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第16話 コロネが連れてくる出会い

 次の授業がないらしい青山先生とテオに見送られた俺は教室へ向かう。5限目の開始間際だからか、廊下に人は少ない。



「日向ひまりか……」



 俺は青山先生のことが好きなところがいくつかあるのだが、その1つはあまり教師らしくないところだ。当たり前のように特定の生徒をひいきするし、俺を婿にしたいと口にして教頭先生に注意される。


 そんな人間が気に入る生徒というのが一般的というカテゴリーに収まるわけもなく、当たり前のように一癖あるに決まっている。


 そして、青山先生の見立てでは日向ひまりという子は「俺と相性がいい」らしい。聞いている限りだと明るい子だそうだが、いったいどんな子なのだろうか。


 そんなことを考えながら曲がり角を曲がろうとしたら誰かが飛び出してきた。直前まで考え事をしていたせいか、かわすことができず相手を受け止めるしかなかった。


 勢いを殺すために後ろに下がりながら受け止めた瞬間、感じる柔らかい感触。できるだけ柔らかく受け止めたつもりだが、これはまずい。


 俺が距離を取って確認すると、ぶつかった相手はやっぱり女の子だった。俺は両手を挙げて「どこも触ってないよ」とサッカー選手ばりにアピールする。



「大丈夫か?」


「えっ、あ、はい……! すみません、前見てなくて……! 先輩は大丈夫ですか……?」


「俺は大丈夫だよ。気にしなくていいから」


「ほんっとうにすみません!!!」



 彼女は俺を見上げてすぐに慌てた様子で頭を下げた。ショートボブの髪がふぁさ! と揺れる。そのお辞儀の角度、実に90度近く。


 ここまで深いお辞儀を見るのは久しぶりなのでちょっと感動したのだが、どうしても彼女に言わなければいけないことがある。



「とりあえず、君はいまは鏡を見た方がいいかもしれないぞ」


「えっ……!?」


「顔にチョコがベッタリついてる」


「えーーーー!!!!」



 彼女が慌ててポケットを探り始めたので、俺は自分のスマホのインカメラを起動して彼女に手渡した。彼女はおずおずと俺のスマホを受け取って画面をのぞき込んだ。



「ほんとに顔にチョコが!!! あ、先輩の服にもチョコが!!!」



 先ほどぶつかった拍子にチョコが俺の制服にもついたらしい。


 なぜ俺の服と彼女の顔面にチョコがついていたかというと、彼女がチョココロネをくわえた状態で俺とぶつかり、コロネの穴からチョコが飛び出したからだ。


 食パンをくわえて走る転校生にすら出会ったことがないのに、こんなところでチョココロネをくわえて走る女子とぶつかるなんて。


 廊下の隅で転がるつぶれたコロネがなんだか物悲しい。



「えっと、えっと……」


「まあ、これぐらいなら洗えば落ちるはずだ。それよりも急いでたんじゃ?」


「え、はい! 次の授業が体育なので着替えて体育館に行かなきゃいけなくて……!」



 うちの学校では体操服の着替えは更衣室でやることになっている。彼女は手に体操服を持っているわけでもないようだし、このあと一度教室へ戻って体操服を取り、更衣室で着替えて体育館に行かなければならないのだろう。


 そのことを考えると彼女が急いでいたことも納得だ。それに加えて、彼女は顔についたチョコを落とさなければいけなくなった。


 俺自身運よく怪我もないので、さっさとこの件を片付けて先に行かせた方がいいだろう。



「顔も洗わなければいけないだろうし、俺のことは気にせず教室に向かってくれても大丈夫だぞ」


「え、でも。体とか大丈夫ですか? 膝とか腰とか、痛めていませんか?」


「たぶん大丈夫。もし体に痛みがあったら、あとで保健室に行くよ」


「うーーーん、でも……」



 なかなか律儀なやつだな。俺に対して申し訳なさがあるのか、なかなか行こうとしない。


 少し悩んだ素振りを見せた後、「じゃあクリーニング代だけでも払わせてください!!!」と彼女は言う。落とし前を自分でつけようとするとは、なかなか礼儀正しいやつだ。


 別にお詫びはいらないと断ろうと思ったが、お詫びを受け取った方が彼女の気が済むかと思い直して、俺は頷いた。



「俺の名前は滝沢隼人だ。クラスは高等部の2-B、君は?」


「2-B……やっぱり先輩なんですね! 私の名前は日向ひまり、高等部の1-Fです!!!」


「日向、ひまり……?」


「はい! 日向ひまりです!!!」



 マジか、なんて偶然だ。まさかこんなすぐに青山先生おすすめの1年生に出会えるとは。



「……たしかに元気なやつだな」


「はい?」


「いや、なんでもない。それより早く行かなくていいのか?」


「はっ……! じゃあお言葉に甘えていかせていただきます!」


「おう、今度は人にぶつからない程度に走れよ」


「はい! ……走るなではなくて?」


「急いでいたら走るもんだろ。気を付けて走ればいい」


「じゃあ人にぶつからないように急ぎます!」



 次の授業まで時間がないので一度深くお辞儀をして俺にスマホを返した。そして、無残に落ちていたコロネを悲しげに拾った彼女は自分の教室に向かい始める。


 先ほどのことを反省しているのか競歩ぐらいのスピードで歩く彼女の背中を見た後、俺も自分の教室へ向かって歩き出す。


 しかし、午後をどうしようか。チョコをつけたまま授業を受けるのは別にいいが、このシミをつけたまま生徒会室に行ったら絶対副会長に何か言われそうだ。


 そんなことを考えていると「せんぱーい!」という言葉が背後から聞こえる。


 振り返った先、長い廊下の端のほうにある曲がり角の手前で彼女が俺に手を振っていた。



「クリーニング代は必ずお支払いいたします!!! 今日はご迷惑をおかけしました!!!」



 チョコがべったりと顔についていた状態であんなに明るく謝罪を述べる人間を見たことがない。


 彼女が曲がり角を曲がり、姿が見えなくなるまで俺も手を振り返した。

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるの!?」


と思ったら


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