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2度目のラグナロク  作者: 雪華将軍
第一章 山の竜編
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第六話 急行


ドッドドッドドッドドっ…


「ブルルル…っヒィーン…!」


「くっ…耐えてくれ!」


 昼の日差しが、溶けた雪に反射しギラギラと目を眩ませる…そんな街道の上を爆走する4体の馬がいた。


 しかし、馬は泡を口の端から漏らし息も絶え絶えである…明らかに過剰な速度で馬上の男…コトトは手綱を握っていた。


パカラパカラッ!


「リーダー落ち着くでヤンス!エミとの距離が離れてきてるでゲス!」


「っしかし急がなければ被害が拡大するぞ!」


「いいやコトト!速度を変えるのはお前だ、何焦ってるんだか知らないがこれ以上は馬が潰れる」


 不服とばかりにモゴモゴと口を動かしたが、深いため息を溢しようやくコトトは余裕を取り戻して馬の速度を僅かに下げた。


「…!…ぃ!おーい!速いですよ皆さん!」


「悪かったエミ…それとヴァラック」


「あ?」


「すまん、冷静じゃないのは分かっているしかし…一刻も早く向かいたいんだ」


「…はぁなにがそんなにお前を急かす」


パカラッパカラッ!


「それは…」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ヴァラックはギルドで出発すると決め、待機していたレインバーエインやエミに任務の出立を伝えるために小走りで待機場へ向かった。


タッタッタッタッタッ…


「まず今回のモンスターは特別討伐依頼されたモンスターだ、当然一般モンスターとは逸脱した危険度だ。」


「おう…てか今更だがそのモンスターって?」


「そうだな一言で言えば粘液動体(スライム)だ」

「…スライムか」


 ヴァラックはスライムという言葉に僅かに眉を顰める、そんなヴァラックをみてコトトは疑問を問いかけた。


「確かに今回のスライムは特別討伐のモンスターだから一般のとは一線を越す強さがあるが…何か嫌な思い出でも?」


「いや…戦った経験がほぼなくてな…」


「!そりゃそうか、ここら辺には普通出ないしな」


 _粘液動体(スライム)…言ってしまえば強酸性の体を持つ、動く細菌の集合体である。


 細菌同士が連結しまるで一つの生物の様に動くさまから名付けられたモンスター。


 分布範囲は高温多湿(・・・・)な場所で全世界に広く分布する危険度にして下等銀級(ロウシルバー)…下銀等級のチームが相手をする様なモンスターである。


「一応暖気に暖かくなったからか、冷山(・・)を越えて入ってきちまった奴となら…過去数度ある」

「戦ってみてどういう感想を得た?」


「シンプルに面倒臭い相手」


 それも当然である…細菌の集まりを殴り飛ばしたとしても意味などない、


 また細菌同士が連結し簡単に復活してくるスライム…しかも下手に触れれば自身の体など一瞬で溶ける相手、近接戦闘が得意なヴァラックはあまりにも不利な相手だったのだ。


「今更だけど私誘ったのは正解なのか?」


「確かにそう思うかも知れないが…」


「が?」


「相手にした時、お前以上に警戒するべき存在を知らない。」


 ヴァラックの強さは上銀等級からしたら異質な強さがある、オークを叩き潰したあの膂力…あの銀口鎧虎を仕留めた破壊力…しかしながらそれは金等級にもなれば恐らく普遍的な強さだろう。


 だが、ヴァラックの強さの根幹は純粋な力だけではない…


「クククク…ッ…失礼なやつだな(いい褒め言葉だ)


「お前のその狡猾さ(・・)には信用している」


「オイ本当に失礼だな!?」


 ヴァラックはあまりの失礼な発言に柄にもなく街中でツッコミをした。


 気を取り直して任務の内容について話し合った、一つはそのスライムについて対応を詰める事だ、走りながらも地図を広げてヴァラックに質問を問い掛けた。


「まず何処にいると思う?」


「そう…だな、ここが発見された場所だったか」


「ああ、この街から山の向こう側にある別の街が保有する森の中で発見されたのが最後に見た場所らしい」


「…最後に?って事は…(使い捨ての囮ってのも仮説も信憑性を帯びたな…)」


 この会話でこの依頼の闇が再び深くなるのを感じると共に、現状のスライムの位置について話し合った。


 それと同時に、遠くの検問所付近の馬小屋で残りの2人が見えてきた。


「…俺が思うに最後に現れた場所から一番近い場所にある『森』に行ったと思う」


「まぁ妥当だな…どちらにせよ森を見て…」

…!


「いや待て…」

「?どうした」


オーイ!リーダー!

タッタッタッタッ…


 駆け寄るエミの声を他所に、マップを見比べて一つの予測を立てた。


「森は無視する」


「なっ…」


タッタッタッ…スタっ


「ふぅ…なんの話をしてるんですか?」


「森は無視して馬で森の外周から一番近くの…この村へ向かう。」


「!」


 ヴァラックが指した村は森と隣接する様に作られた村で、地図から見ても最後の発見場所からちょうど直線上にある村だった。


 しかしながらヴァラックの言葉にコトトは瞳孔を開き、エミは小首を傾げた。


「えっ…と、ヴァラックさん」


「なんだ?」


「モ、モンスターなら村なんか襲わず森に入る(・・・・)と思うんですけど…」


「普通ならな」


ごくっ…

「こ、この村に行く根拠は…?」


 ヴァラックは明らかに動揺しているコトトに疑問の顔をしつつも、自身の考えを説明した。


 通常、モンスターは基本的に自分から人を襲わない(・・・・・・)…それもそうだ、わざわざ不味くて肉の臭い人なんて好んで襲うモンスターはいないからである。


「普通のモンスターが人を襲うのは森に入ったりした時くらいだ…、も…モンスターが集落に攻めることなんて滅多に…」


「そ、そうですよ!人は生物濃縮によって色々な病気を持っています、モンスターも飢餓でもない限り態々自分から攻めるなんて…」


「だが全くじゃない、改めて考えろ」


 ——スライムとはなんだ?


 エミはヴァラックの言葉に顎に手を置きながら思考を巡らせた…その時一つ思い出したのだ。


 ——『スライムは細菌(・・)の集合体』…という事に、この事実に気付いたエミは顔を青くしてヴァラックを見た。


「スライムは、細菌の集合体…なら…」


「人なんてスライムにとって(・・・・・・・・)格好の餌だろうよ」


サーーーーッ…!


ジュワン(・・・・)…ッ!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


〜場面は戻り街道〜


 「ジュワン…俺の…俺の嫁がその村にいるんだよ…ッ!」


「はっ!?リーダー!奥さんとこの街で同居してた筈じゃ!」


「この街にいる産婆が丁度貴族様のお子を取り上げるってこの街を離れてたんだ…っ」


「なるほど…ん?」


「「まさか!?」」


「ああそうだよ…!出産の為にあの村にジュワンだけ置いて来たんだ…っ!」


 街道で猛進する馬上で衝撃の告白に一同目を白黒させ、ヴァラックも流石に真っ黒な黒目が小さくなり驚愕していた。


 なにせ飛び出した言葉の人物はヴァラックにも旧知の人物だったからだ。


「お、おまっ、ジュワンヌちゃん妊娠してたのか!」


「ああ…くそっ…いつ産まれてもいい様に早期から産婆に面倒見てもらう為に雇ったのが仇となったってのかよッ…」


「っ(まさかリーダーの奥様が…だからあの門前からずっと…)」


「ジュワンヌちゃん…っクソ(重荷の妊婦がいる状況で避難スムーズにされる訳がない…)馬に気を遣いながらじゃ間に合わないなッ」


 この時代の衛生観念だ、妊婦の人間が避難に体力を使い素早く動くなど、怪我のリスクやお腹の子の事など考えると速やかに…とはいかないだろう。


 同郷の優しくしてくれた姉の様な人物の危機を感じ焦りを感じた。


「っく…!このままでは…ッ」


バカラっぱからっ!


「ーーーぴぃーーーっ…!ピィーーーっ…!」


パカラッ…どしゃっ!


「「「「!?」」」」


 その時コトトの乗っていた馬が遂に倒れた、最速を常に出し続け急に速度を変えた事による疲労…心臓に過負荷が掛かり気を失った様だ。


 倒れた馬は一体のみだが、他の馬も既に限界に近い状態であった…


グラッ!


「なっ…」


サッ…

「だから早過ぎだっていったんだ」

ぐいっ


「す、すまないヴァラック」


 ヴァラックはコトトが落馬するよりも早くその長腕でコトトを掴み、自身の馬の背に乗せた。


 コトトの乗っていた馬を置き去りに駆ける足を止めさせず走り続けたが、遂に決断を下す。


「エミーーーッ!」

「はぅっ!(名前を呼んでもらっちゃ…ってそれより!)」

「なんでしょう!」


「一番ノックバック威力の高い爆破魔法を私に放て(・・・・)!」

「「「はっ!?」」」


ちゃぽ…っごくっ…


 急な自爆宣言に一同はまたも目を見開いた、しかしヴァラックの口につけたポーションをみてコトトは納得した、それと同時に相変わらずのイカれ具合に口の端をひくつかせた。


「っぷふ…《下位能力(レッサーボディ)向上(ポテンシャリティー)液体(アッパーリキッド)》」

「っ!ヴァラックさん…わ、分かりました!」


「(ヴァラック…)よし、カウント0でヴァラックか俺に掴まれ!」


「コトト!お前じゃ耐えられんだろう」


 ヴァラックは背中の筋肉をグググっと膨張させ、マスクからチラリと見える鼻筋には血管が浮かび、眉間はまるでガルンの様に溝を作っていた。


 しかしコトトはその気遣いに無言で見つめ否を唱えた…そして自身に技術(スキル)を掛けた。


技術(スキル)!《中位硬化ミドル・ザ・ハードボディ》!」


「…いいだろう!…出っ歯ー(レインバー)エイン!エミを掴んでやれ!」


「それやめろ言ってるんで…っ、げすよっと!」

ばさっ…ドサッ!ぎゅっ!


「「準備完了」」


「サンーーッ!!」


 憧れのヴァラックや信頼しているリーダーの言葉に押されて腰に差した小杖を掲げて詠唱を始めた。


 リーダーのカウントがエミの詠唱に合わせて始まった、これはコトトのリーダーとしてのチームメンバーの細かな能力を把握しているからなせる、細かな技術である…。


「っすー…『凡ゆるを焦がすは火薬!人、これを兵器となすも人である。』」


 そしてそんなコトトのチームに属するのもまた優秀な爆破系魔法使いである…


「ニィーーー!!」


「『手を動かせ!火を放て!その威力は一夜攻城!』」


「イチッーーーっ!」


「『中位魔法(ミドルマジック)爆風(ショック・ブラスター)!!』」


「ゼロッ!!!」


BBBBBBッBoooooooooom!!


「「ぐぉおおお!?」」



「ぐ!?(思ったより強っえっ強くない!?)」


 ヴァラックはエミをあの爆風から引き摺り出しながら抱え、コトトはレインバーエインの手を引き空を文字通りの爆速(・・)で空を飛んだ。


 エミ…二つ名『高速詠唱』魔法使いながら単独で下銀等級にいたった『闘技国』きっての上位魔法使いであるが…これはまた別の話となる…。


 その才能はまさしく天才級なのだが…



「あああああああああ!!!?ヴァラックサン!胸がぁああああああ↑↑↑////!!?」


 …意外と普通の少年なのかも知れない。


こんばんは!

第六話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!


 ごめんなさい!また遅れました!

 前話で刻んだせいで、内容が薄くないか心配で直してたらこんな時間に…いや言い訳か、ごめんなさい!


2025/06/09 ヴァラックがポーションを飲み、効果を発動させる時の掛け声に正しいルビフリをしました!


 見ていただいて本当感謝です…!

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