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第14話 中間テストの後には

いまさらですが、来栖学園は広島にあります

 現在は5月の下旬、高校生あるいは中学生にとってはそこそこ大事なイベントがある。そう、中間テストだ。


 世の中の高校生の中には中間テストなんてものを重要視してないやつもいるだろう。


 しかし、俺が通っている来栖(くるす)学園は進学校。


 テストに対する真剣度が公立の中学と違う。


 去年は中高一貫教育を受けた内部進学組に追いつくために、俺たち編入生はカリキュラムから違う授業を受けていたから、俺たちのテストの点数や順位が張り出されることがなかった。


 しかし、高等部2年からは違う。内部生たちに混ざって順位を競うことになる。



「ぬわーーー!!! 俺はこんなに順位低いのか!」



 俺の隣で吉川が叫ぶ。



「編入組の中でもそれほどいい方でもなかったじゃん。順当な結果だ」


「そんな正論を聞きたいんじゃねえぜ俺は……さすがにそろそろ頑張るか」



 肩を落とした吉川の肩をポンポンと叩いてやると、目を細めて再び順位表をにらみつける。



「そういう滝沢の順位はどうなんだよ。見つけ出して……俺が勝ってたら勝ち誇ってやる」


「負けてたら何もしないのかよ。んで、俺の順位は───」


「滝沢くんの順位ならあそこだよ」



 俺が自分の名前を探していると、水沢が肩を叩いてくる。振り返ると水沢が順位表の方を指していた。水沢の指先を追ってみるのだが、なかなか俺の名前が見つからない。



「どこ?」


「あそこ」


「……いや、本当にどこだ? 身長差があるせいかまったく分からん」



 あそこ!と指をさしてくれるのはありがたいが、その指の先を見ても俺の名前はない。



「んもう! ちょっと頭さげて」



 言われたとおり頭を下げると水沢が俺の肩を掴んで顔を真横に近づけてきた。そうやって視線の高さを合わせたあと「あそこ」と指さした。


 それでも指の先に俺の名前は無かったので、俺は水沢の視線の先を追っていくと自分の名前を見つけることができた。



「だいたい80位ぐらいか……吉川、なんか感想あるか?」



 俺がそう聞くと、吉川は目をつぶっていた。



「いま、俺はお前を通じて人生で味わったことのない気持ちを感じている……もう何も見たくねぇ」


「耳は聞こえてるから俺の質問には答えられるよな。いまどんな気持ち? ……おい、おもむろに指でバツ作るな。何度も打ち付けるな。ルロイ修道士かお前は」


「でも、あんなにゲームしてたのにけっこう順位高くない?」



 水沢が感心したようにつぶやく。



「まあ、別に低くはないな……水沢、お前の順位は?」


「え……まだ見つけてないかなぁ?」


「そうか……」



 とりあえず俺より上だと仮定して視線を表の上の方へと移していく。途中、知っている名を見つけながら水沢の名前を探したが見つけることができずだいぶ上の方に来てしまう。名前の左に書かれている順位が9になったあたりで水沢ではなく別のよく知っている名前を見つけた。



「さすが副会長……」



 日比谷蓮。我らが副会長の左に書かれていた数字は「1」。つまり学年主席だ。会長も成績がいいそうなので俺が生徒会内の平均学力を著しく下げているということになる。


 今度会長たちに勉強教えてもらおう、と心に決めて俺は水沢の順位を探すことにした。


 すぐに見つかる。俺のちょっと下にあった。



「134位? 俺とそんなに変わらないな」


「……そうだね」


「前の順位はいくつなんだ?」


「……40位台」


「いくらなんでも下がりすぎだろ」


「だって、滝沢くんと一緒にゲームするの楽しかったんだもん……でも、遊びすぎちゃったかな」


「……そうか」



 そういわれると何とも否定しづらい話だった。



「俺のこと無視していちゃつくな。耳は聞こえてるんだぞ、泣いちゃうぞ」



 悲しそうな顔を作りながら吉川がそんなことを言った。



★★★



 中間テストが終われば少しの間、平穏で気楽な学生生活が送れる……のが普通だ。


 俺がいた中学校では、中間テストが終わったことを理由に羽目を外すやつが多かったんじゃないだろうか。それがきっかけで生徒指導室にぶち込まれていた連中もいた。


 すごい記憶に残っているのは、地面にはめられている網でダイコンを1本まるまるすり下ろしながら「これが最新の大根おろしじゃああ!!!」と言ってSNSに投稿したやつらのこと。


 すり下ろした大根の匂いがきつすぎて近隣住民がガスが漏れていると勘違いして消防に通報、そこからSNSの投稿が発見されて学年主任から大説教をくらうという綺麗なピタゴラスイッチを知ったときは大爆笑したのをよく覚えている。


 まったくもって馬鹿げた話ではあるのだが、なんで大根をすり下ろした匂いをガス漏れと勘違いしたのかと疑問に思って調べることで、大根をすり下ろしたときに出る臭いにはガスの匂いと同じ硫黄成分が含まれているという雑学を手に入れることができた。


 彼らは身を以って俺に学びを与えてくれたのだ。


 感謝せねば……とまあ、そんな馬鹿の話はさておき。


 この来栖学園でも中間テストが終わった直後は緩い雰囲気が流れる。


 教室にいても「カラオケに行こう」「スタバに行こう」「映画を見に行こう」といった話がチラホラ聞こえてくる。


 だが、こと生徒会に至ってはそうも言っていられない。以前から副会長に聞いていたのだが、一学期の中間テスト以降、具体的には5月の下旬から生徒会役員は忙しくなるのだ。


 6月の下旬に体育祭があり、体育祭が終わったらそうしないうちに期末テスト。夏休みが入ったら秋の文化祭の準備が本格的に始まる。生徒会は体育祭と文化祭を主導こそしないものの運営に携わる。


 大きなイベントだけを数えてもこれだけあるのに、生徒会は合宿や地域のイベントに参加の予定もある。


 こんなスケジュールを伝えられたあと「だからこれから忙しくなるけどよろしくね♪」と会長に言われて「えぇ……」と俺がドン引きしたのが中間テスト前のこと。


 この学校の人間は下手な社会人よりも忙しい生活をしているのではなかろうか。


 高校生になる前は漫画やアニメを見て「高校生ってこんなことすんのか」と思っていたが、どの作品でもこんなに忙しい高校はなかった。我ながらとんでもない高校に来てしまったものだ。


 とまあ、こういう話を聞いていたので中間テスト後は忙しくなるという認識があったのだが、今年はとある事情により例年よりもさらに忙しくなった。



「奉仕部......これはいったい何をする部活ですか? 学園内の困りごとを手助けするですか。それだったらボランティア部という名前の方がいいと思うのですが。どうしてもこの名前がいいんですか? 理由を聞かせてください。好きな作品に登場してきた部活で......そういう理由なら却下、ですね。え、なぜこの名前がダメなのかですって? 卑猥な感じがするからですよ」


「活動目的は人生の勝負強さを身につけるために卓上ゲームをする部活。部内の成績を独自の印刷がされた紙の保有量で決める......なるほど。これうまく表現してますけど要するに校内で賭博やろうとしてますよね? この独自の印刷された紙って紙幣のことじゃありません? ほぼペリカじゃないですかこれ」


「占い研究部はすでにあるのでそちらに入るのもありだと思いますが……やりたい占いがあるけど既存の部活ではできない? どんなのですか……はいはい、まずひらがなが書いてある紙を用意する。それで占いをしたい人の大切な品を紙の上においてその品の上に指先を置く……あーはいはい。それ占いじゃなくて降霊術っすね……許可は無理です。お出口はあちらです。次の特撮演技部の方こちらにどうぞ!!!」



 ことの発端はEスポーツ部の設立だ。全国的にもEスポーツ部がある学校も増えてきているが、まだまだ下火。そんないかにも保護者や学校運営からの反対がありそうな部活が設立したことで、「俺もいけるんじゃね?」と思った生徒が押し寄せて来るようになったのだ。


 物珍しい部活ができた程度でそんなになるか?とも思ったのだが、メディア系の部活がEスポーツ部を取り上げて「夏に負けないデジタルな熱き青春!」みたいな感じでSNSに投稿したショート動画がバズったのが原因らしい。


 その動画に影響を受けたやつらが、ろくな計画も立てずに「オラ、部活作りてぇぞ!」と勢いだけで押し寄せてきているのでマジで大変だ。


 ラノベや漫画に出てくる部活を作ろうとしたりするのはまだいい方で、限りなく黒に近いグレーな部活を申請してきやがる。目の前で当たり前のようにウィジャーボードなんていう降霊道具を出されたときは叩き割ってやろうかなと思った。


 そんなこんなで体感8割が論外なコンセプトの部活だったものの、生徒会という組織である以上無視するわけにもいかず一つずつ丁寧に「テメーはだめだ」と打ち返さなければならないのだ。


 「これこれこういう理由でダメです」と言うだけで納得してくれたらいいのだが、「それでもぉ!!!」と己の可能性を信じて言い返してくるので厄介この上ない。


 そんな連中を数時間かけて片づけたあと、俺は生徒会室にあるソファに腰掛けながら会長がいれてくれた冷たい麦茶をのどに流し込んだ。


 くぅ~、カラカラになったのどに効く~!!!



「かぁ!!! さすがにこの人数をさばくのは大変ですね……」


「滝沢くんいい飲みっぷりだね〜」



 隣に座った会長がパチパチと感心したように手を叩く。



「でも、ほんと。私もここまで部活の申請が増えるとは思わなかったよ……」


「SNSの影響力をここまで実感したのは俺生まれてきてはじめてですよ」



 そのバズったプロモーション動画とやらを見たが、バズった原因というか元凶は動画に出ていた水沢で間違いない。


 Eスポーツなんてジャンルであんなポニーテールが似合う明るい美人が部長やってたらそりゃあバズりもする。動画にコメントが載せられないようにしていたのはいい配慮だが、のせられてたら8割ぐらい水沢に関するコメントだったに違いない。



「だね~。そう考えると生徒会もSNSにもっと力を入れるべきなのかも」


「やるとしたらどんなことやります?」


「3人で踊ってみる、とか?」


「断固反対です」


「ふふ、冗談だよ~。わたし運動ぜんぜんだめだから絶対上手に踊れないもん」



 クスクスと笑う会長に癒されながら会長が踊っている姿を想像する。


 うーん、下手くそだったとしても需要があるだろう。


 副会長が踊ったら? そんなもん一生のお宝映像ですよ。



「まあ、SNSのことは置いとくとして。体育祭も近づいている現状でここまで忙しくなるはよくないんじゃないですか? これから体育祭の運営や練習も始まりますし」



 俺がそう言うと、会長が腕を組んで悩ましそうな表情で下を向く。



「それはそうだね......」


「いくら会長と副会長が仕事できたとしても、3人態勢だと限界があります」


「たしかに。こんなに頑張ってるのにすでに外は真っ暗......ではないけども!」



 会長が顔を上げた先にある窓の外は、たしかに真っ暗ではない。もうこんなに遅い時間だと言いたかったのは理解できる。



「真っ暗ではないですけど7時手前。かなり遅い時間ですよね」


「そう、だいぶ遅い時間! 遅い時間に帰ることになるのは私は気にならないんだけど、レンちゃんや滝沢くんと話す時間が減っちゃうから嫌だなぁ」


「会長は3年生ですから残った時間は大切ですよね」


「うぅ、いわないで......もうちょっとで卒業になっちゃう。いやだ、まだ生徒会にいたい」


「会長が思い残すことがなくなるように一緒にたくさん思い出つくりましょうね」


「滝沢くん……いや、ハヤトくん! なんていい子なんだ君は!?」


「もっと生徒会で一緒にいたいのが会長だけだと思ってもらっては困ります......!」


「......わたし、ハヤトくんが生徒会に来てくれてよかったっ!」


「俺も会長が生徒会にいてくれてよかったです......満足しましたか?」


「うん、大満足! あと、これからはハヤトくんって呼んでいい?」


「もちろん」


「やった!」



 キラキラとした表情で会長は頷いた。


 どうも会長はこういう感動ノリが好きらしくたまに俺にふっかけてくる。副会長は乗ってくれないというより乗り方が分からずオロオロするらしいので、俺でその欲......は言い方が卑猥だな。その飢えを満たしているらしい。


 満足した会長は冷静になったらしく、不思議そうな顔で首をかしげた。



「......それで、なんの話してたっけ?」


「人手不足で帰る時間もそこそこ遅くなっているので新しいメンバーを探すのはいかがでしょうか......という話をしたかったんです」


「そういうことか......っ!」


「いかがですか副会長?」



 今までまったく会話に入って来なかった副会長に話を振る。自分のパソコンに向かっていた副会長が顔を上げる。



「......私も3人では緊急事態が起きた時に破綻する可能性があると思っていたから賛成よ」



 お、俺の生徒会入りを最初あんなに渋っていた人だからてっきり反対するかもなんて思っていたが。



「じゃあ新規メンバーも並行してやるで決まりですね……明日も7組生徒会に来る予定ですが」



 ちらっと聞いているのだが、体育祭と学園祭の準備はこれ以上に忙しいらしい。冗談かと思う話だが、これが事実ならいまのうちから新メンバーを捕まえたほうがいい。


 この部活設立ラッシュが終わるまでに見つかる保証はないが......くぅ、新メンバー見つかるまで3人態勢でやらないといけないのは大変だ。



「うっ……人手不足で苦労させちゃってごめんね」


「こればっかりはしょうがないですよ。この時期に部活設立ラッシュで忙しくなるなんて予想もできないですし」


「ごめんね……SNSや掲示板でも募集はしてるんだけど」



 会長が珍しく乾いた笑みを浮かべる。



「ちなみに、分かったらいいんですけどこの部活設立ラッシュの忙しさってどれくらいで落ち着くか分かりますか?」


「ここまで部活申請が立て込むことが無かったから詳しいことは分からないけど......早ければ今週末、もしくは来週の始めには落ち着くと思うわ」


「了解です。じゃあ生徒会全体での本格的なメンバー集めは来週ぐらいからにして、来週までは俺だけメンバー集めに動いてもいいですか? 部活設立の業務には支障が出ないようにします」



 俺の提案に副会長は眉をひそめた。



「飲み込みが早いとはいえあなたは生徒会に入ったばかり。慣れない仕事をしている上にこれ以上負担を増やしてうまくこなせるの? ただでさえ人手が欲しいのにあなたが潰れたら本末転倒よ」


「心配してくれてありがとうございます。ですが、安心してください。評価を落とさずに手を抜くことには自信があります」


「あまり褒められた特技じゃないわね」



 言葉は辛辣なものの、副会長から怒っている感じはしない。



「ただの冗談です。ただ、どうにかなりそうな心当たりがあるので頑張ってみます」

「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるの!?」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にありがたいです!


なにとぞよろしくお願いいたします。

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