第11話 知っていることを教えて
「うーん、そっか……」
俺の発言に対する会長の反応は、半ば反対していることが伝わってくるものだった。水沢の事情を了承もなくこそこそと聞き回ろう、と言われたら普通はこんな反応をするだろう。
特に生真面目そうな副会長はこの手段に反対をするだろうから、俺は2人に黙って調査を進めようとしていたのだ。
「……仕方ないわね」
副会長が呆れたようにそう呟いた。
「Eスポーツ部という珍しい部活を設立するから、他の部員に対する聞き取り調査も必要だと判断した……という名目で、水沢さん以外の人たちだけ呼び出して話を聞くのはどうでしょう? 会長」
副会長がそんな風に会長へと提案した。まさか、副会長が俺の案に賛同してくれるとは!
「言っておくけど、今回だけの特別な措置よ。注目度の高い部活がすぐに廃部したら、設立を許可した生徒会の責任になるだろうし、これからも新しい部活ができると考えたらよくない前例はない方がいいから……滝沢くん、分かってる?」
「ええ、もちろん。分かってますとも」
やばい。副会長がすごくかわいい。ツンデレって現実だとウザいだろと思っていたが、なるほど良さがすごくよく分かった。
ニヤケそうになるのを抑えながら、会長に視線を向けると先ほどまで悩ましそうにしていた表情が無くなり、意を決した表情になっていた。
「うん、やっぱりその方法は取れない。他の部員の人たちにも話を聞くならやっぱり水沢さんも一緒にいなきゃだめだ。生徒会は、会社の監査機関じゃない。そんなだまし討ちじみた手で他の生徒のみんなから信頼が無くなるようなことをしちゃだめだ」
すげえド正論だ。反論のしようが無い。
チラリと横を見ると、副会長もいまの意見に正当性があると感じているようだった。
「……会長にそのように言われては反論のしようが無いですね」
水沢抜きにして話を聞かなければ、水沢が当たり障りのない答えをするだけで部活が立ち上がってしまう。もちろん、今後のことを考えた水沢が生徒会に事情を話してくれないかもしれないが、それも絶対ではない。
それぐらいのこと、この人たちは理解している。
「ごめんね、滝沢くん。でも、これは譲れない」
「分かってますよ。会長は間違ったことは言っていません」
副会長といいこの人といい、真っすぐに意志が強くていらっしゃる。
「ありがとう。代わりといってはなんだけど、今度Eスポーツ部のみんなを呼んで話を聞くからその時に滝沢くんも同席して今の話をしてもらえないかな?」
コテン、とかわいらしく首をかしげる会長に俺は頷いた。
★★★
と、まあ。一度は頷いた俺であったが、素直に言うことを聞くわけもなく。勝手にこちら側で調べさせてもらうことにした。といっても、俺にできることはもうほとんどないのだが。
「じゃあ今日の活動はここまでね」
Eスポーツ部への対応の方針を決めたあと、俺たち生徒会はいつも通りの業務をこなした。少しづつ慣れ始めた仕事に手ごたえを感じながら、俺は副会長のPCに作った資料を送る。
「……まあ、いいでしょう」
副会長なりのOKをもらったので、俺は帰り支度を始めた。会長や副会長も帰り支度を終えたタイミングで一緒に外へ出る。
「みんな忘れ物はない?」
会長の確認に俺と副会長は頷いた。会長が鍵を閉めるタイミングで、俺のポケットから携帯を取り出して画面を開く。別に何の連絡も着ていないのだが、この動作が重要なのだ。
「あ、会長。生徒会の鍵、今日は俺が持って行ってもいいですか?」
「うん? 別にいいよ~」
そう言って、会長はこころよく俺に鍵を渡してくれた。何も疑わずに鍵を渡してくれるなら、スマホを取り出す必要はなかったか。
「滝沢くんは晩御飯を作る必要があるのでしょ? 早く帰った方がいいだろうし、私が行くわよ」
副会長から俺に鋭い視線が飛ぶ。やはりこの人には感づかれるような気がしていた。
「いや、今回は俺に行かせて欲しいです。いまさっき青山先生に呼び出されてしまって……たぶんさっきの件について話があるのかと」
たぶん怒られます、という雰囲気を醸し出しながらアピールするように携帯を振って見せる。すると、副会長はそれ以上は追及してくることはなく「そう」とだけ呟いた。
もちろん、青山先生から連絡は来ていない。
できるだけ早く青山先生と二人で話したかったから、俺は嘘をついた。
「そう言えば、会長。水沢さんたちから話を聞くのをいつになりそうですか?」
「さっきレンちゃんに都合のいい時間がいつかってメッセージ送ってもらったから、水沢さんの返事次第かな」
「了解です」
「滝沢くんにも同席してもらいたいからさ。返事が来たら教えるね!」
「ありがとうございます。では、今日はこれで」
俺は会長から鍵を受け取って、その場から立ち去る。
「滝沢くん、また明日ね!」
「……また明日」
2人の声を聞いた俺は振り返る。会長は満面の笑みで手を振りながら、副会長は鋭い視線を飛ばしながらもこちらに別れの挨拶をくれた。
「また明日」
そのことに若干の罪悪感を覚えながら、俺は教室へと向かうのだった。
★★★
職員室の明かりがついているのを確認して中へと入る。未だにまばらに教員がいるが、目当ての青山先生は一人でパソコンに向かい合っていた。
俺が職員室に入った時点で、俺のことに気が付いたらしく視線を上げて「お」という顔をした。先生は辺りを見渡した後、「私か?」と自分を指差したので、俺は頷いて先生の元へと向かう。
「こんな時間に私の元へ来るということは……鍵か?」
「それも、ですね」
「いやな言い方をするじゃないか」
先生が手のひらを差し出してきたので、俺はその上に鍵を置く。先生は鍵を机にしまいながら、俺に椅子をすすめてきた。こちらが用件を口にする前に、話を聞くという態度を示してくれる青山先生のこういうところが俺はけっこう好きだ。
ありがたくその椅子に座る。
「それで、私にどんな用があるんだ?」
「さっきの話の続きです。率直に聞くんですけど、先生は水沢がEスポーツ部を立ち上げようとする理由について知ってますよね?」
その問いかけに、青山先生は否定をしなかった。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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