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乞食からはじめる、死に戻り甲賀忍び伝  作者: 怒破筋
第一章 乞食から忍びへーー死に戻った梵寸の再起
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第十九話 封印の洞窟と霊丹の製法

翌朝。霧の立ちこめる山道を抜け、梵寸は剛蓮と静雅の二人に導かれて進んでいた。辿り着いた先は、岩肌が裂けてできたような洞窟である。その入口には、ただならぬ気配が漂っていた。


「……これは、ただの封印ではないな」


梵寸は一歩足を止め、背筋を粟立たせる。目に映るだけで理解できた。強烈な結界──いや、悪しきものを滅するために築かれた“役小角の呪法”そのものだ。

彼の脳裏には、死に戻る前の記憶がよぎる。織田信長に交渉の遅れを咎められ、役割を外されたこと。そして、その後に待ち受けていた役小角の里の滅亡。松永久秀の三百の兵が里を襲い、勝利を収めたはずが、生還した者はわずか五十余りだったと聞く。


『……これほどの結界が里に張り巡らされていたなら、敵も骨を折ったはずだ』


剛蓮と静雅が前に立ち、印を結ぶ。


「ノウマク・サンマンダ・バザラダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウンタラタ・カンマン」


二人が低く唱える真言と共に、空気が震え、重苦しい圧が剥がれるように消えていく。結界が解かれ、洞窟の奥へと足を踏み入れることができた。


内部はひんやりと冷たく、石壁には古の符や護符が貼りついている。やがて、小部屋に辿り着いた。部屋の中央──そこだけが眩い光に照らされたかのように聖気に満ち、二冊の古びた書が鎮座していた。

 ほかにも刀剣や法具が飾られていたが、比べるまでもなく、その書こそが中心であると誰の目にもわかった。


「これが……役小角の秘伝書か」


 剛蓮が厳かに二冊のうちの一冊を手に取り、梵寸へと渡す。


「役行者の秘伝書は二冊。まずはこちらを読むがよい。もう一冊は……役行者えんのぎょうじゃが強力な結界を施して以来、秘伝書のページを開いたものはいない。だが、そなたには見る機会を与えよう」

「秘伝書に触れたものは半分が死に、半分は大怪我をした。そなたは恩人だ。決して死ぬでないぞ」


そう発すると二人は外に退き、梵寸だけが残された。

梵寸は、死など恐れずページを開いた。その瞬間、梵寸の瞳が鋭く光った。彼はただの“強い子供”などではない。甲賀忍者の頂点に立った者──その記憶力と学習力は常人を遥かに超えている。


 一度読んだ書はすべて脳裏に刻み込む。図解も文言も、まるで墨を吸う紙のように記憶されていく。紙をめくるたび、修験道の奥義が次々と彼の内へと流れ込んでいった。


「……ほう、これは霊丹か。その製法──」


 そこに記されていたのは、神気を補い、丹田を強化する秘薬の作り方であった。高度な忍法を使い、丹田が傷ついている梵寸にとって、まさに渇望していた情報だ。


「おお!やはり書いてあったか。これで神気不足に悩まずに済む。丹田を鍛え直せば……以前の力を、再び取り戻せるぞ!」


 彼の胸に灯るのは焦りではない。未来を知る者だけが抱ける確信。必ず取り戻すという強い意志である。


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