18. 都市適応期
食事を終えてリエルは皿を片付けた。そして、突然私に手招きした。
「こっち来て。今日はあちこち回らないと。あんたがこの都市に慣れるのを手伝ってあげないとね。」
私はきょとんとしたが、彼女はすでに私を廊下へと導いていた。
「どこに行くんだ?」
私は不安な目で周囲を見回しながら尋ねた。
「どこって。当然、街の見物よ。あんたがずっと森に閉じこもってるから、森の野生動物みたいな気が抜けきらないでしょ?ねえ、世界には森以外にも面白いことがたくさんあるんだよ。あんたの『野生の感覚』が果たしてこの都市でも通用するか気になるしね。」
リエルは特有の明るい表情で続けた。『野生の感覚』ね。私が無意識に周りを探索し続けたり、突然目を閉じて何かに集中したりするのを見て言っているようだった。森ではその感覚が生存に必須だったが、都市は違った。巨大な城に入った時から感じられたその騒音たち、複雑な匂いたち。その全てが私を圧倒しそうだった。森では明確な脅威と戦ったが、ここでは何が私を待ち受けているか分からなかった。
リエルは私の返事を待たずに、屋敷の正門を開けた。昨夜、私が血だらけで警戒しながら入ってきたその門だった。朝日が屋敷の庭を照らしていた。夜とはまた違う様子の都市の風景が目に飛び込んできた。屋敷の前の通りは、夜の静けさが去り、朝の気配を見せていた。昨夜ぼんやりと見えた灯りは、もう日が昇った後の都市の日常的な風景を見せてくれた。まだ人通りが少なく、閑静な路地だった。
「さあ、じゃあ行こうか、野生動物?」
リエルは私の手を取ろうとして、ためらったかと思うと、フッと笑って先に進んだ。私は彼女を逃さないように後を追って歩いた。
「だから、俺は野生動物じゃないってば。」
私たちが狭い路地を抜け、大通りに出ると、街は次第に生き生きとした生活の活気に満ち始めた。木造の商店からは、スパイスと焼きたてのパンの匂い、革の匂いが混ざり合って鼻を刺した。商人たちは喉を張り上げて物を売り、馬車の車輪の音、人々のざわめき、子供たちの笑い声が入り混じり、巨大な騒音の波を作り出した。森の静けさに慣れた私には、全てが過剰に感じられた。耳が裂けそうだったし、全身の感覚が悲鳴を上げているようだった。
私は本能的に周囲のあらゆる情報を吸収しようと努めた。森では音一つ、匂い一つが生存の手がかりだった。あの群衆の中にはどんな危険が潜んでいるのだろうか?あの騒がしさの中には隠された悲鳴が聞こえるだろうか?とんでもない不安感が私を押しつぶした。森では獣の気配を見つければよかったが、人間はずっと複雑な存在だった。彼らの表情、身振り、視線の中には数多くの意図と感情が隠されていた。
リエルは何事もないように人々とぶつかりながら歩いた。まるで都市のあらゆる騒音が彼女にとっては平凡なBGMであるかのようだった。彼女は時々露店で奇妙な品物を眺めたり、行商人に声をかけて値引き交渉をする真似をしたりもした。
「これ見て!面白く見えるでしょ?」
リエルは私に何だか分からない彫刻品を差し出した。私はそれを受け取って意味もなくいじり回した。私にはただの木の彫刻に過ぎなかった。
人々は私をちらちらと見た。私の服装はもう普通になっていたが、私の警戒心に満ちた眼差し、全身に染み付いているリエルが言っていた野生動物のような気配は隠せなかったようだった。何となく不快な視線も感じられた。貪欲な眼差し、好奇心に満ちた視線、時には軽蔑するような視線まで。森では食物連鎖が明確だったが、ここは混沌そのものだった。誰が狩人で誰が獲物なのか、一目で把握するのは難しかった。
私は足を止め、巨大な群衆の中を見つめた。数多くの人間の気配。彼ら一人一人から感じられる微かな感情の波動。喜び、悲しみ、怒り、恐れ、貪欲、平和さ…森の獣たちから吸収した感覚とは異なる種類の複雑な感情が混ざり合い、私の内へと流れ込んでくるようだった。この全てがまるで巨大な一つの生命体のように感じられた。
「どうしたの?私が無理に引きずり回しすぎた?」
リエルが私の顔を見上げて尋ねた。彼女の表情は心配よりも相変わらず好奇心に満ちていた。
「ここは…うるさすぎる。」
私はやっとのことで吐き出した。
「うるさい?そっか、森から来たばかりのあんたにはそうだろうね。でも、これが人間が生きる世の中ってものじゃない?」
リエルは再びニヤリと笑って、私の腕をそっと引いた。彼女の小さな手が冷たい私の腕に触れた。暖かかった。
私たちはそうして、しばらくの間、都市をさまよった。リエルは時には薄暗い路地へと私を導いたり、時には市場の真ん中で奇妙な物を見つけたりもした。私はひたすら彼女に付いて行った。森での死のような静けさに比べれば、この都市は生命の躍動感に満ち溢れていたが、同時に新しい種類の脅威と不安感でいっぱいだった。この都市の法則をまだ把握できていなかったからだろう。リエルは果たしてこの全てを知って私をここに連れてきたのだろうか。当然違うだろうけどね。彼女の言う通り、ここは本当に興味深い場所だった。




