第六話 乞食をなぎ倒し、阿修羅の片鱗
「二人とも、早く逃げな!」
お梅は後ろにいた梵寸と華をドンと押した。
「きゃっ!」
華は押された勢いで草むらに転がり込む。
梵寸はとっさにお梅の腕をつかみ、逆に草むらへ押し流した。
「きゃっ!? 梵寸、待って!」
お梅の手が空を切り、そのまま草むらに消えた。
目の前に立ちはだかるのは、棒を構えた山田源次郎。
振り上げられた木刀が、梵寸の額を狙う。
その刹那――。
梵寸の体が前へ弾けた。
木刀を振り下ろすよりも速く、右拳が山田の鳩尾に突き刺さる。
「ぐはっ!」
山田は血反吐を吐き、膝から崩れ落ちた。
もがく間もなく、梵寸の膝が背に乗る。
動きを封じられた山田は白目を剥いた。そして、次の瞬間に股間から温かな液体がにじみ出た。
「ひゃあ! ば、化け物……!」
残りの二人の乞食が悲鳴を上げ、山田を抱えて転がるように逃げ去っていく。
静けさが戻った草むらから、お梅と華が顔を出した。
「梵寸! いつの間にそんなに強くなったんだい!」
お梅の声は半ば震え、半ば興奮していた。
華は安堵の息をつき、その場にぺたりと座り込む。
――わしが過去に戻ってきたことは、今は伏せておくべきじゃろう。
今の力の理由を説明するには、その事実を話さなければならない。
だが、それはまだ早い。
「実はのう……わしは武力を隠しておったんじゃ。皆を驚かそうと思うてな」
右手で両目を隠し、軽く笑ってみせる梵寸。
華はじっと兄を見つめた。
「そんなの変だよ。本当に……にいになの?」
小首をかしげる瞳に、疑いが混じっていた。
梵寸は胸の奥で小さく息を呑んだが、顔色一つ変えず頷いた。
――今はまだ、信じさせるしかない。