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第21話 招待されし人間

 それを聞いてひまりがどうして電話をかけてきたのか理解する。


 どう答えたものかと考えながら俺は口を開いた。



「スカウトじゃなくて、招待ならされたぞ」


「そういえば、なんとか招待制みたいな名前の制度でした......ってことは!?」



 通話越しにも息を飲んだのが伝わった。



「お前の察しの通り、俺も特殊なルートでこの学校にいる」



 俺がそう言うと大きく息を吐いた音が聞こえた。



「よかった......もし違ってたらどうしようって心臓バクバクでした!」


「そりゃあバレたらいままでの学費免除がなくなっちゃうもんな」


「はい! 本当によかったです......っ!」



 俺が知る限り、来栖学園の高等部に入学する方法は4つ。


 一般的な学力試験、内申点や部活動実績による推薦、特に学力・芸術・スポーツなど特定の分野で突出した実績を持った人間のみが適用される特待生───これらは他の学校にも存在している制度だ。


 だが、これらに加えて適用者以外の生徒や保護者に知らされていない制度が存在する。


 特別招待入学制度......という名前からしてズブズブそうなこの制度。特待生の亜種みたいなものなのだが、簡単に言うとこの学校の上層部が気に入った生徒を高校からの編入生限定で無料でこっそり入れることができるというめちゃくちゃなものなのだ。


 この激やば制度が知られたら炎上なんて待ったなし。学校だけでなく制度利用者の俺たちもやり玉に挙げられるので、この制度のことは他言無用にときつく言われている。



「ハハハ。ところで、よく俺がゲスト......あぁ、招待されて入学した人間のことを俺はそう呼んでる」


「かっこいいですね! じゃあ私もゲストって呼びます!」


「オーケー。それで、よく俺がゲストって分かったな。青山先生にヒントでももらったのか?」



 情報源はそこしか考えられない。先生のことだから、俺に伝えたように『お前と同じ立場の人間』みたいなぼかした言い方をしたんじゃないかと思う。学校内で制度のこと直接口にしたら裏に連れてかれちゃうからね、仕方ない。



「生徒会にいるわたしと同じ立場の人がいて、その人がわたしに生徒会に入って欲しがっていると青山先生からお聞きしました。直接滝沢センパイのお名前はお聞きしなさったのですが、わたしすぐにセンパイだとピーンときました!」


「まあ、俺以外に生徒会には編入生はいないしな。分かって当然か」


「へ~、センパイ以外全員内部生さんなんですね!」



 ......ちょっと待て。いまこいつなんて言った?



「......まさか、お前生徒会のメンバー構成を把握してるわけじゃないのか?」



 特別招待制度は高校から来栖学園に入学する人間にのみ適用される制度だ。だから、編入生以外にゲストはいない。


 だから、いまの生徒会に編入生が俺1人であることを知っていれば俺がゲストだとすぐに確定できる。


 ひまりがあまりにも真っすぐに俺に聞いてきたから、てっきり確信が得られるだけの情報を調べたうえで聞いてきたのだと思っていたが......



「え、はい。わたしがお顔を知ってるのは滝沢センパイだけですが……」


「……関係者以外にバレたらこれまでかかった入学金と授業料、場合によっては慰謝料を請求するって言われてなかったか?」


「聞きました。だから、もしセンパイがゲストじゃなかったらどうしようってすごく緊張してました」


「マジか……」



 つまり、ろくな裏取りをすることもなく数百万円の請求がされるリスクを背負って俺に今日電話をかけてきたらしい。


 しかも、それで得られるのは俺がゲストだという事実だけ。


 日向家が私立の学費をはした金と思える富裕層なのか。それとも、危機感というものが欠如してしまっているのか。


 いままでの会話からひまりが後者である気がしてならない。



「お前、予想が外れてたらどうするつもりだったんだよ」


「その時は……どうしたらよかったでしょう?」


「ノープランだったのか!?」


「たぶんその場で忘れてもらえるよう頑張ってお願いしてたと思います……」



 誤魔化すでもなく忘れてもらえるようにお願いをする……?


 どこまで真っすぐなんだこいつ。変わり者が入学しやすい制度だと思っていたが、こういうタイプの人間も入学させてるのか。



「まあ、問題なかったんだから今回は別にいいけど......それで、結局今日はどういう用件で連絡してきたんだ? 『私を生徒会に入れたいのはあなたですよね?』とか『あなた私と同じく学校から贔屓されてますよね?』っていう事実確認がしたかっただけか?」


「えっと......それもしたかったことなんですけど」



 今日はじめてひまりの回答が詰まった。ここまで真っすぐなやつが回答に詰まるとちょっと怖いな。


 なに言われるんだろう。



「実はわたし学力試験受けないでここに入ってるのでぜんぜん勉強についていけないんです......」


「ほう?」


「中学校でも成績そこまでよくなかったのに授業スピードも速くて」


「うちは進学校だしな」



 さらにうちの学校に高校から来たやつは中等部の授業進度に追いつくために授業スピードが早いんだよなぁ......そう考えたら学力を無視して入学するようなゲストにとってこの学校ってかなり大変なんじゃないだろうか。


 え、去年一年乗り切った俺すごくない?



「中間テストの結果も散々でした……センパイ、よければどうやって乗り切ったか教えてもらえませんか……?」


「わかったわかった。手伝えることは何でも手伝う」


「ありがとうございます……っ」



 本当に困っていたのだろう。うれしそうな声が聞こえてくる。



「あと、生徒会のことですけど」



 そういわれて、俺がひまりに生徒会の勧誘をしていたことを思い出す。


 そんなことどうでもよくなるくらい、ひまりの人間性に驚いたのですっかり忘れてた。



「どうしてわたしなんですか? この学校のほとんどの人はわたしよりも頭いいと思いますよ?」


「別に頭の良さのみが絶対的な基準ってわけじゃない」



 理由はいくつかあるが全部説明するとくどくなる。そこそこ長電話をしてしまっているし、一部だけを伝えることにしよう。



「俺の代にはもう1人ゲストがいるんだ。そいつが面白いやつなんだよ。だから、今年入ってきたゲストがどんなやつなのか気になったというのが大きな理由の1つ。実際、いまのところ予想外な行動をするという意味で、ひまりに向けた期待は裏切られていない」


「ということは、わたしが滝沢センパイに興味を持ってもらえたのはその先輩のおかげってことですね!」


「まあ、そうだな」



 ちょっと嫌味っぽいことを言ったのにスルーされた。というか、おそらく気付かれてすらいないことに少し悲しくなる。



「それで、これを聞いてお前はどうするんだ? 迷うなら別にいま回答をしなくてもいいが」


「いえ、いま答えます! わたしを生徒会に入れてください!!!」



 なんか千と千尋のシーンみたいだな。



「おう、入ってくれるというならこれ以上嬉しい回答はない。ちなみに何が決め手だったんだ?」


「うーん、ちょっと恥ずかしいですけど......滝沢センパイがいるからです」



 そこに行くのはあなたがいるからです。


 そんなことを通話中に女の子から言われるとは、世の男たちに羨ましがられるシチュエーションだ。


 でも、まあ。さすがにここまで話せば「あなたのことが好きなんです!」という展開じゃないことぐらい分かる。勘違いしやすい言い方をするだけなのだ、このひまりという人間は。



「どういうことだ?」


「えっとですね……わたし、中学のときにいた部活に先輩が1人もいなかったのですけど、ずっと先輩ってどんな存在なんだろうと思ってました。優しい先輩とか、尊敬できる先輩がいるって話を別の部活にいる友達から聞いていたりもしてちょっとうらやましかったです」


「なるほど。俺にも先輩って存在はいなかったからそういう気持ちは分からなくもない。それで?」


「今日ぶつかったとき、センパイからすごく優しくてぜんぜん迷いがない対応をしていただいたときに。友達が言ってた優しくて尊敬できる先輩ってこの人みたいな人かなって思いました。そんなこと思ってたら青山先生からセンパイがわたしと同じゲスト?かもしれないって聞いてびっくりしました。実際、本当にわたしと同じゲストだったのがすごくうれしくて......うまく説明できないんですけど。わたしに中学のときに先輩がいたとしたら滝沢センパイみたいな人かな、と。だから、なんというか......ごめんなさい! うまく説明できないです!!」


「......聞いている限りだと俺がひまりを生徒会に誘ったのと似たような理由な気がするな」


「似たような......ですか?」


「俺は中学のときに部活なんて入っていなかったから、後輩という存在がよく分からない。ただ、来栖に同じルートで入学したひまりが困ってることがあるなら、手助けをしようかなと俺が思うのと似たような......ちょっと恥ずかしいなこれ。いまのは忘れてほしい」


「えへへ、そんなことを思ってくれてたんですね」



 本当にうれしそうな声でリアクションをしてくるので余計に恥ずかしく感じる。



「うるさいうるさい......俺が言いたいのはひまりも似たような感覚なんじゃないのかってことだよ。同じゲストの俺のことを中学で一緒だった部活の先輩のように感じているから、俺がいる生徒会に入ってみたいって思ってるって感じじゃないか?」



 俺にはない経験だが、中学のときに仲がよかった先輩が同じ高校にいる場合、その先輩がいる部活を高校でも選ぶという人間もいるらしい。それと同じことなのではないだろうか。ひまりの感覚的には。



「たぶんそうだと思います! すごくスッキリしました!!!」


「そりゃよかった」


「自分のことではないのにわたしが感じてたことを言葉にできるなんて本当にすごいと思います!」


「......ありがとう。ひまりは色々とすごいな」


「ありがとうございます!!!」




 ここまで真っすぐ褒められることはないので少し恥ずかしくなる。頬をかいたあと俺は1度深呼吸をした。



「ひまりが生徒会に入りたい理由は分かった。話が長くなったが改めて......ひまりは生徒会に入ってくれる、ということでいいか?」


「もちろんです! せいいっぱいがんばります!!!」


「青山先生から色んな部活に入っていると聞いているが大丈夫なのか?」


「実はまだ体験入部期間で、どこの部活にも所属していないので大丈夫です!」




 そういえば1年生には、色んな部活を見て回れる体験入部期間ってのがあったな……1年前のことだからすっかり忘れていた。



「そうか……ま、別に部活をやっちゃいけないっていう規則は生徒会にはないからやりたい部活があるなら続けてもいいからな」


「お気づかいありがとうございます! でも、中途半端にやると先輩方に失礼なので生徒会と実行委員会にだけ入ります」


「分かった。じゃあ近いうちに会長たちにも紹介する。これから生徒会のメンバーとしてよろしく頼む、ひまり」


「はい、よろしく頼まれました! 滝沢センパイ、こちらこそよろしくお願いします!!!」



 携帯から元気のいい返事が飛び出てくる。


 これでお互いに話したいことはすべて話すことができただろう。アプリを確認したら30分近く俺とひまりは話していたらしい。


 明日も学校がある。そろそろお開きにするべきだ。



「じゃあ、今日は夜も遅い。詳しい話はまた今度にしよう」


「了解です! 今日は夜遅いのにありがとうございました!」


「こちらこそ。それじゃあ、今日のところはおやすみ」


「はい、おやすみなさい!」



 失礼します、という言葉を最後にひまりとの電話を切った。続けて送られてくる『今日はありがとうございました!』『これからよろしくお願いします!』というメッセージ。


 律儀なやつだなと思いながら、スタンプを送り返しておく。


 ようやく長電話が終わったので立ち上がると、「やっと?」と言わんばかりの表情をしながらチャビも立ち上がった。


 ようやく生徒会のメンバーを見つけることができたのだ。今度会長たちに予定を聞いて顔合わせの日取りを......あ。


 そこまで考えて俺はとても大事なことを思い出した。



「やっべ......」



 さっきひまりに「これから生徒会のメンバーとしてよろしく頼む」なんてかっこいいことを言ったが、生徒会のメンバーを決める権限を持つのは会長と副会長だけだ。


 たかだか書記の俺に「生徒会へようこそ」なんていう権限はないことを、俺はすっかり忘れていた......!


 「なにやってんの?」と不思議そうな顔をするチャビに見つめられながら、慌てて再びひまりに電話をする俺であった。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるの!?」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にありがたいです!


なにとぞよろしくお願いいたします。

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