ようこそ、の席
ヒミツ。
思い当たるものは、ひとつある。
けれどそれは、絶対に言えない。
リビングの長いテーブルに、5人で並んで座る。
今日のメニューは、照り焼きチキン、ポテトサラダ、ほうれん草の味噌汁、それにふっくらした白ごはん。
「お腹すいたー! いやー、ごはんが輝いてみえる!」
「うんうん☆ めっちゃ美味しそ~」
「はやいとこ食べはじめよう」
ひよりが目を半分だけ開けて、無表情のまま茶碗を持ち上げた。
「みなさん、いただきますを忘れないように」
真琴がきっちり箸をそろえて、背筋をのばしてる。
「えっと……い、いただきます」
「「「「いただきまーす!」」」」
今日は私が主役らしいので、私がいただきますの挨拶を担当させてもらった。すこし詰まったけど、みんなちゃんと返してくれた。
「ちほって、なんか好きな食べ物あるん?」
「え?」
「わたしも気になってた〜、何好きなの?」
「あっ、えっと……いろいろ好きだけど、トマトとか、キャベツとか…サラダをけっこう食べるかも」
「うわ、ヘルシー!」
「その言い方、ちょっと馬鹿にしてない?」
ひよりがもぐもぐしながら言った。
「え、ちがうって〜! 逆にオトナな感じ!」
「ちほさん、前はどのあたりに住んでらしたんですか?」
真琴がちらっと私の顔を見て言った。
「……え、と、その……」
「ありゃりゃ? まだ緊張してる感じか。さっきのトランプは楽しそうだったのに」
「一気に距離詰めようとするからじゃない~?」
「ふん、仲良くなるなら早い方がええやろ」
「いえ、その……こうやって話しかけてくれるの、ありがたいです」
ちょっとだけ会話の輪に入れている気がして、嬉しくなった。
「ねえねえ、ちほって、得意科目ある?」
「えっ……あ、図工……かな。紙とか使って何か作るの、すき」
「うわ、ユヅキと気合うやん!」
「ほんとに!? わたしこの前、アクセサリー入れ作ったの! しかもリボン付き☆」
「それはすごい……ちゃんと完成するの、私すぐ途中で投げ出しちゃって」
「めっちゃ分かる~、なかなか上手くいかなくてやんなるやつ!」
みんなが笑う。私も、ちょっとだけ口元がゆるんだ。
(思ったより、ふつうに会話ってできるんだ……)
でも、ふと思い出してしまう。「ヒミツ」という言葉。
あれだけは、言えない。何か別の秘密でも適当に話しておこう。
……そもそも、かくし通せるのかな。それがこわい。
(この子たちに、知られたくない)
あんなことがバレたら、絶対、引かれる。
引かれたら、またひとりになる。
「ちほって、きょうだいとかおるん?」
「……いない。ずっと一人だったから……友達もいなかったし」
「あ、わかる~。私も最初はぼっちだったけど、今はみんな仲良くしてくれるんだ」
「騒がしすぎて、強制的に巻き込まれるからな」
「ほんとそれ」
「はるかさんは騒がしいの代表格な気がしますけど」
会話が自然につながっていくなかで、私は少しずつ、心が温かくなっていった。
うんと笑ってるわけじゃない。でも、ちゃんとご飯を食べながら、同い年の子たちの話にうなずいて、たまに言葉を返して。
心の奥底に濁りを抱えつつも、久しぶりの楽しい時間はゆるやかに過ぎていった。