第27話 脱出ゲーム部の謎解き1
「……じゃあ、日向さんが生徒会に入ったことが決まったから例の件の話にうつりましょうか?」
歓迎ムードが落ち着いたあたりで副会長が切り出す。
「……何かみなさんでお話する予定があったんですか?」
「そうね」
ひまりが俺たちの顔を伺うように見渡す。
「わたしお邪魔じゃないですか?」
「どっちかって言うと、いてもらったほうが助かるな。もう生徒会の人間になるわけだし」
「ということは、わたしにとって生徒会の初仕事ってことですか!?」
「まあ、そういうことになるわね......」
喜ぶひまりを前に副会長が苦い顔をする。副会長の隣に視線を移すと、会長も何ともいえない顔をしていた。
その気持ちがよく分かる。だって、こんなに喜んでる相手にいまから「君の友人が作ろうとしている部活が怪しいから話し合おうよ」と言うのはどうしたって心苦しい。
このまま話の進行を副会長に任せてもいいのかもしれないのだが、ひまりを連れてきたのも村重くんの対応をしたのも俺だ。
「それで例の件とはどんなことなんでしょうか!」
ひまりの熱い視線を受けてたじたじになる副会長から仕方なく俺が話の続きを引き継ぐ。
「ひまり、よく聞いて欲しいんだが」
「はい! お聞きします!」
「俺たち……じゃないな。現状俺は村重くんが作ろうとしている脱出ゲーム部に怪しい点があるように感じている」
「どういうことですか!?」
ひまりがずいっと顔を寄せてくる。
「ひまり、先によくよく言っておくぞ。村重くんの脱出ゲームに対する熱意は疑ってない。むしろ脱出ゲームの熱意を信じるからこそ、どうして脱出ゲーム部を作ろうとしているのか気になってるんだ」
「……どういうことですか?」
納得できない、という感情をにじませながらもひまりは俺の話をしっかり聞く気があるらしい。ずいっと寄っていた顔が離れた。
そんなひまりの様子をニコニコと見ていた会長が口を開く。
「ひまちゃん、友達を疑うのは嫌なことかもしれないけど、部活を作るのに必要な空き教室には限りがある。すべての先生が顧問をしてくれるほど手が空いてるわけじゃない。それに、部活には部費もでる。活動を続けられないのに存在する部活がたくさんあればあるほど、部活を真剣にやりたい人に部費や活動場所が行き渡らなくなって困ることになる。だから、ハヤトくんは嫌われ役を買ってでも脱出ゲームが今後も部活を続けられる状態にあるか見極めようとしてるの。そのことは分かってあげられるかな?」
「……滝沢センパイ、責めるようなことしてすみませんでした。会長も説明してくださってありがとうございます」
申し訳なさそうに頭を下げるひまり。
会長にフォローしてもらっているところ申し訳ないのだが、俺の原動力はEスポーツ部のときと同じく村重くんがなに考えているのか気になるなぁという好奇心の方が強い。
そんなことを馬鹿正直にいっても空気が悪くなるだけなので俺は「分かればいいんだ」という表情で頷く。
「全然大丈夫だよ! 気になることがあったらどんどん聞いてね。それで、話を戻すけど。ハヤトくんは今回もEスポーツ部のときみたいに部活を作る必要がないはずだって思ってるのかな?」
「そうですね……ちょっと自信ないですが」
「Eスポーツ部のときみたいに……?」
ひまりが不思議そうな顔をする。
「滝沢くんがこういうことを言い出すのははじめてじゃないのよ。それよりも、さっき私と話したときは自信がありそうだったのにいったいどうしたの?」
「村重くんに色々と聞いたんですけど、Eスポーツ部のときとは違ってそこまで言動に違和感がなかったんですよね……」
話の筋自体は通っていた。村重くんとの会話で俺が一番気になったのは村重くんの反応なのだが、表情の変化なんて、根拠に使えるわけがない。
「そこまでじゃなかったにしろ、変だなって思うことはあったってこと?」
「はい。もしかしたら無駄話になるかもしれませんが、話しても大丈夫ですか?」
「もちろん」
俺は頭を整理する。
「まず最初に怪しいと思ったのは、時期です」
「時期……?」
「この……脱出ゲーム制作大会ってご存知ですか?」
俺はそう言いながら村重くんが教えてくれた大会のホームページをスマホに表示させて会長たちに見せる。
■■■ 脱出ゲーム選手権:応募要項 ■■■
【エントリー】
20○○年5月27日 23:59までに、企画書を提出してエントリーしてください。
【予選(書類審査)】
20○○年6月20日 までにメールまたは電話で通知。
【本選】
20○○年8月30日、31日で実施
※本選出場団体に選出された方は、8月29日○○から準備日として会場入りしていただきます。
【結果発表】
20○○年8月31日
【本選会場】
東京都内の学校施設 ※後日発表
【参加資格】
20○○年4月1日(火)から同年8月31日(日)までの期間継続し、日本国内に所在する高等学校、高等専門学校または中等教育学校(後期課程)の在校生のみに。
各団体のメンバーは、同一の学校法人に属する学校に通う生徒のみによる、3人以上10人以下の生徒。
■■■────■■■
ホームページを見せるとすぐに自分のスマホでも表示させる会長と副会長。俺のスマホを2人に見せる必要がなくなったので、隣にいるひまりにスマホごと渡して見せてやる。
「この高校生限定の脱出ゲーム大会、有名な謎解き制作会社が主催していて優勝者は全国の系列店でゲーム化されるそうです」
「え、そんな大会あるの!? はじめて知った!」
「俺も今回の件ではじめて知りました。村重くんはこの大会に友達数名と出る予定で、いまもこの大会に応募するための企画を練っている最中だそうです」
「あの……ちょっと質問いいでしょうか?」
俺のスマホを持ったひまりが手を挙げる。
「どうした?」
「この、参加資格のところに書いてある……中等教育学校の後期課程の在校生ってどういうことですか?」
「ああ、そのこと」
副会長が答える。
「うちの学校みたいな中学と高校が一体となった学校......厳密には違うのだけど中高一貫校の正式な呼び方が中等教育学校みたいなものだと考えればいいと思うわ。その後期課程だから、中高一貫校の高等部にいる人間のことね」
「なるほど! 中高一貫校の高校生は参加していいってことですね。ありがとうございます!」
ひまりが深々と頭を下げる。その礼を見て副会長の頬が緩む。
「じゃあ話の続きです。俺が注目して欲しいのは、この大会の応募期限です」
「エントリーのとこかな……うん? 5月27日に企画書を提出ってことはもう一週間もないんじゃない?」
「5月の24日なのであと3日後ですね……なるほど、滝沢くんが疑問に思った理由が理解できたわ」
「え、どういうことですか?」
会長も副会長もピンと来たようだが、ひまりは不思議そうな顔で副会長のことを見る。パソコンは手元にあったパソコンを操作しながらひまりの疑問に答える。
「村重くんという子が本気でこの大会に取り組んでいるのだとしたら、締め切りがあと3日と迫った時期は企画の詰め直しをしたいはずよ。部活の申請がされたのは……中間テスト明けて割とすぐね。大会が近い時期に部活の申請なんて手間のかかることをやるのはちょっと奇妙に感じないかしら?」
「なるほど……言われてみればたしかに」
「副会長がおっしゃった通り、それが理由で村重くんのことが気になりました。優先度が高いはずの大会の準備を後回しにして部活の申請をやる意味が分からなかったです。その理由を聞くと、村重くんは最近部活を作るのが流行っているから早く申請をしないと脱出ゲーム部が作れなくなる不安があるからだと答えてくれました」
「部活申請は早い者勝ちだから筋が通ってるね……」
ふむふむと会長が腕を組んで頷いている。
実際、部活の申請は増えているから部活の申請が遅くなればなるほどいい活動場所が減り申請も通しにくくなる。だが、それらの事情を考慮したうえで。
大きな大会の直前でやる理由ってどれくらいあるのだろうか。
「大会の締め切りが近いのに部活申請をしていると分かった時点で、Eスポーツ部のときと似たような感覚で部活そのものを作る意味が村重くんにあるのではないかと思いました。それで、色々と聞こうとしたときにひまりがやってきて、話の流れで村重くんがクイズ研究部であることを知ったんです。副会長に脱出ゲーム部が気になると伝えたのはこのあたりですかね」
「なるほどそういうことだったんだね! そういえば、脱出ゲーム大会の過去の参加校にクイズ研究部の名前で出場しているところなかったっけ?」
「麻川高等部の『クイズ研究部』ですね……考えてみればクイズが好きな人は脱出ゲームみたいなものも好きそうね。それなのに、わざわざ脱出ゲーム部を作るということはクイズ研の中であまり脱出ゲーム作りは歓迎されてないのかしら?」
「お、鋭いですね。1人村重くんを小馬鹿にする人がいるそうですよ。なんて名前だったかな……」
俺が名前を教えてもらおうとひまりの方を向くと、ひまりは目をつむり口を閉じた状態で口のまわりを膨らませていた。先ほども似たような顔をしていたが、これはひまりなりの不満顔なのか?
「もしかして、九条くんのことかな……?」
「そう! そんな名前です!」
「あぁなるほど……」
「そんな悪名高い人なんですか?」
「自分の意見を遠慮なく伝える人……かな?」
めちゃくちゃオブラートに包んだ言い方だ。相手の事情を考えず自分の言いたいことをぶつける人なのかな?
「そこまで有名な人なら会ってみたいところですが……まあ、副会長が言ったのと同じ理由で俺はクイズ研で脱出ゲームを作らないのかと不思議に思いました。その理由を、村重くんはクイズ研に脱出ゲームを作りたいという人がいないのとその九条という人だと話していました」
「なるほど」
「ただ、この2つは脱出ゲーム制作をクイズ研でやらない理由であって脱出ゲーム部を──「ちょっとお待ちください!」」
俺が話の続きをしようとしたら、ひまりが手を天高く上げていた。
「なんだね、日向ひまりくん」
「いままでのお話を整理するお時間をいただけないでしょうか! 正直に申しますと話についていけていません!」
「正直でよろしい。会長、このホワイトボード借りてもいいですか?」
「もちろん!」
俺は生徒会室にあるホワイトボードを借りて、ひまりが理解しやすいようにペンで文字を書き込んでいく。
「俺が脱出ゲーム部のことが最初に気になったのは、大事な大会が近づいているのに脱出ゲーム部を作ろうとしていたことだ。締め切りがあと3日ぐらいなんだから、部活の申請はそれ以降でもいいはず。それにも関わらず、脱出ゲーム部を作ろうとするのには何か特別な理由があるのではないかと思った。別にちゃんと活動をするなら脱出ゲーム部を作る理由なんてなんでもいいんだけど……その特別な理由が原因で活動が続かなくなっても困るので、村重くんが脱出ゲーム部を作る理由を探ろうと俺は思ったわけだ」
「はい! 理解しました!」
「よろしい。それで、そんなことを考えたあたりでひまりがやって来て村重くんがクイズ研であることを知った俺は、『クイズ研には脱出ゲームが好きそうな人多いし、クイズ研で脱出ゲームを作ればよくないか?』と俺は思った。実際、クイズ研究部で大会に参加している高校もあるし。それで理由を聞いたら、脱出ゲームを作るのが好きな人間がいないのと九条という人が原因だと分かった。ここまではいいか?」
「理解できました!」
「ならよし。これがここまでの話だ」
───ホワイトボード───
・なぜいまの時期に作るのか
→部活づくりが流行っているから
・クイズ研究部でなんで脱出ゲームを作らないのか
→気の合う仲間がいない&九条のせい
─────────────
整理されたホワイトボードを見つめながら俺は口を開く。
「それでここがちょっとややこしいところなんだが、クイズ研に九条という人がいたり脱出ゲームを"作るのが好きな人間"がいないっていうのはクイズ研で脱出ゲームを作らない理由であって、脱出ゲーム部を作らなきゃいけない理由じゃない。ここは分かるか?」
「そこがちょっと分からないです!」
「私もわからないかも!」
大きく手を挙げて答えるひまりに便乗して会長も手を挙げる。2人に隠れてちょっとだけ手を挙げる副会長が視界の隅に映り、俺は自然と俺の口角が上がる。
「了解でーす。簡単に言うと……村重くんは脱出ゲームを作るだけなら高い確率で部活を必要としてない。だから、クイズ研究部で脱出ゲームが作れないからといって脱出ゲーム部……つまり脱出ゲームを作るための作業場所を確保する必要がないはずなんです」
「面白かった!」
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