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第18話 日比谷と滝沢1

 生徒会室に到着した俺は、大量にいる部活申請者に悲しみを覚えつつもそのすべてをさばいた。胸にチョコの染みをつけながら。


 そのほとんどが色物すぎる内容の部活だったが、今日担当した中で一番気になったのはアイドル部だ。


 部員の中心は1・2年生でオリジナルのアイドルグループを部員同士で結成してショッピングモールやイベントでパフォーマンスをするらしい。


 自作のステージ衣装で現れたのにも驚いたが、さらにCanvaで作り込んだプレゼンを目の前で披露され、さすがに面食らった。


 可憐な衣装を着て「放課後きらめき隊」と名乗った彼女たちの口から放たれる「営業」「マーケティング」「ターゲット層」といった単語。


 ショッピングモールやイベントでパフォーマンスをして認知度を広げて、3歳から6歳を対象にしたアイドルダンスを教えるレッスン教室をやる計画も立てているらしい。


 アイドル部、というよりアイドル事務所じゃないかと思う俺の疑問を除けば面白い部活と人間たちだった。


 前例がないことをやろうとしている以上、想外の問題も起きるだろう。そのたびに相談を受けるのは......生徒会というより部活申請を受け付けた俺になるらしい。


 アイドル部の面々と顔を合わせたそうそう胸につけたチョコの染みとそのいきさつについて聞かれたので正直に話したのだが、どうやらそれが面白かったらしく妙に気に入られてしまった。


 彼女たちとは長い付き合いになるんだろうなぁ。できるアドバイスなんてないから愚痴を聞くだけになるだろうが。



「というか、この仕組みけっこう大変じゃないですか?」


「え、なにが?」



 1日の仕事が終わり帰り支度をしていた会長がきょとんとした顔をする。



「だって、部活の申請を受け付けた人が生徒会への相談の窓口になるんでしょう? その慣習を悪用して距離を詰めて来ようとする人いそうじゃないです?」


「あぁ~」



 俺がそう言うと会長は眉をひそめて困ったような表情をした。


 姉から「美人は毎朝とんでもないほど男からお誘いの連絡が来るものなのよ」というありがたいご高説をもらったことがある。


 実際、大した仲でもない相手から「おはよー」「もう起きた?」「遊びに行かない?」という誘いが朝に……あんま思い出したくはないな。


 ともかく。


 会長と副会長の美人度合いを考えると、相談事というていで連絡先の交換を狙うやつだっているだろう。



「昔はそういう人はいたわ。困ったことがあったら相談したいといって連絡先を……何考えているのかしらね」



 帰りの準備を一足先に終えた副会長が答えてくれる。ちょっと嫌そうな感じで答えていたので、副会長も被害にあったことがあるのだろう。



「だから、生徒会役員個人との連絡先交換は完全になしになったんだよ」


「なるほど……大変だったんですね」


「そうだね……」



 いつも明るい会長のテンションがしなびた花のように枯れていた。


 苦労されたのだなぁと俺がしみじみ感じていると、会長がハッと何かに気がついたように俺のことを見た。



「大変といえば! ハヤトくん、その胸の染みについてずっと聞こうと思ってたんだ!」


「私も気になってたのよね。何があったの?」



 そういえば、まだこのシミについて説明していなかった。だって、そんな暇なかったんだもの。


 鞄を持った俺にトコトコと近づいてきてチョコの染みをまじまじと見つめてくる。何かを感じたらしく会長の鼻がぴくッと反応した。



「……もしかしてチョコレート?」


「え、あたりです。1度拭き取ったのによく分かりましたね」


「そりゃあ大好物だからね~」



 腰に手を当てて胸をそらした会長は「えっへん」という擬音が聞こえそうなぐらい得意気だった。



「会長、滝沢くん。忘れ物はないかしら」


「ないです」「ないよ~」



 忘れ物がないことを確認した俺たちは生徒会室の電気を消した。



「それで、何をしたらこんな大きな円形のチョコじみができるのよ」


「廊下を歩いていたらチョココロネをくわえた後輩の女の子とぶつかったからです」


「……?」


「コロネに空いている穴からぶつかった衝撃でチョコが噴出してこうなりました」


「??????」


「これ以上説明のしようがない事実なんで納得してもらえませんか?」


「現実的に起きそうだけど本当に起きることがあるのか分からない微妙なラインの話だから、話の真偽を疑ってるのよ」


「これが本当なんですよねー。その子が俺にクリーニング代を払うことになったので連絡先を交換したりするために放課後に時間使っちゃったのが、生徒会室に来るのが遅れた原因です」


「……話の筋は通ってるけど」



 顎に手を当てながら考える副会長とともに生徒会室を出る。



「すごい漫画みたいな話だね~! 女の子のほうは大丈夫だったの?」


「けがはなかったですよ。その代わり、顔にべったりとチョコがついてました」


「そっかそっか。ハヤトくんは災難な日だったね~」


「そうでもないですよ」



 現状、生徒会は人手不足な状態なので早いところで人を確保できるにこしたことはない。だから、早めにひまりと会っておきたかった。


 そのことを考えると、トラブルがきっかけとはいえ今日ひまりと会えたのは間違いなく幸運だ。


 全員が生徒会室から出たのを確認すると、会長が生徒会室の鍵を閉める。



「戸締りも完了! 2人とも今日も遅くまでありがとう!」


「こちらこそありがとうございます」


「また明日もよろしくお願いします」



 明日も例のごとく部活申請者の対応をするのだが明日の予定は5組だけ……まずいな。普通に5組も多いのに感覚がマヒしている。


 明日も普通に仕事が多いことに気づいた俺が目頭を押さえていると、会長がジーっとこちらを見ていたことに気がつく。



「ハヤトくんもさすがに疲れちゃったかな? こう毎日忙しいと」


「疲れてないとは言いませんけど、日に日に慣れては来てますよ。大丈夫です」


「むむむ、やっぱり疲れてはいるんだね。特に滝沢くんには新しい役員も探してもらってるし……じゃあ鍵はわたしが職員室に返しておくから2人とも今日はさきに帰って」



 特別早く帰らなければならないとき以外はなんとなく3人で鍵を職員室に返しに行っているのだが。今日は会長が返しに行ってくれるらしい。



「別に鍵くらい私が返しに行きますけど」


「いーや! いつも2人には頑張ってもらってるから早めに帰ってもらいます!」



 会長は「ダメ!」と言わんばかりに両手で大きなバツを作った。


 鍵返しに行く程度で帰る時間はそれほど変わらないので、一緒に職員室に行くぐらい別に構わない。だが、そんなことを言い始めたらそれこそ全員の帰る時間がいま以上に遅くなってしまう。


 ここは素直に任せた方がよさそうだ。



「じゃあ、お言葉に甘えて任せます」


「うんうん! それでいいんだよ~。レンちゃんも早く帰ってね」


「分かりました。鍵お願いします」


「お願いされました! じゃあ二人ともまた明日ね~」



 俺と副会長が鍵のことをお願いすると、鍵をぎゅっと握りしめた会長は職員室に向かっていった。生徒会室前、ポツンと残された俺と副会長。


 赤いフレームの眼鏡の奥にある副会長の瞳と自然に目が合う。



「じゃあ、玄関に向かいましょうか」


「そうね」



 下校時間になり人が少なくなった廊下。俺と副会長の足音だけが聞こえる。


 そういえば、副会長と二人だけで帰るのは初めてだ。校門までの短い時間でも、何を話すべきか少し迷う。せっかくの機会だ、いろいろ話してみたいのだが、いつも会長を入れた3人で帰っていたから二人きりだと何話したらいいか分からない。



「滝沢くん、さきほどのことだけれど……」



 そんな俺の内心を知ってか知らずか、ありがたいことに副会長が話題を振ってくれるらしい。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるの!?」


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