである。
「まあ、いろんな種目に参加したいんだけど。1個参加しようにも参加できないやつがあって」
「え、なになに?」
「男女二人三脚。参加したくてもペアを組む相手がいないと参加できないんだよ」
読んで字のごとく男女二人でで二人三脚をするという、いかにも青春を生み出すために作られたようなこの種目。参加するためには同じクラスの男女二人がペアを組む必要があるのだ。
この種目、ペアは同じクラス内であれば自由に組めるらしいのだが、そこそこ仲のいい女友達がいないとペアを作るのが難しいという欠陥種目。
だが、その欠陥を乗り越えた先にこそ女子との青春が待ち受けている。
吉川、お膳立てはしっかりしてやったぞ。
「じゃあ、滝沢くん私と一緒に参加する?」
「お、いいの?」
「もちろん! 私も興味あったし!」
「吉川くんも出たいならわたしと一緒に出る?」
「……いいんすかっ!?」
「もちろんだよ〜」
「ありがとうございますっ!」
まさしく計画通り……っ!
水沢と阿古屋さんを見かけたときに、何かあるかもと手を振っておいて正解だった。
阿古屋さんとの二人三脚に喜び、ちょっとデレデレとし始めた吉川。
その様子を見ながら、今度何を奢らせようか考える俺であった。
この話から体育祭準備編に入ります!
いつも読んでくださる皆様がより楽しめる内容に仕上げますので今しばらくお待ちいただけると幸いです!




