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ばいばい、私の家



わたし、佐原ちほ。小学6年生。

ちょっと地味で、話すのが得意じゃなくて、あんまり目立たないタイプだと思う。


物心ついたときからずっと施設で暮らしてる。

家族の記憶はないし、これまで何度か転校もしたけど、

「友だち」ってちゃんと呼べるような子とは、たぶん一度も出会ったことがない。


べつにひとりが好きってわけじゃない。

でも、誰かと仲良くなるのって、すごく難しい。

特に、わたしみたいな子にとっては。


そんな日々が、ずっと続いてきた。



「ちほちゃん、ちょっといい?」


お昼すぎ、学校から帰ってきてランドセルを下ろしたところで、職員さんに呼び止められた。

声はやさしかったけど、内容はそんなにやさしくなかった。


「ちほちゃんね、来月から別の施設に行くことになったの」


「え?…そうなんですか」


すでに話は決まっていて、転校の手続きもこっちで済ませてくれるらしい。

“相談”というよりは“通知”。そういうのには慣れてる。


「最近こっちはちょっと手が回らなくてね。ほら、子どもも増えてきたし、職員も交代したりでバタバタしてるから…」


うん、そうだよね。

わたしは静かにうなずいた。


ごめんね、仕方ないのよ、みたいな態度。

──たぶん、それは半分ほんとで、半分うそ。


もう半分はきっと、「面倒ごとが減ってよかった」っていうやつ。

自分でもわかってる。そういう目で見られてたこと。


でも、別に怒ったりしない。悲しくもならない。

最初から、期待なんてしてなかったから。


「ちほちゃんが新しい環境に慣れられるように、ちゃんと準備しておくからね」


職員さんはそう言って、貼り付けたような笑顔をくれた。

その笑顔の意味を、わたしは深く考えないことにした。


そのあと、事務室の奥から小さな声が聞こえた。


「……よかったー、あの子の“アレ”、ほんと大変だったから」


わたしは聞こえてないふりをした。


心臓がきゅっと縮んで、ちょっとだけ背中が跳ねたけど、大丈夫、平気平気。


どうってことない。そういうの、もう慣れてるし。


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