1. 絶体絶命の生存本能
意識が戻った時、俺はびしょ濡れで泥まみれの草むらに顔を埋めて倒れていた。慣れ親しんだ部屋の温もりはどこにもなく、鼻を刺す生臭い土の匂いと、見慣れない植物の濃密な香りが不快だった。暖かな日差しはどこにもなく、代わりに奇妙に青みがかった薄暗く陰鬱な森の冷気が全身を包み込んだ。全身の骨が砕けるような痛みに、俺の頭の中は濃い霧に覆われたように混乱していた。
「うぐ…うぐ…」
俺は痛みにうめきながら、かろうじて目を開けた。俺の視界に入ってきたのは、生い茂る巨大な木々だった。木の葉は鮮やかな緑色に輝き、風にそよそよと揺れていた。森は静かだったが、その青い葉っぱたちが作り出す影が俺の心をさらに重くした。鳥たちのさえずりは俺の耳に美しい音ではなく、正体不明の旋律を持つ威圧的な響きとして聞こえた。
俺は見慣れない、まるで幻想のような風景の真ん中に倒れていることに気づいた。昨夜、あの恐ろしいゲートと光に吸い込まれた鮮明な記憶が、現実のように俺の脳裏を襲った。全身の感覚が震えるほど強烈だった。
「ここ…どこだ?俺の部屋じゃない…家でもない…一体、なんで俺がここに…!」
全身の毛が逆立った。俺は狂ったように周りを見回した。苔むした岩はまるで生きているかのように微かに光を放ち、空中に浮かぶ光る花びらは幻覚のように揺れていた。全てが信じられないほど異質だった。俺の心臓は不安に震えた。この現実を直視した瞬間、胸を締め付けるような冷たい恐怖が俺の理性を麻痺させた。
「こ、これ…一体…なんだ…!」
言葉を失い、大きく口を開けたその時だった。突然、森の向こうから「グルルル…」という威圧的な低い声が聞こえ、俺の心臓を凍りつかせた。
巨大な影が藪をかき分けて俺の目の前に現れた。普通のクマとは違った。全身はごわごわした黒い鎧のような毛で覆われており、赤く光る目からは邪悪なオーラが噴き出していた。肩と背中にはまるで岩のようなでこぼこした突起が隆起していた。いわゆる「影熊」、通称「ブラックベアー」だった。
「ふぐっ…クマだ…クマだって!」
ブラックベアーは鼻をくんくんさせながら俺を見つけた。体格に似合わない俊敏さで俺に襲いかかり、その前足には鋭い爪が黒いオーラを放っていた。ブラックベアーの前足がかすめ、俺の脇腹に深く長い傷を残した。激しい痛みと共に、熱い血が俺のアンダーウェアを濡らした。
「ちくしょう!なんだこの痛みは!俺の体が…なんでこんなに!頼む…頼むから助けてくれ…!」
肉が引き裂かれるような鋭い痛み、流れる熱い血、目の前に迫った死の恐怖はあまりにも現実的だった。死の恐怖が俺の息を止めるその瞬間、俺の右手に心臓が脈打つような激しい痛みが感じられた。血が噴き出すような痛みと共に、俺の腕に奇妙な黒い文様が鮮明に浮かび上がった。まるで皮膚の上を流れる深淵の文様のようだった。そして俺の目には、ブラックベアーの巨大な胸部、心臓部位が神秘的な光を放っているのが見えた。まるで「吸収しろ」とささやいているかのように。
ブラックベアーが再び巨大な前足を振り回した。俺は反射的に右手を伸ばし、クマの胸に力いっぱい突き刺した。本能的なもがきだった。
ドゥドゥン!
ブラックベアーは苦痛の咆哮と共に体を激しくねじった。巨大な体を覆っていた黒いオーラが薄れ、赤く光っていた目の狂気も和らいだ。以前の威圧的な気運は消えたが、その巨大な体格と猛烈さは健在だった。ブラックベアーは能力を奪われた怒りのためか、さらに激しく俺に襲いかかった。
ブラックベアーの体から解放された黒い粒子たちは、急速に俺の右腕、特に腕の黒い文様の中へと吸収されていった。同時に俺の脳裏には爆発的な情報が流れ込んできた。意識は朦朧とし、ゲームのシステム画面のように俺の目の前に文字が稲妻のように現れては消えた。
【能力発現:アビス (Abyss)】
【能力説明】
効果:対象の固有の異能力を吸収する。
吸収条件:
直接接触:対象の皮膚に直接接触することが必須。 強烈な意志:吸収したいという強い意志が必要。無意識的な発動は不可能。 魂の強度と抵抗:対象の魂の強度に比例して吸収抵抗が発生。強力な対象であるほど抵抗が強く吸収が難しい。
ユーザーペナルティ(重要):
肉体的、精神的負担:吸収するたびにユーザーの肉体と精神に大きな負担がかかる。 記憶、感情の断片:対象の記憶や強烈な感情が断片的にユーザーの精神に流れ込み、混乱や人格に影響を与える可能性がある。 能力暴走、反動:過度な吸収や精神力不足で能力が暴走、反動でユーザーに被害を与える可能性がある。最悪の場合、精神崩壊の危険もある。
ユーザー利点:
ヒーリングファクター: アビス能力発動者は一定レベルの超再生能力を得る。傷の大きさや吸収能力の強度によって再生速度は異なる。
[現在吸収能力]
ストーンスキン:一時的に皮膚を硬い石のように硬化させ、物理攻撃に対する防御力を高めます。使用時に若干の重圧感が感じられます。
「信じられない…本当に能力ができたのか…?しかも吸収能力だなんて…!」
俺は腕に浮かんだ奇妙な黒い文様と、新たに得た「ストーンスキン」能力を試した。心の中で「硬化」と考えると、腕の皮膚が硬くなるのを感じた。指でトントン叩くと、まるで石のように硬かった。
生き残るための本能が働いた。俺はすぐに「ストーンスキン」を使って腕を硬化させた。ドスン!ブラックベアーの前足が俺の腕を強打した。全身に衝撃が加わり、激しい痛みが襲いかかったが、肉が引き裂かれる代わりに鈍い痛みだけが残った。ストーンスキンがある程度衝撃を吸収したのだ。
「これ…すごいな…?!でもあの怪物は倒せない…まずは逃げなきゃ。」
ブラックベアーのしつこい追撃は続いた。俺は以前習った護身術でブラックベアーの前足をかろうじて避け、木陰に身を隠した。能力を奪われたブラックベアーはもはや魔物の気運を放たなかったが、その巨大な体格と猛烈さは健在であり、奪われたことへの怒りのためか、さらに激しく俺に襲いかかった。
俺は必死に森の中を逃げた。脇腹の傷からは血が止まらず流れ続けた。息は荒くなり、大量出血のせいで視界がぼやけた。歩くことすら辛くなり、最後の力を振り絞って数歩進んだが、結局足がもつれてびしょ濡れの森の床に倒れ込んだ。意識は急速に遠のいていった。最後に聞こえたのはブラックベアーの咆哮だった。
未熟者ゆえ、至らない点も多々あるかと存じますが、どんなご評価も真摯に受け止め、精進してまいります。何卒よろしくお願い申し上げます。どうぞ、ご評価いただけますと幸いです。