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第31話 中等部生徒会

投稿が遅れたとともに、投稿する話を間違えていました!


申し訳ありません!

 2枚目・3枚目のポスターを手早く貼った俺たちは、最後のポスターを貼りに来ていた。


 場所は2階空中廊下。ここは中等部と高等部の校舎、そしてもうひとつ俺が一度も行ったことがない建物をT字のようにつなぐ通路だ。高等部と掲示板はT字で言うなら下側にある。



「ここはね、高等部の職員室に行く中等部の子たちも通るし、中等部の食堂に行く高等部の人たちも使うんだ。だから、ここの掲示板は一番人目につく場所なんだよ!」



 と、会長が力説してくれた。俺はそれを聞きながら最後のポスターを貼る。掲示板にはいろんなものが貼られていて、低い位置に空きがなかったので、今回は俺が1人で貼ることになった。



「ところでマイさん、レンさん。いま質問いいですか?」


「レンちゃん、かわいい後輩から質問だよ」


「……何かしら?」



 俺がポスターを貼っているあいだ、ひまりがふと会長たちに質問をした。レンさんといきなり呼ばれた副会長が驚きながらも返答をする。


 俺も会話に参加したいのだが、どこぞの考えなしがポスターを貼りたい場所に画鋲を何本も根元まで刺し込みやがっていたので、参加ができない。


 耳を傾けながら俺は画鋲との格闘を続ける。



「どうやったらお二人みたいに頭がよくなれるんでしょうか」


「なぜ、そんなことが聞きたいのか理由を聞かせてもらえるかしら?」



 ひまり恒例の唐突質問に副会長が動揺したように尋ねる。お、ようやくすべての画鋲が取れた。



「今日の脱出ゲーム部のお話をレンさんたちとしたとき、わたし1人だけついていけてませんでしたし……レンさんたちのようにいろいろなことを考えるのが苦手な自覚があるのでなんとかできないかと!」


「質問の意図は分かったわ。要は相手の言動の粗を見つけてその裏にある事情を探れるようにはどうしたらいいのか、ということね……それなら私や会長ではなく滝沢くんが適任よ」


「ひまりの質問をそんな風に解釈できる副会長もなかなか適任ですよ」


「あなたには負けるわ」



 軽口を叩きながらポスターをなんとか貼り終えた俺は、指先に痛みを感じながら振り返った。



「でも、実際Eスポーツ部のときといいハヤトくんってよくいろんなことに気がつくよね」


「そうですかね?」



 Eスポーツ部の件は俺がたまたまPCゲームをやっていたから違和感に気がつけただけだし、今回の脱出ゲーム部の件も話の概要を話したら会長と副会長はすぐに違和感に気がついた。


 特別俺が優れているというわけではない。



「俺よか弟のほうがよっぽど賢いと思いますよ」


「センパイ兄弟いるんですか?」


「弟と姉が1人ずつ。弟のほうはここの中等部の生徒会長をやっていて……お、ちょうど目の前に」



 話していると渡り廊下の中等部側からトオルが女の子を1人連れて出てきた。そのまま、まっすぐ中等部棟の向かい側の建物に渡ろうとする前、こちらに気がついたらしいトオルと目が合う。


 すぐに視線をそらしてどこかに行こうとするものの、1度立ち止まって俺のほうへとやってきた。



「トオルくん、チカちゃん。こんばんは!」


「マイさん、お久しぶりです」


「朝比奈さん、こんばんは───会長、お久しぶりです」



 俺は眼中にないといわんばかりの態度で接するくせに、トオルは会長と副会長にうやうやしく頭を下げる。それに続くようにトオルと一緒にいた女の子───チカと呼ばれた子も頭を下げた。


 挨拶を受けた副会長は苦笑して口を開く。



「いまだに会長だなんていわれると、なんだか恥ずかしいわ。もう1年以上も前のことなのに」


「それでも、私たちにとって会長は会長ですので」



 チカちゃんは表情の変化に乏しいものの、副会長に対する尊敬の念が感じられた。


 副会長はその態度が嬉しいのか、ちょっと恥ずかしそうにしていた。それを見たトオルが驚いたような顔をしたあと、俺のほうを見る。



「なんだよ」


「いや、何も」



 ようやく俺に声をかけるのかと思いきや、そっけない態度をされたので、なんともいえない気持ちになる。


 学校だと冷てえなぁ、と思っているとチカと呼ばれた子が俺のほうをじっと見つめていたことに気がつく。



「間違ってたら申し訳ないのですが、もしかして徹くんのお兄さんですか?」



 思いがけない彼女の発言に俺は驚く。



「……そうだけど、よくわかったな」


「よく徹くんからお話を聞きますので」


「トオルくんから俺の話をよく聞く……ほーん?」


「チカ! 余計なことは言わなくていいから!」



 トオルの制止を無視した彼女は俺に頭を下げる。



「私、中等部生徒会で副会長をしております。七瀬(ななせ)千佳(ちか)と申します」


「俺は滝沢隼人だ。そこにいるトオルの兄で、高等部生徒会で役員の1人をしている」


「存じ上げています。どうぞ、気安くチカとお呼びください」



 頭を下げたまま手を差し出してきたチカ。握手を求められていることが分かった俺は彼女の手を取ろうとして……一瞬考える。


 差し出された、その手の意味を。


 ……なるほど。



「よろしく、チカちゃん。俺のことは気安く義兄(にい)さんと呼んでくれ」


「……ぜひ!」


「ばかいうな!」



 チカちゃんと握手しようとした俺の手をトオルは叩き落とした。



「いって!」



 けっこう本気で叩いてきたらしく手のひらに痛みが走る。


 痛みを和らげるために手をプラプラさせている俺を、トオルはにらみつけてきた。



「身内の手を叩くやつがいるか」


「うるさい。というより、ハヤトはこんなところで何をしてるんだよ。早く家帰ってご飯作っといてくんない?」



 ほーん? そういう言い方をすると……兄ちゃん、会長たちの前で弟をいじめる大人げないやつになっちゃうぞ?



「見て分からんか、この頭でっかちめ。俺はいま立派な生徒会活動に従事して忙しいんだ。チカちゃんと2人であっちの校舎に消えていく暇があるなら、お前こそ家に帰ってパスタでも茹でて食っとけ」


「りっぱなせいとかいかつどう~? ボクの聞き間違いかな。天性のてきとう人間のくせにまだ生徒会を続けられてるの? それとも朝比奈さんや会長に多大な迷惑をかけながら、図々しく生徒会にいるんじゃないだろうね!」


「誰が生まれ持ってのてきとう人間だ、仕事ぐらいできらぁ! その証拠に……ほら、この日向ひまりは俺が新しく連れて来た生徒会メンバーだぞ」



 俺がひまりに視線を送ると、慌てた様子でひまりが頭を下げる。



「日向ひまりです! 滝沢センパイにお誘いいただいたことがきっかけで、今日……から生徒会役員になりました!」



 もう生徒会役員ですよね、と確認するような顔を向けたひまりに会長と副会長が頷く。


 それを見たトオルが白々しいほどの丁寧さで挨拶をする。



「日向先輩、はじめまして。中等部生徒会で会長をしています、滝沢徹です。これからお会いする機会も増えると思いますが、ぜひそのときはよろしくお願いします」


「いえいえ! わたし、この学校に高等部から入ってきたので生徒会としてもこの学校の生徒としても滝沢さんの後輩みたいなもので助けていただくことのほうが多いと思います! ですので、いろいろと胸を貸していただけるとうれしいです!!!」



 ニコニコと太陽に笑うひまりに深く頭を下げたトオルは、頭を上げると俺の胸倉をつかむ勢いで迫ってくる。



「めちゃくちゃいい人じゃないか!!! 本当にハヤトの交友関係から連れて来た人か!? そのよく回る油の乗った舌で、言いくるめたんじゃないだろうね!」


「じゃかあしい! 姉ちゃんじゃねえんだぞ! お前こそよくよく回る舌じゃないか。油がしみて火を近づけたら派手に燃えそうだな。おい、ちょっと理科室に行くからついて来いよ。どのライターがいいか選ばせてやる」


「あ、なんだ。今日の晩御飯はタンの焼肉を用意してくれるんだ! やさしいね」


「いやいやそんなんじゃないさ。俺とそれ以外に対して態度が違いすぎる動物のタンだから舌が2枚あってさ。代わりに1枚食べてくれない?」


「誰が二枚舌だ!!!」


「徹くん、じかん」



 ガルル、とにらみ合う俺たちの間にチカちゃんが割って入る。じ・か・ん、というチカちゃんの手首を叩く仕草を見たトオルは俺にひと睨みだけして、会長たちに向き直った。



「お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありません。急いで向かわなければいけないところがあるのでこのあたりで失礼させていただきます」


「急いでいる割にはずいぶんゆっくりと───『滝沢くん、いい加減にしなさい』───はい」



 副会長にそんなことを言われれば引き下がるしかない。俺が黙るとトオルが勝ち誇ったような顔をした。やっぱ噛みついたろうかな。



「この時間から行くところがあるなんて中等部も大変だね」


「今日だけですよ。どうも中等部の部室に高等部の人間が出入りしているって連絡を受けたので、いまから確かめに行くところです」



 ため息をついたトオル。こんな時間から大変だなぁと思っていたのだが、ふと俺はあることが気になった。



「うん? ちょっと待て。トオル、その部室ってあの建物の中にあるのか?」



 俺が指さしたのは、この空中廊下がつなぐ中等部・高等部を除いたもう一つの建物。


 先ほど、トオルは俺たちに気がつく前に中等部側の校舎から出てきて正面にあるその建物に続く通路を通ろうとしていた。


 トオルはめんどくさそうに頷く。



「そうだよ。それがなに?」


「あの建物、俺は行ったことないんだけど何があるところなんだ?」



 俺がそう言うと、なにかに気がついたらしい会長と副会長が互いに顔を見合わせた。それを見たトオルが、俺の質問が単なる興味本位でされたものじゃないと理解できたらしく真剣な表情になる。



「あそこは多目的棟。体育祭や文化祭が近づくと、作業場としてよく使われたりするけど……普段だといろんな中等部の部室があそこに集まってるよ」


「なるほど……トオル、その高等部生が入り浸っているのは何部だ?」


 半ば確信しながら俺は聞く。


 なんで気がつかなかったのだろうか。もしかしたら、連日の忙しさとひまりの件で俺は疲れているのかもしれない。


「クイズ研究部だよ。生徒会のフォームに届いた連絡によると、今年の4月くらいから出入りしているらしい」

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