第20話 散歩は適度に
後輩とぶつかり、アイドル部の担当となり、副会長とも話した俺は今日もめちゃくちゃ頑張った。
今夜はゲームを軽くやってさっさと寝ようと家に帰ってきた俺を出迎えたのは、リードをくわえた愛犬のチャビだった。
しっぽを振って大きな瞳でこちらをまっすぐ見つめるチャビを、無視することもできなかった俺は鞄を置いてすぐに散歩へ繰り出すことになる。
「ふぅ……」
日が暮れた時間帯、チャビの散歩中に俺の口からふとため息が漏れた。年々暑くなってはきているが、5月下旬の夜はまだ涼しさを感じることができる。
さすがに連日やることが多いうえに、今日は色々とイベントが多いので疲れてしまったのだろう。夜の涼しさがなんともありがたい。
少し前まで自分の周囲がこんなに忙しくなるとは思ってなかった、俺の未来予想図では連日テオとゲームをしているはずだったのだが、それが美人2人と生徒会活動をすることになるとは人生とはまったく予想がつかないものだ。
そんなふうに愚痴っぽく思うものの、美人2人と顔を合わせる日々と、筋骨隆々のゲーマーフランス人とゲーム漬けの日々のどちらが色鮮やかな青春かなんて比べていいものではない。
文句1つ言おうものならバチが当たる。それぐらいに俺がいる環境というのは恵まれていると思う。
「ばふっ……」
ため息をした俺のことが気になるのか、前を歩くチャビが俺のことをたびたび振り返ってくる。
もしかして心配してくれてるのか? もしそうだとしても、疲れて帰ってきたご主人様に容赦なく散歩をねだってきたのはお前だからそんなに嬉しくないぞ、この駄犬め。
一定の速度で俺がチャビとの散歩を続行していると、突然ポケットに入れていた携帯が震えた。
誰かから連絡が来たのだろうか。この時間に連絡をしてくるやつはだいたいテオか姉ちゃんぐらいなのだが……チャビに進路を任せながら俺が携帯を開くと、意外な人間からメッセージが来ていた。
「......ひまり?」
メッセージを送ってきたアカウントのアイコンは向日葵。そして、ニックネームも日向ひまり。他の人間と間違えようもない。
お疲れ様です、という白いネズミが手をあげるスタンプとともにメッセージが2件来ていた。
『今日は色々とご迷惑おかけしました』
『突然なんですけどいまお話する時間ありますか?』
「……急に?」
生徒会に勧誘しようと考えている俺としては、ひまりからコンタクトを取ってくれるのはありがたい。ただ、向こうからこうも距離を詰められると困る。
真偽は分からないが生徒会よりも俺に興味があると言っていたし俺個人に興味があるのかもしれないが……なんでここまで興味を持たれているのか分からん。
高校ですれ違うぐらいはあったかもしれないが、それでここまで興味が持たれることはないだろう。かといって、中学校時代にどこかで会った記憶もない。
もちろん、俺が覚えていないだけだったりひまりが一方的に俺を知る状況にいた可能性もある。
もしかして本当に中学校の後輩だったりするのだろうか? それとも......まさか俺に一目ぼれ!?
色々と考えたが結論が出ないので電話をして用件を聞いたほうが早そうだ。
だが、散歩をしながらだと集中できない。いったん家に帰るかと考えていると、いつの間にか近所の公園の近くにいることに気がついた。
「うん?」
チャビは散歩コースをしっかりと覚えているので、俺が目をつむって散歩をしても勝手に家に帰ってくれる。だから、なにも考えずメッセージを確認したり考え事をしていたのだが。
この公園は散歩コースに入っていない。いつもの散歩コースと違うな、と不思議に思いながらチャビの先導に従って進むと俺は公園の中に入っていく。
そのままチャビの案内に従って進むと、ベンチが現れる。そして、チャビはベンチの前でお尻を地面につけて座った。
「マジかお前……」
俺の言葉に返事はなかったが、レトリバー特有のタレ目が俺を見つめる。
思い返せば俺が携帯を取り出したときから急に進路を変えたような気がしていたが、まさかそのときから俺が座って電話できるようにここへ連れてきたのだろうか。
信じられないがもしそうなら我が飼い犬ながらドン引きである。
知ってはいたが、ここまで賢いとは思ってなかった。俺が考えている以上に人間の会話を理解している可能性がある。
今度どれくらい賢いのか本格的にテストしてみることを心に決めた俺は、ありがたくベンチに座りながら『話せる』『いつでもかけてこい』とひまりにメッセージを送る。
携帯をスリープさせ、周囲を見渡すが誰もいない。これなら電話しても誰かに聞かれることも迷惑をかけることもないだろう。
すぐに携帯が震えたので相手も確認せずに電話に出る。
『滝沢先輩、おつかれさまです』
学校であったときよりも落ち着いた印象を受ける。初対面の印象が強いせいか、いまの落ち着き具合は別人のようにすら感じられた。
「ひまりもお疲れさん、まだクリーニングには出してないからお金の請求を心配する必要はないぞ?」
『その節は本当にすみません……っ!』
「でもまあ、心配にもなるよな。クリーニング代って高校生からしたらけっこうな値段になるし。高校生になりたてのひまりに払えるかな?」
『そのことについては今までためたお手伝い貯金から払わせていただきます……!』
ほんの数ラリー会話を重ねるだけで俺が知っているひまりのテンションになった。さきほどのしおらしさはどこへやら。
「お手伝い貯金なんてあるの?」
『はい! 我が家では小さいころからお手伝いによっておこづかいの額が決まるんです。中学に入ってからは学校の成績や部活の大会の結果しだいでも、もらえるおこづかいがふえたりへったりするようになってて』
なるほど、と日向家のお小遣いシステムに感心しながらふと俺は調べたいことができた。
携帯をスピーカーモードにすることで携帯が耳から離れてもひまりの声が聞こえるようにして、ネットで調べものを始める。
「なるほど、そういう理由でお手伝い貯金と呼んでるのか」
「そうです! あまりお金使うことがなかったので......クリーニング代はばっちりとお支払いできると思います!」
「ほほう……」
思っていた以上に早く調べものが終わったので、スピーカーモードを切って携帯を耳に近づける。
「もっとその話聞いてみたいところだが、今日は俺に話したいことがあるんだろう? さきにその用件を聞かせてもらおうかな」
『はっ、そうでした!』
忘れてたのか。聞いてよかった。
「話すのが楽しくて用件忘れちゃってました......それで早速お聞きしたいことがあるんですけど」
こいつちょくちょく相手を勘違いさせかねないこと口にするやつだな本当に。
「はいはい、なんでしょう」
「今日、青山先生から生徒会に興味はないのかって聞かれたんですけど。青山先生にそのことを頼んだのって先輩ですか?」
ひまりから聞いて俺はちょっと驚いていた。ひまりを紹介してくれと頼んだのは今日の昼だ。だというのに、今日の放課後にはひまりに連絡をして生徒会への勧誘。
そんなに早く動けるならなんで俺が行ったときはやる気なさそうにしてたんだよ、あの人。
「そうだ。俺が頼んだ」
俺がそう言うと、ひまりが電話の向こう側で息をのんだのがはっきりと分かった。
いまのそんなに驚くような話だっただろうか。
「やっぱり......っ! じゃあ、先輩もわたしと同じで学校からスカウトされたんですか!!!」
「面白かった!」
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