第八話 あゝ彼こそがスライム
「みんな逃げて!!!」
ズリッ…ズリッ…ズリッ…
『グポッ…ブプーーー…』
ジュワンヌの叫びにより狭い小屋の中で冷静さを取り戻した、しかし…入口ははスライムが塞いでおり、逃げる事は困難を極めた。
「っ男ども!壁に穴を開けい!」
「ハッ…!」
ギュッ…!
「オラッ!!」
ドッ!ドッ!ドンッ!
「フンヌゥッっっ!」
ドッ!メキャッ!
産婆の迅速な判断により小屋の壁は破壊されて、蜘蛛の子散らすとはまさにこの事と体現する様に壁の穴から村民らは散らばった。
産婆は『いち早く』穴から飛び出した。
「『私は願う、魔法、奇跡、流れ星、それら全ては人の願いの体現である。』」
「『星が堕ち、空が闇へと染まろうとも、この思いは褪せることなき光、敵をつらぬく光の弾丸』!」
ズリ…ズリッ…ピタッ
『ゴポッパッ!ブピーーー…』
スライムは部屋に残った人間たちを狙う様に這いずり近づいた、恐ろしい臭気と生物とは思えない無機質で禍々しい見た目…当然、村民たちは恐怖した。
…しかし、スライムは壁の反対側から感じる眩い光に、ピクリと反応し…動きを止めた。
「『中位魔力弾!!』」
ジュゥウウウウウ!!
『キュゥゥ!!!ブブブブブブッ!』
瞬間、産婆の放った魔法がスライムに接触した、ジュ…ジュ…と高熱の魔法で作られた光弾により、スライムが震えた。
だが…
キューーーーーー…っ
「!?魔力弾がっ!」
キュー……ー………ー…っ
魔力弾はすぐにスライムの体内で光を失い、最後には体の中で霧散し消滅した…
村民たちは絶望した「もう無理だ」「ここまでなのか」…しかし、フッとスライムの体の向きが変わり、小屋内に入っていた頭部(※顔がないので分からないが)が引き、産婆の方へユルユルと侵攻方向を変えたのである。
「!?スライムが小屋からでたぞ!」
「ど、どうして急に…」
「っバアさんが囮になったんだ!バアさんの覚悟を無駄にするな!ジュワンヌさん連れて早くここから離れるぞ!」
ズキッ…ズキッ…
「どうかご無事で…っ!」
痛むお腹を優しく抱きしめながらジュワンヌは、産婆の無事を願った。
一方、産婆は1人森の中を駆けていた、既に60を越えた女性…3代前の父方の先祖がエルフだったらしいが、そんな血は既に完全に薄まってしまい、60にして老い僅かな魔法の才があるだけであった。
ザッザッザッ…
ズリ…ズリ…
「ハァッ!ハァッ…!」
『ポプッ…』
ぷくーーーーっ
老体に鞭を打ち息を荒げながらも、必死に森へ森へ駆ける産婆はただ一縷の望みに賭けてただただ歩を進めた。
そんな中渦中の外因であるスライムから、汚い濁音を漏らしながら膨らみ、一つのコブを作り出した。
ズリ…ズリ…
『ブププププゥ…!』
ぷくーーーーーっ
「ハァーーッ…!ハァーーッ…!(何じゃあの膨張は…ッ、何か…何かイカンッ!)」
しかし…そんな産婆の考えとは裏腹にスライムの膨張は加速し続け、透けて見える程に薄く膨れ上がった。
『ぷーーーーーっ…!』
ぷくーーーーーーーッ…
「ハッ…!ハッ…!に、逃げなくては!」
…バンッ!!
恐ろしい程大きく膨れ上がったその時、まるで鞭を耳元で振られた様な鋭い音と共にその膨張体が『破裂』した。
「!?」
あまりの大きさの破裂音につい"チラッ"と振り返ってしまった、そこで見たのは…否、見てしまったのは…
バチャッ!
シューーーーッ
バチャッ ビチャッタパタパタパ… ばちゃっ ばちゃばちゃ ドパッ!
シューーーーー…
あらゆるモノを溶かす酸の雨だった…ソレが上空に打ち上げられた液体が無差別に降り注ぎ、木も土も草も虫も鳥も動物も…全てが『良く分からないグズグズしたモノ』になった。
それが…
タパパパっ…ブチャッ、ビチャビチャビチャ…ッ、ドポッ!
シューーーーー!
「ひっ…ひぃいいいいい!!?」
どんどん迫ったてくるのだ、産婆は恐怖した…ただただ無差別に溶かす液体が無情にもこちらに飛来してくるのだ、無理もない…
しかし、そんな恐怖の中でも1番に頭に浮かんだ事があった…。
ドドドドドドドドドドッッッ!!!
「ハーッ!ハーッ!あぁ!!」
ドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
「あぁぁ…(どうか…あの子を守って…)」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
「(下さい…)」
びちゃっ
ジュワッ!!
「ギャッ…ア…ッグ…!!?(神様…… … …)。」
蒸発、体の一部が溶けた痛みで気絶した…その気を失う間際に思ったのは何よりもジュワンヌの事だった、絶命はせず気を失った産婆に悠々と近付き…
ズリズリ…っズリッ…
『ブポっ…プププ…にゅるんっ』
呑み込んだ。
ジュッ…
『ブピッ…グミュミュ…ポパパパパパ!!』
飲み込まれた体の末端から一瞬で溶けて霧散した、血の一滴すらも分解され跡形もなく消えていった。
そんな様子を笑うかの様にスライムは、さっき破裂した部分を震わせて音を鳴らしたのであった…産婆がそこにいたなどもう誰にも分からないのである。
飲み込んだ当人も意思のないただの細菌であるから…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
場面は移り変わり、ジュワンヌは村民に介助を受けながらスライムとは反対方向へと避難していた、先ほどまで一緒にいた産婆が死した事なども梅雨知らずただ無事を祈っていた。
「ジュワンヌさん!揺れは大丈夫ですか!」
「ええ…すみませんお荷物になってしまい…」
「何言ってるのジュワンヌさん、この人ら貴女みたいな可愛い子の世話が出来てこーんな鼻伸ばしてるのよ?」
「働かせるくらいでいいのよ」そう言い放つ女性は、先刻水を汲みに行こうとした若い女性だ、水を組みに行かなかった代わりにジュワンヌの世話に尽くしていたのだ。
「にしてもジュワンヌさん『つわり』重いのねぇ…辛いでしょう大丈夫…じゃないわよね」
「…っええ中々キツイですけど…お腹の子の為にも安全な場所で産んであげられるまで耐えます…!」
「まったく…強いお母さんに愛されてるのね」
ヒドイ『つわり』に顔を真っ青にするジュワンヌであったが、優しくお腹を撫でるその姿は正しく母の姿だった。
そんな中、ジュワンヌの介助とはまた別の男達が少し離れた場所で話し合っていた。
「…どうしてあのバケモノが小屋をピンポイントで見つけられたんだ…?」
「おいっ、周りにちゃんと監視しとけ!」
「だけどおかしいじゃんか!」
「…確かに、村に来るのは分かる…が、村からは複雑に離れた場所にあったあそこで再び襲われたのは…」
少し考えれば違和感に気付くはずである、人が集まっている場所へ惹き寄せられる様に一直線で向かってきたスライム…
しかし出現場所からは少なく見積もっても10数キロは離れている場所である、いくらスライムと言えどそんな遠くまで感知は出来ない。
「なぁあのスライム…動きが遅かったよな」
「…幾ら走っていたといえど産婆のバアさんが引きつけられる程度だ、かなり遅いな…」
ゴクッ…
「な、なぁもしかしてだけど…だ「皆んな!手伝ってくれ!」!」
見張りに散開していた男はイヤな思考が巡り、言葉にしようとした…だが、別の方向を見張っていた髭を蓄えた男が声を上げた。
そこには…男に支えられて現れた恰幅のいい女性、水を汲みに行っていた彼女であった、しかしただ無気力にフラフラと引き摺られている状態で明らかに異常な事態だった。
「!?オバさん!何があったのっ」
「…あぁアンタかい…うぅ…」
「……っ、オジさんは!?」
「っうぅ…アイツは…アタシの夫はぁッ…」
水汲みを代わってもらった女性は、消沈した気配を纏う女性…あの気の強いオバさんの変わり果てた表情に、半泣きになりながらも問いかけた。
肩を振るわせ、質問に答える…しかし自身でも消化しきれていない事実に声は引き攣り、生気の抜けた顔から涙をポロポロと流しながら答えた。
「っころされたんだ…」ボソッ…
「……え」
ガシッ!!
「アタシの夫は…ッ!盗賊に矢が…ッ頭に刺さって死んだんだッ!!!」
それは余りにも悲痛な答えだった、恰幅のいい女性は水汲みを代わった女性の肩を掴み泣きながら答えた。
その答えに周囲にいた村民たちは恐怖を覚えた、「あのオジさんが殺された」とそれも仕方がない事だ…
「殺された…だとっ!?」
「あああ…オジさん…ッ」
「そんな…なんで…ただでさえあのバケモノの所為でピンチなのに…ッそんなっ…」
普段小さな村で普通に暮らしていて人が人を殺すなどという事が身近に起こったのだ、小さな村では全員が親戚の様に協力し合い生活を営む。
そんな村民がモンスターに村を追われた上に野盗に遭うなど…
「…もしかしたら」
「…あのモンスター連れてきたのってその野盗なんじゃ…」
恰幅のいい女性の登場で切られた言葉が再び紡がれた、そしてその予想に村民は目を剥き、目元は影を作った…なにせ一番しっくりくる答えだったからだ、例えば村民を追い出して村から財産を奪う…それ以外にいくつも理由など思いつくのだ。
「だとしたらここも安全じゃない!『ヒュッ…』早くここから離れ「"トスッ!"」ゔあぁ…ッ!?」
「「「!?」」」
「そのまま動くな」
パカッ…ぶるるるる…
その時別の男の肩に一本の矢が刺さった、男に駆け寄ると聞いたことのない若い男の声が聞こえてきた。
ズリ……………ズリ……………
村民はザワザワ…と声をひそめながらも動きを緩やかに止めた、しかし完全には止まらず僅かに動くものもいた…聞いた事のない声の男はもう一度矢を構え…
ヒュッ…
「ぎゃっ…!」
ザワ…ザワ…!
「なにもお前たちを殺したい訳じゃないんだ…何も聞かず喋らず待機していろ…」
………ズリ…………ズリ………ズリ……
またも射抜かれた村民は今度こそ完全に動きを止めた、示し合わせた様に死角となる場所からいくつもの馬の足音が響き、野盗然とした武装した者たちが村民を囲った。
「ぐぅぅぅぅ…!ッうぅ…」
「っ大丈夫ですか…!」こそっ…
「おいそこの女」
「っ…」
ジュワンヌは射抜かれた村民にコッソリと声を掛けて安否を確認した…しかしそれが野盗のリーダーらしき…最初に矢を撃った男がジュワンヌを睨みつけた。
ズリ……ズリ……ズリ……ズリ…
ギッ…
「腹の御子共々無事に射抜かれたくなければ…そこから動くんじゃない」
「…っ〜〜〜」…こくっ
「…ふん」
すっ…
ジュワンヌは心の中で射抜かれた村民に申し訳と思いながらも離れ元の位置に戻った。
囲まれ向けられた弓矢に怯える村民を他所に野盗は冷や汗を垂らしていた。
ぼそっ
「…隊長…やはりこんなことは…」
ギロ…
「…分かっている、しかしもう引けぬ段階にまで」
「リーダー!!きましたーーーッ!!」
ズリ…ズリッ…!ズリッ…!
「あれはッ…!」
ジュワンヌは目の前から薄らと見える物体に恐怖した…それは明らかに…あのモンスターであったからだ。
盗賊のリーダーと思わしき人物は弓矢をいっそう引き絞り、村民に圧を掛けた…それは「動くな」この一点のみ。
ズリッ!ズリィッ!ズリィッ!
「ひっ…ひっ…ひっ…ッ」
「まだ動くな」
ズリィィ!!ズザザザザッ!!
「まだ」
「あああああああ…」
ズジィイイイ…!!!
『ゴポァアアアアアアアアアア!!!!』
「よし!散れ!」
距離にして5m未満…そこまで急接近したスライムを確認してから野盗はやっと包囲を解いて解放した。
「「「「「「あああああああああああ!?」」」」」」
「っ!(あの人たち…まさか私たちを…っ)」
活き餌に…!?
村民はバラバラに逃げ惑うが、何故か平原の方向には逃げさせない様に弓を引きながら列になり壁となった。
「こっちには逃げるなよ!森へ逃げろ」
「っ…くっ…(すまない…ッ)」
「(…何とか逃げてくれ…!)」
野盗たちは何故か辛そうな表情を浮かべていたが、村民にとっては関係のない事だった、ただ殺されないよう逃げ惑うのみだ。
…しかし村民の男の1人が気付いたのだ、1人では大きく動かない者が取り残されていると…
「ジュワンヌさん!!!」
『ゴボボボッ!!!』
ぐぱぁ〜〜〜〜〜ッ!!
「あっ…ッ」
「(ごめんなさい!赤ちゃん…生まれさせて上げられなくて…!ごめんなさい、アナタッ…1人にしてしまって…!)」
ジュワンヌにスライムから粘体が垂れる…
しかし、希望は届いたのだ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
ブンッ!!!!!
ドパンっ!!
『ブビャッ!!!!』
突如として男の咆哮が響き渡り、巨大な鉄塊がスライムに打ち付けられるのだった、スライムは水膜が割れた様な音を上げながら大きく吹き飛ばされた。
その鉄塊…大斧蛇の巨髪を構える男の背中をジュワンヌは…知っていた…
「コトト!!!!」
『ゴパパ……ッガブパパ…!』
「誰の女に手上げたかわかってるんだろうな…!」
『ジュルッパァッ!』
ズリッ…!
…上空からまるで金属が高圧で押し縮められるような、重音が響く…空に膨大な力の奔流が渦巻く、その力の中心にはまるで強く祈る様に両手を組み頭上に構えるハヤブサ
「…だが、俺じゃあてめぇに勝てないだろうな…だから」
ズオオオオオオオ……
「任せた、ヴァラック」
ググググググググググググググ………ッ…ッ!!
コトトに吹き飛ばされたスライムはないはずの知性…怒りに侵された様にコトトへズリ寄った。
しかし、黒き翼が2人の夫婦の上を翔る。
「ヴラック・ジャガー!!!」
ドバンッ!!
『ギュパァン…ッ』
ずぅぅぅぅううん…
「夫婦の再会邪魔すんなゴラァァ…!」
黒隼の急襲…上空からの両手で放つハンマー攻撃が、魔王乃唾液躍動体を大きく撃沈した。
こんばんは!
第八話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!
※コトト夫婦の名前元ネタ!
鍋でコトコト!
揚げ物ジュワー!
料理の擬音でつけた夫婦です!ネーミングセンスくれー!
前話のヴァラック!
※上空
ヒューーーーーッッ
「グッ!風圧で目が乾くッ!」
「アバッバッバッ!!?ヴァラックさぁあああん!これ本当に大丈夫何ですかぁ!!??」
いつも本当にありがとうございます!pv数を見る度に増えたpv数…自分の作品が見られた喜びで体に電流が走ります!
なんかキモいか…
2025/06/10 200pvありがとうございます!
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