わらって、まざって、ドキドキ
「せっかくだし、ババ抜きでもやろーや! ねっ、ねっ!」
おやつのあと、はるかが言い出した。というか、もはや「言い出した」じゃなくて「始めようとしてる」くらいの勢いだった。
「今日から5人になったんやし、仲良くなるにはこれが一番やって!」
「またババ抜きですか? 昨日も一昨日も、それでしたけど…」
真琴が丁寧にカードをそろえながら、小さくため息をついた。
「えー? ほな神経衰弱にする? でもそれ真琴が一番弱いやん」
「うっ……」
「別に何でもいいけど、決まったら教えて」
ひよりが布団からもそっと出てきて、あぐらをかいたままトランプの箱を受け取った。
「ほい、ちほちゃんも! トランプやるで!」
と、はるかが私の顔をのぞきこんできた。
きらきらしたアイシャドウ(子ども用だろうけど)がまぶたにちょっとだけ光ってる。
「……う、うん」
「よーし! じゃあ7並べとかどうやろ?」
「いいね」
「はるかちゃん、前回場を流しすぎて怒られてたじゃないですか」
「いやいや、あれはユヅキがずっと3のハート持ってたせいやって!」
「わたしは最初に出したもん!」
「もんって、子どもか」
そんなにぎやかなやりとりを聞きながら、私はちょっとだけ笑った。
口元がゆるんだの、たぶん誰にも気づかれてない。
「じゃ、王様ゲームやろ!」
「「「やだ」」」
「え~☆」
満場一致で否定されるなんて、前に何かあったのかな?
結局、選ばれたのは当初の予定通りババ抜き。
というより、すでに真琴が手際よく配り始めていた。
「ペアのカードは先に捨ててくださいね。それから順番は時計回り、負けた人は……どうしましょう?」
「やっぱ罰ゲームでしょ」
はるかがにやっと笑う。
「罰ゲームって、またあれ?」
ユヅキが、ひよりの横ににじり寄って身を縮めた。
「せや! 負けた人は……ひとつ”恥ずかしいヒミツ“を暴露するねん!」
「えっ……」
恥ずかしいヒミツ。その言葉を聞いた途端、ドクンと心臓が跳ねた。
「うわぁ……さいあく……」
ひよりがため息をついた。
「ちほ、いくで!」
はるかに笑顔でうながされて、私はためらいつつカードを引いた。
なんとなく、ドキドキして手のひらが少し汗ばんでた。
手札の中に、ジョーカーは──
なかった。
「せ、セーフ!」
「反応バレバレやん、それ!」
「ほなわたしから……うわ、ひより、あんたこれジョーカー持ってるやろ」
「しらーん」
「ちょ、手が力んでるって!」
そうこうしてる間に、ゲームは進む。
でも、私の心の中はさっきとちょっとだけ変わっていた。
(なんだろう、この感じ)
昔いた施設では、トランプなんて滅多にしなかった。
いや、私だけしなかった。仲間はずれにされて、遊びになんて混ぜてもらえなかった。
でも──ここは、なんかちがう。
「ユヅキ、勝ち抜けやん!」
「いえーい、優勝!」
「さすが、やりますね…」
「ちょっと、真琴真面目にやってるの~? 全然減ってないよ?」
「こっ、これからです!」
カードが飛び、笑い声がまざって、私の中にあった壁が、ほんの少し、くだけた気がした。
「よーし上がり! あぶな〜ビリ回避や」
「……あれ?」
「ちほがビリか。ほなとっておきのヒミツ頼んだで」
そうだった。罰ゲーム…忘れてた。