第15話 新規メンバー集めに
俺が通う来栖学園は中学校と高校を同じ学校法人が経営しているいわゆる中高一貫校である。そのため、この来栖学園に通う高校生たちのほとんどは中学・高校を同じ顔ぶれで過ごすことになる。
そうなれば、中等部からこの学園にいる人間は必然的に知り合いが多くなるし全員が幼馴染のようなものだ。だが、その中の例外が高校から来栖学園に来た編入生。
つまり、俺である。
大学受験を意識した中高一貫校特有のカリキュラムに追いつくために、編入生たちは全員が1年間、1つのクラスに集められる。
基本的に人間は見知った人間同士でつるむ動物なので、ただでさえ内部生と編入生は交流しづらいのにそんなことをされてしまえば編入生の交友関係は非常に狭いものになりかねない。
部活や行事に積極的に参加しなかった俺のような人間は特に、交友関係が広がっていかないのだ。
まあ、2年になって内部生と編入生を混ぜてクラス編成がされるいまでも知り合いがそれほど多くないのは、個人のせいなのかもしれないが。
とまあ、色々と理屈を並べるが何が言いたいかと言うと。
知り合いの少なさという理由から人集めという分野において、俺は1番向いていない人材なのだ。
いちおう考えがあってメンバー探しを買って出ているものの、やはり俺の交友関係の狭さを考えれば、この学園に長くいる人に頼ったほうがいい。
というわけで、俺はこの学校について俺よりも詳しく、なおかつ幅広い生徒と面識がある青山先生のもとへやってきていた。
「青山先生、生徒会の新メンバーに適した人材を紹介してください」
「君がここに来た理由は理解した。もちろん協力するが、いい生徒がいればすでに生徒会に紹介しているぞ。他ならぬ君がいい例だ」
「でしょうね」
「なんだかムカつく反応だな。さも自分がいい生徒であると自覚しているような返事をしおって。私が教師だということを忘れていないか?」
「先生に対する敬意はいつも全身全霊をもって表しているつもりです」
「ほんとかあ? まあ、いい。時間があるなら座れ。詳しく話を聞いてやろうじゃないか」
お言葉に甘えて俺は青山先生が勧めてくれた椅子に腰を下ろす。
青山先生に会うついでにテオにも会っていこうと思ったのだが、職員室を見渡す限り見当たらない。
「ところで、テオのやつは離席中ですか?」
「プロテインを作りに行ったぞ。何か用事でも?」
「中間テスト明けにサバゲーに行く予定だったのですが、ちょっと忙しくなりそうなのでまだ行けそうにないと伝えておこうかなと」
青山先生は「えー」と言いながら羨ましそうな顔をする。
「なんだ、そんな面白そうな予定を立てているのか」
「よかったら青山先生も行きましょうよ」
「いいのか? 私はそういう誘いをまったく遠慮しないぞ?」
「じゃあ決まりですね」
テオによるサバゲーレクチャー会に、青山先生も参加することが決まったあたりで本題に入る。
「さて、生徒会のメンバー候補を紹介してくれだったか? いい生徒がいるならばいますぐにでも紹介したいところなんだが、さっきも言った通り目ぼしい人間がいれば、君から頼まれるまでもなく生徒会に紹介している」
「それで生徒会に来たのが俺だけというのは少なすぎやしませんかね?」
本当に仕事してんのかあんた?という気持ちをこめて青山先生を見る。
「私が生徒会に紹介したいと思う人間は、たいてい自分でやりたいことに打ち込んでいるから生徒会をやるだけの余裕がない者。もしくは、生徒会に興味を持っていない人間がほとんどだ。暇と能力と意欲を持ち合わせた人間が、そこら辺をウロウロ歩いているなら世の中は人材不足になんか悩まされることはないだろう?」
「世の中の人材不足のほとんどは、待遇と給与が仕事内容に合っていない。もしくは、即戦力を求めるがあまり育成の手間を省いたり極端に能力のある人間を探しているから起きるものだと思います」
「なかなか言うじゃないか。君が人材戦略にも知見があるとは知らなかったぞ……それで、本題は何だったかな。滝沢と話すといつも話が脱線する。困ったものだ」
「新メンバーを探しているのでいい生徒を紹介してくださいって話です」
「そうそう。そういう話だった。私としては君自身が直接声をかければすぐにすむ話だと思うが。特に玄道なんかは君が頼めば2つ返事で生徒会に入るだろうに」
玄道かあ。正直ありだが生徒会室が暑苦しくなるのでこの時期は却下したい。
「それはそうでしょうけど、どうせ忙しくしてそうなんで却下です」
「たしかに。実際、君の予想通り忙しくしているそうだぞ。今年は体育祭の実行委員長をやっているらしい」
生徒会なんて組織の人事権を、会長と副会長にすべて握らせるのが来栖という学園だ。
自主性を重んじるという言葉を建前に、独裁を半ば認めているように感じるこの学園では、体育祭や文化祭といった行事も例に漏れず生徒が中心になって運営をしているらしい。
玄道はその運営のトップをやっているらしいのだが、相変わらず忙しくしてるやつである。
「あいつ2年ですよね? なんで実行委員長やってるんですか?」
「なんだ知らないのか。うちの学校では3年生は受験があるから、2年生が体育祭・学園祭の実行委員長をやるんだぞ」
それはまったく知らなかった。うちの会長が3年だから委員会のトップは3年生がやるものだと思っていたがそうではないらしい。
じゃあ、うちのように3年生が会長やってるのはレアなのだろうか。
「体育祭が終わった後なら参加してくれるんじゃないか?」
「どうせなら1年に入ってほしいですよ。先生が今年担当しているクラスにいませんか? 俺と似たような、暇を持て余している1年生は」
「なるほどそういうことか!」
青山先生が今年担任を受け持つクラスは来栖学園高等部1-F。去年俺が所属したクラスであり、いわゆる外部生のみを集めたこの学園唯一のクラスである。
「君が欲しがっているのは君と同じ立場の人間か。なるほど、だから私のところに来たのか」
先生は納得したように何度も頷いた。
「そういうことなら君に紹介したい子がいる。たぶん君も気に入るだろう」
「どんな子ですか?」
「君にとって分かりやすい例えをするなら……玄道と朝比奈を足して割って2みたいな子だ」
「……そんな真夏の太陽みたいなやつなんですか?」
「あくまで例えだ。君とも相性がいいだろうし朝比奈や日比谷も気に入るだろう。ただ、」
「なんですか?」
「色んな部活に顔を出しまくっているらしい。体育祭の実行委員会にも参加することになったからもしかしたら生徒会に参加する時間がないかもしれん」
「なるほど……」
「まあ、もともと君と彼女を会わせてみようとは思っていたんだ。彼女には話をしておこう」
……彼女?
「女子なんですか?」
「不満か?」
「いえ、男女比が1:3になるなぁと思っただけです」
俺が生徒会に入るとき会長に「男でごめんなさい」と心の中で謝ったような記憶があるので、新メンバー候補が女子なのは好都合かもしれない。
「両手じゃ足らない花に囲まれて、まさか不満があるわけじゃないだろう?」
「それはもちろん。ところで、その子の名前は?」
「日向ひまりだ」
日向ひまり……陽の気配を感じる名前だ。なんだろう、さんさんとした太陽の下で辺り一面に咲くひまわりの光景が脳裏に浮かぶ。
「またオンナノコの話かい?」
背後からおぼつかないイントネーションの日本語が聞こえたので振り返ると、空のプロテインシェイカーを持ったテオがいた。
わざとらしく眉をへの字にして、悲しみを顔全体で表現している。
「ハヤトがモテるのはワカッてるけど、これ以上ボクをカマッテくれなくなるのはさみしいヨ」
「何の話だよ」
「サイキンはボクじゃなくオンナノコとばかりゲームをしてイルじゃないか。まったくボクとハヤトのbromanceはそのていどのだったのカイ?」
たぶん連日水沢とゲームをしていることを揶揄ってるんだろう。うるせえと言ってやりたいところだが、テオより水沢のことを優先してしまったのは事実なのでちょっと言い返せない。
そりゃあ水沢ぐらい美人な相手からゲームを誘われたら断れない。
「そんな分かりやすいウソ泣きするなよ。今日はテオとのサバゲーの話をするためにも来てるんだから。青山先生も行きたいらしいんだけど、問題なさそう?」
俺がそう言うと、テオは悲しげだった表情をコロっと変えて青山先生に「ハルカも?」と確認を取る。青山先生が頷くとテオは親指を立てた。
「No Problem!!! じゃあスグにいく日キメテいこう。イツにする?」
「そうしたいところだが、滝沢は今後忙しくなるからすぐに予定を立てるのは難しいらしいぞ」
「やっぱりオンナノコか。ハヤトはTeenダカラしかたないけど、ホドホドにネ」
「なぜそんなに俺を遊び人にしたいんだ」
俺が職員室に来た一番の目的は達成できていたのだが、テオと青山先生の3人で話すのが久しぶりだったので俺はしばらく職員室にいることにした。
もっといたかったのだが、青山先生から「授業に余裕で間に合うように職員室を出たまえ」という言葉とともに俺は職員室を追い出される。
しぶしぶ俺は自分の教室へ向かうのであった。
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