はじめましてと、これからの部屋
「佐原ちほちゃん、だよね? はじめまして。僕は松永って言います。今日からよろしくね」
「は、はい…よろしくお願いします」
施設に着いたばかりの玄関で、そう声をかけてきたのは、落ち着いた感じの若い男性だった。
笑ったときに目尻がきゅっと下がって、ちょっとだけ茶色い髪がゆれている。
声も表情もやわらかくて、たぶん、苦手じゃないタイプの大人。
「重いよね、それ。こっちで持つよ」
そう言って、わたしの手から大きめのリュックを受け取ってくれた。
大人のやさしさに触れて、少しだけ肩の力が抜けた。
「おーい!」
施設の中に入ると、いきなり大きな声がして、振り返る間もなく、元気そうな女の子がつかつかと近づいてきた。
「松永さん、そっちの子だれ? うちと同じくらいやけど」
「佐原ちほちゃん、今日から同じ学年で、同じ部屋になる子だよ」
「ちほちゃん!? ちほちゃんが今日からの子なん!? うわー! まじかー! よろしく!! え、なに食べる? ポテチ? プリン? あ、わたしの分あげよっか?」
「え、ええっとその」
顔まわりの元気さだけでいえば、テレビに出てくるアイドル並み。
髪は短めでピンピン跳ねてるし、目も声もテンションも、全部“100%”。
「あはは…気が早いよ、はるかちゃん。ちほちゃん困ってるよ」
松永さんが苦笑いしてとめに入る。
「あ! 自己紹介忘れてたわ! うちは日野はるかって言います、よろしくね!」
そう言いながら、はるかは勝手に私の手をとって、上へ上へと階段をのぼっていった。
松永さんは「お願いね」とだけ言って手を振っていた。
*
案内された部屋には、すでに他の子たちがいた。
「じゃーん!ここがわたしたちの部屋ー!」
着いたのは4人部屋…を無理矢理5人分にしたような部屋。
2段ベッドが2台、布団が1つ、勉強机も5人分あるから、部屋の中はけっこうぎゅうぎゅうだった。
「じゃ、順番に紹介するねー!まずは──」
「どーも。大谷ひより。趣味は寝ること」
ベッドに寝転がったまま、まばたきもせずに名乗ったのは、ロングヘアで表情が一切動かない子。
寝巻きのまま出てきてるし、たぶんさっきまで昼寝してた。
声はちょっと低くてボソボソしてて、でも逆にインパクトある。
「えー、次は──」
「星川ユヅキです~☆あたし、ここの中じゃいちばんキラキラ担当かな~?えへっ」
真逆。
ふわふわのヘアゴムに、星柄のトレーナー、ハートのピアス(本物じゃないよね?)。
動きとか声のトーンも、漫画から飛び出してきたみたい。なんかずっと笑ってる。
「…はい、最後はこの子!どうぞ!」
「……黒崎真琴。よろしくお願いします」
ちょっと離れた場所で本を読んでた子が、立ち上がってぺこっと頭を下げた。
黒縁メガネ、きちんと整えられた前髪、腰まで伸びた長い三つ編み、きっちりたたまれたブランケット。
“真面目”がそのまま歩いてるような子。
……全員、個性の主張がすごい。
この中に混ざっていくの、正直ちょっと不安なんだけど。
「というわけで! みんなで仲良くしていこー!」
はるかは、わたしの肩をばんっとたたいた。
ちょっとだけ、ビクッとしたのは秘密。