第25話 ひまりが不機嫌な理由
「ひまり〜? いまの会話に腹が立つことでもあったか?」
俺がそう言うと頰を膨らませたまま、口を開く。
「腹の立つことではないですけど……ちょっと」
「ちょっと?」
「……村重くんが脱出ゲーム部を作った理由が分かった気がしたので」
「あぁーーー、それは……」
村重くんがひまりの言葉に納得したような表情を見せたあと苦笑を見せる。
「なんか特別な事情があるの?」
「うーん、なんといいますか……僕は日頃から脱出ゲームを作るって話をよくしてるんですけど。クイズ研の先輩で、僕のことをよく揶揄ってくる人がいるんですよ。日向さんが気になってるのって、九条先輩のことであってる?」
コクリ、とひまりが頷く。なんとなく事情が読めてきたぞ。
「その九条っていう人が村重くんのことを揶揄る、っていうより冷笑してくるのかな? そういう人がクイズ研にいるから村重くんが脱出ゲーム部を作ろうとしてるとひまりは考えてる……であってる?」
「そう、です……本気で頑張ろうとしている村重くんを悪く言うので」
ひまりがなんとも言えないような表情をしている。
「なるほど。実際そういう理由もあって、脱出ゲームを作ろうと思ったのかな?」
「否定はできないですね……中学からそんな人だったので今さら変わることはなさそうですし」
「九条センパイとやらとは」
頰をかきながら恥ずかしそうに村重くんは答える。
なんというか、思ったよりも切実な状態っぽいぞ?
「苦労してるなぁ、村重くん」
「いえ、好きなことなので全然です!」
本当に好きなんです、と力説されてもいないのにそんな言葉が聞こえそうなほど村重くんの笑顔は健気でまぶしい。
おかしいな。俺も去年村重くんと同年齢だったはずだが、俺があの輝きを放っていた記憶がない。
「村重くん……」
そして、そんな村重くんの光よりもさらなら眩しさをもたらす光源が1人。
俺のすぐ隣でテーブルから身を乗り出していた。
「わたし、手伝えることがあったら何でも手伝う! 勉強ができるわけじゃないしクイズも謎解きも得意じゃないから、役に立てるか分からないけど。体力には自信があるから人手が欲しかったらいつでも言って!」
む、その言い方は?
「……じゃ、じゃあそのうち」
村重くんの返答に俺は肩を落とした。
脱出ゲーム作ったら遊んでくれとかひまりと接点を持てるチャンスだったのに……何をしてるんだこの子は。
仕方ない。
「そうはいっても、実際村重くんの手伝いをするってのは難しいんじゃないか? 脱出ゲームってアイデアが命なわけだから一緒に作る仲間以外に手伝わせるわけにもいかないだろ」
「たしかに、内容が漏れたら大変ですよね……」
「だから、手伝うのは難しいかもしれないが村重くんが作った脱出ゲームを遊んで感想を伝える、みたいな協力の仕方が無難じゃない? 村重くんはどう思う?」
俺がそう言うと、落ち込んだ様子の村重くんが勢いよく顔を上げた。ひまりに見えないように、村重くんに親指を立てる。
村重くんの口が「せ、せんぱい……!」と動く。俺は一度大きく頷いた。
「そ、そうですね! 自分で作ったものを客観的に評価するのは難しいのでテストプレイにはいつも苦労しています! だれか固定でテストプレイをしてくれる人がいてくれたらいいなって思ってました!!! だから、その。えっと───」
視線が泳ぐ村重くんに向かって、ひまりからは見えない角度から口パクをする。
村重くんは俺の口パクに気がついたらしいので、何を言うべきかを伝える。
ひまりちゃんに?
「ひまりちゃんに……」
ゲームをプレイしてもらって?
「ゲームをプレイしてもらって」
感想をもらいたいです。
「感想をもらいたい……です!」
「もちろん! わたしも村重くんの作ったゲームやってみたい」
ふぅ〜〜〜!!!
心の中で歓声を上げていると、村重くんと目が合った。感激した様子だが、直接頑張ったなと伝えることはできない。
俺にできるのはせいぜい腕を組み「よくやった」と深く頷いてやるぐらいだ。本当によく頑張った。
腕を組みながら、村重くんにもう一度親指を立てておく。
うまく事態が進み、ひまりと村重くんがいま以上に接点を持てるようになるのは実にいいこと。
だがしかし、恋愛においてはまだまだ入り口。
俺がサポートできるのはここまでだからあとは村重くん本人が頑張るしかない。
と、ここまで村重くんの応援をしたのはいいが何か大事なことを忘れている気がする……
「あ、そろそろ行かないと」
あ、まずい。村重くんの青春に気を取られて全然聞きたいことが聞き出せていないぞ?
顔から赤みが抜けていない村重くんが生徒会室にある時計を見ていた。
「このあとに用事が?」
「そうなんです。いまのところ部活を作るのには不備等ってないんでしたっけ?」
「……ない」
「じゃあ今日のところは失礼しても大丈夫でしょうか?」
「だいじょうぶ……あぁ、1つだけ聞かせてもらっていい?」
大したことではないから聞くのを忘れていた、という風な感じを装いながら質問をする。
「なんでしょうか?」
「大会が近いのに部活の申請を急いでする理由って何かあるの? 今のままでも脱出ゲームが作れてるってことはゲームを作るための部室が欲しいってわけじゃないんだろ?」
「あぁ、えっとそれは......」
急にしどろもどろになる村重くん。やはりここが重要な部分らしい。
「最近部活を作るのがはやってるので早めに申請をしておかないと、脱出ゲーム部を作れなくなっちゃうかなぁと思いまして......!」
うーむ。たしかに部活申請は早いものがちなので、ここを部室にしたいと思っていても先に申請をした部活に取られるということはあり得る。
「なるほどな、よく分かった。にしても、脱出ゲームなんて手の込んでいそうなものを部室もないのによく頑張って作るな」
「ははは、僕の家や友達の家によくお邪魔させてもらってます」
「そうか……部室が手に入ったらいくらでもそこで作業できる。応援しているよ」
「はい! 滝沢先輩、今日はほんっっとうにありがとうございました!!!」
元気なお礼に、またも俺は腕を組んで深く頷いてしまう。
「うむ......ついでに連絡先を交換しておこう。困ったことがあればいつでも連絡してくれ」
「......いいんですか? ぜひ!」
これで村重くんとひまりの間で何かあれば村重くんの方から相談事をしてくれるかもしれない。
昨日生徒会役員は連絡先を交換してはいけないという話があったような気もするが......同性なら大丈夫だろう。申し訳ないが、こんな初々しい青春いま見なければこの先一生お目にかかれる気がしないのだ。
この胸の高鳴りに免じて会長たちには、ぜひ見逃してもらいたい。
連絡先を交換すると、村重くんは急いで荷物をまとめて生徒会室の扉に手をかける。
「今日は本当にありがとうございました!!!」
「またいつでもどうぞ~」
「はい!!! それと......ひまりちゃんもまたっ!」
そう言ってひまりの返答を聞く前に村重くんは生徒会室に出て行ってしまった。
「もう行っちゃった......村重くんも忙しいみたいですね」
「みたいだな」
ひまりからの別れの挨拶を聞かずに行ってしまうとは……村重くんがどれだけ浮かれていたのかよく分かる。
「ところでセンパイ」
「なんだ?」
「村重くんが作る脱出ゲームの話ですけど、よければセンパイも一緒に参加してくれませんか?」
「え、俺も?」
「はい!」
「......動機は?」
先ほどのやり取りはすべてひまりと村重くんに接点を持たせるため。もっと具体的にいえば2人きりになりやすい環境を作ってやるためだ。
だというのに、ひまりがその環境をぶち壊すようなことを言ったので、驚きのあまりベテラン刑事のように返答してしまった。
「えっと......わたしは謎解きとかクイズとか、頭を使うことがそれほど得意じゃないので。村重くんがせっかく作ったゲームに役立つ感想が言えるかちょっと不安です。だから、センパイが一緒だと心強いなと。センパイ頭よさそうですし」
「うーん、なるほど」
めちゃくちゃ納得できる話だ。。ひまりが言うことも最もなのだが、村重くん的には俺がいないほうがいいだろうし……うーん。まあ、仕方ない。
「俺も予定が合うなら参加させてもらおう」
「ありがとうございます! すごい心強いです!」
一緒にゲームに参加しつつ、奥手な村重くんのサポートをすることにしよう。
そんな風に村重くんとひまりの今後に期待をしながら。
頭をひねりながら副会長たちにどう説明したものかと考えるのであった。
「面白かった!」
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