みんなと違う下着
トイレの個室を出たとき、すでに廊下の照明は半分落ちていた。
洗面台の鏡にちらっと映る自分は、暗い顔をして、前髪がぺたんとしてた。
さっきまでのにぎやかさが、どこか遠くに感じる。
(バレない……よね)
下着のごわごわした感触が、動くたびにちょっとだけ気になった。
この感じにも慣れてしまった自分が、ちょっとだけイヤだった。
部屋に戻ると、みんなもうパジャマに着替えてて、それぞれの布団の上に腰かけていた。
「おかえりー! ちほ、こっちおいでー」
「はるかさん、声が大きいです……」
「でもまぁ、そろそろ消灯だしね」
私は二段ベッドを挟むようにして置かれた布団の中へ潜り込む。
上からふわっとした掛け布団をかぶると、ようやく一日の終わりを実感する。
(ふぅ……)
布団に入った瞬間、やっと力が抜けた。
でも、リラックスしきる前に──やっぱりあれが来た。
「でさ、今日の罰ゲーム、まだやってへんで?」
隣にある二段ベッドの上段から、はるかがにやにやしながらこっちを見下ろしている。
うわ、ちゃんと覚えてたんだ……。
「ヒミツ暴露ターイム! 今からどうぞ!」
「ホントにやるんですか?かわいそうに……」
真琴が眉をひそめたけど、止める気配はなかった。
「まあ、べつに大したことじゃなくていいんやで?ノリで言うただけやし」
「そうそう、あんま重く捉えなくていいよ〜」
「じゃあ……えっと……」
息を吸って、少し考える。
(どうでもいいやつ、どうでもいいやつ……!)
「……こないだ、先生のこと……ママって呼んじゃいました」
「あはは! それ恥ずかしいやつ!」
「お母さんいないのにそんな間違いするんだね」
「ちょっ、ひよりさん」
「あかんて」
「わたしたちみんな親いないし〜、いいんじゃない? そういうイジリはあっても」
「変な地雷持ってたらどうすんねん」
わーっとみんなが騒いでくれて、ちょっとだけ笑ってしまった。
「大丈夫ですよ、今更親のことを気にしたりはしません」
「じゃあセーフやな」
「よし、無罪」
切り替えの早い人たち。
「あ、電気点滅してる」
「では寝ましょうか〜」
「明日の朝ごはん、パンかなーごはんかなー」
「パン! わたしジャム派!」
「バターが至高です」
「おかわりは早い者勝ちな」
天井の蛍光灯が、ぱちっと音を立てて消える。
部屋が静かになると、少しずつ、みんなの呼吸が落ちついていった。
私は、まっすぐ天井を見つめながら、胸の奥にぎゅっと小さなかたまりを感じていた。
それは、さっきとはちょっと違う種類のもの。
ヒミツを、隠し通す。
パジャマの下にある紙おむつの感触に信頼を寄せて。
(……たぶん、だいじょうぶ)
目を閉じると、一気に眠気が襲ってきて、そのまま泥のように眠った。