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2. この能力も、この状況も、全てが現実だ

目を覚ました時、僕は相変わらず湿った苔の上に横たわっていた。かすかに暖かな日差しが顔をくすぐるのを感じた。裂けるような頭の痛みと全身の筋肉痛が僕を襲った。昨日ブラックベアに踏みつけられた苦しい記憶が生々しく僕の脳裏をよぎった。かろうじて目を開けると、見慣れた天井ではない、青い葉が風にそよそよと揺れる森の中だった。昨日かろうじて身を隠したその森の洞窟の中だった。


「くそっ…ここ…まだ…」


昨日の悪夢のような現実が夢ではなかったことに絶望感が押し寄せた。全身がベタついていた。僕は体を起こそうと努めたが、ブラックベアとの死闘で疲弊した体はまともに動かなかった。ふと脇腹の激しい痛みが脳裏によみがえった。あまりに大量の血を流して意識を失ったのだから、傷はどれほどひどくなっているだろうか。血を流す苦痛が鮮烈すぎて、僕は本能的に手を伸ばして傷を確認しようとした。


だが…あるはずの傷がなかった。


僕は目を見開いた。指先で触れる脇腹は驚くほど滑らかだった。血がこびりついて固まっていたが、肉が裂けて血が噴き出していたあの恐ろしい傷は跡形もなく消えていた。痛みも嘘のように薄れていた。僕は自分の皮膚を何度も触ってみて、服をまくり上げながらよろめいた。傷どころか赤い跡すら残っていなかった。


「何…何だ…?!こ、これ…どうして…?」


信じられない光景に僕は呆然とした。引き裂かれた服の痕跡と血の匂い、そして昨日死ぬ思いで戦った記憶があまりにも鮮明なのに、肉体の傷はまるで幻のように消え去ったのだ。この矛盾した状況が僕の理性を圧倒した。その時、昨日血を流しながら意識を失う瞬間、頭の中をよぎった「アビス」能力の説明が雷鳴のように脳裏に響いた。


使用者利点 (超再生能力):アビス能力を発動させた者は一定レベルの超再生能力を得ます。これは吸収過程で発生する肉体的負担を緩和し、生存率を高めます。(傷の大きさ、吸収能力の強さにより再生速度に差があります。)


「超再生能力…?!まさか…昨日あのありえない能力が俺にこんな力もくれるっていうのか?!」


僕は腕に鮮明に刻まれた黒い文様を眺めた。昨日の出来事の全てが現実であり、この世界も、そして自分に発現したこの超能力も全て本物だということが、目の前の証拠で楔を打つように刻印された。僕は拳を固く握った。絶体絶命の危機からかろうじて生き残ったが、同時に自分に与えられた新しい力に対する戦慄を感じた。もう二度と部屋の隅に引きこもるゲーマーではなかった。異世界の地で、僕はようやく「生き残れる」という微かな希望を抱いた。


だが、同時に不吉な予感もよぎった。能力の説明にあった「肉体的、精神的負担」や「記憶、感情の断片流入」、さらには「精神崩壊」といった恐ろしい文言が脳裏に浮かんだ。単に得て終わる能力ではなかった。この「アビス」という深淵は僕に生存の希望を与えたが、同時に巨大な危険を内包していた。僕の新しい人生は、まるで巨大な黒い門が開いたかのように、予測不能で危険極まりない冒険の始まりを告げていた。


僕は洞窟の入り口へとゆっくりと這い出した。日差しが眩しかった。昨日僕を死に追いやったブラックベアの痕跡は見当たらなかった。森は再び平穏に見えたが、僕はもうその平穏さを信じなかった。僕の手は無意識に腕の黒い文様を撫でた。生き残るためには、この能力を理解し完璧に統制しなければならなかった。そして、この未知の世界についてもっと多くのことを知らなければならなかった。


僕の眼差しはもはや部屋の隅のゲーマーのものではなかった。死を直視し、生を選択した者の強烈な生存意思が輝いていた。


その時だった。僕の腹の中で恐ろしい音が鳴り響いた。胃が痛みを訴え、痙攣するようだった。空腹。あまりにも原初的で生々しい感覚だった。昨日から何も食べていなかったのだから当然だった。周りを見渡したが、食べられる木の実や植物は見当たらなかった。この世界のものは何一つ信じられなかった。間違って食べたら命が危ないかもしれない。


その時、茂みの中から何かが飛び出してきた。白い毛に覆われた丸々としたウサギだった。耳は長く、目は丸かった。一見ごく普通のウサギに見えた。


『まさか…こいつも魔物か?』


僕は本能的に右手に黒い文様を発現させる準備をした。ウサギが僕の近くで草を食む間、僕はそっと近づき素早くウサギの背中に手を置いた。接触!しかし何の反応もなかった。アビス能力は発動せず、ブラックベアを吸収した時のように情報も、能力も吸い込まれなかった。


『こいつ…ただの普通のウサギか?』


能力者(または魔物)ではないという事実に僕は安堵と共に失望感を覚えた。能力を吸収する機会を逃したという残念な気持ちも束の間、僕の脳裏をよぎる考えは一つだった。


食べられる。


僕はためらうことなくウサギを捕まえた。ウサギは全身で抵抗して暴れたが、僕は必死で離さなかった。生き残るためには何でもしなければならなかった。僕の手に握られたウサギの体温が生々しく感じられた。


問題はその次だった。この生肉をどうやって焼けばいいのか。ライターも、マッチも、ましてや火をつける道具もなかった。僕は幼い頃にテレビで見た野生でのサバイバル番組を思い出した。乾いた木の枝と葉、そして木切れを使って摩擦で火を起こす場面。


『ふぅ…ゲームなら火をつけるなんてクリック一つでできるのに…』


現実は冷酷だった。僕の腕はブラックベアとの戦いでまだズキズキと痛み、繊細な作業には慣れていなかった。木切れを回し、また回した。数分も経たないうちに汗が雨のように降り注ぎ、腕は痙攣を起こしそうだった。煙は少し出たが、火種は起こらなかった。


「くそっ!なんでだよ!」


僕は苛立ちのあまり座り込み、木切れを投げ捨てた。腹は依然として減っていたし、周囲は再び脅威的に感じられた。この時、昨日の死線を越えた強烈な生存意思が、僕の心の中に再び火をつけた。ここで諦めるわけにはいかなかった。僕は再び木切れを掴み、姿勢を正して座り直した。もはや「ゲーム」ではなかった。生きるための凄惨な戦いだった。


『反復…反復すればいつか成功する…!パターンを覚えなければ!』


僕は歯を食いしばり、木切れを狂ったように回し続けた。腕はもう僕のものではないかのように感覚がなく、手のひらには水ぶくれができ、肉が剥がれ落ちたが、僕は止まらなかった。何度かの試みの末、小さな木の枝から微かな煙と共に赤い火種が上がった。


「やった…!やった!」


僕は震える手で乾いた葉に火種を移し、慎重に息を吹き込んだ。小さな火種はたちまち生き返り、うごめいた。そしてついに、「フッ!」と小さな炎が立ち上った。僕は炎を大切に集め、木の枝の山に移し、丁寧に乾いた木の枝や葉を追加して火を育てた。パチパチと木が燃える音と共に温かい温もりが広がり、異世界に落ちて初めて味わう温もりだった。


僕は捕まえたウサギを捌き、木の枝に刺して火にかけた。ジュウジュウと音を立てて香ばしい匂いが広がり、腹はさらに激しく叫び出した。肉が焼けるとすぐに、僕は熱いのも構わず我武者羅に食らいついた。生臭さも少しあったが、生きるための本能はそういったものを圧倒した。温かくしょっぱい肉が腹の中に入ると、僕は涙が込み上げた。生きているという感覚が全身を満たした。


ウサギ一匹が腹の中に消え去ると、僕は火のそばに座り込み、迫りくる闇を眺めた。夜になると森はさらに未知の空間へと変貌していった。温かい火の光は僕を安心させたが、同時にこの広い森の中で僕はただの小さな点に過ぎないという事実も悟った。かろうじて一食を済ませただけだ。これから生き残るための道は長く険しいだろう。

未熟者ゆえ、至らない点も多々あるかと存じますが、どんなご評価も真摯に受け止め、精進してまいります。何卒よろしくお願い申し上げます。どうぞ、ご評価いただけますと幸いです。

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