第五話 特殊なこと
ごっきゅ…ごっきゅ…ごきゅ…
「ふー…」
「んで、話ってなんだ」
ひょいっ ポリポリ…ポリ…
ヴァラックは果実酒をあおり、奥まったところに感じる酸味のある酒をまるで常飲している水の様に豪快にグラスを傾けナッツ片手に楽しんでいた。
話しかけられたのは対面に座る1人の冒険者、短髪の大男…先日話しかけてきたエミが在籍するチームのリーダーであり旧知の仲の冒険者であった。
「ああ、簡単に言えば任務のお誘いだ」
「ふむ…まぁだろうとは思ってたが…」
クイッ…ごくっごくっ…ぷふっー…
「…不思議か?」
ボリボリボリ…ごくん…
「そりゃあお前らんとこ…かなり強いチームだろ、そこらの任務じゃ態々ソロ専の私を誘う理由がない」
ふっ…と見事な考察に口から空気を漏らし、ヴァラックに倣いショットを掻き込んだ、見事な飲みっぷりに目を細め感心し、男の言葉を待った。
「俺のチームは知っての通り標準的な編成になっている…」
ごきゅごきゅ…っコト…
「全体支援型ナイフマンの俺『ココト』を中心に、身軽で自己判断力に優れる斥候『レインバーエイン(※出っ歯瓶底メガネ)』、そしてこの間紹介した期待の新メンバー…爆発系の高速詠唱の魔法使い『エミ(※おかっぱ魔法帽15歳)』」
「一見近接が弱いチームだと思われがちだが牽制能力は十分なうえ、長期間戦が前提の戦い方だからな…時間は掛かるがどんなモンスターにも負けない自信がある。」
"知ってる"と流し目で返事を返し、また酒をあおり飲み干したヴァラック、だからこそ分からない「何故私がその中に必要なんだ?」と…しかしながらハッ…と気付いた。
「…最大火力…慢性的な瞬間火力不足の穴埋めか」
「正解だ」
「だがここらでお前らが苦戦する様な討伐許可が出ているモンスターなんて…(…まてよ?)」
「『許可が下りている』奴等じゃないなら…(導き出される答えは…)」
「特殊討伐許可制モンスターの討伐だ」
ニヤァッ…
「なるほどな」
《特殊討伐許可制》
モンスターは通常、冒険者ギルドと国が共同で扱いを判断するのだ、見た目、生息地域、食事、特性、危険度など兎に角細かく擦り合わせていくのである。
冒険者と同じモンスターに等級付けをする、しかし異なる部分があり…
例を出すと、下位木精霊というモンスターがいる。
その強さは上銅等級とされているが、それは銅等級の冒険者が倒せる…訳ではない。
銅等級冒険者が最低4〜5人必要である…という事だ。
…そもそもモンスターと1人で戦うのは普通ではない為こういう等級制になっているのだ。
事実ヴァラックも現状1人で倒せる限界はせいぜい銀等級までで、同ランクの上銀等級は物によっては単独撃破は可能で、約半数種類の上銀等級モンスターは単独で挑むことは流石のヴァラックは避けていたのである。
「ったく…何処の誰が依頼を…いや、先ずはモンスターを教えてくれっ」
「おっと…残念だが、部外者にはぁ…なあ」
「ぐ…」
しかし…こと特殊討伐許可制においては文字通り何もかも異なる。
まず選考基準の重要度が強さではない事だろう、通常の等級付け時はなによりもまず『強さ』を基準にしている、というのもほとんどのモンスターが強さと危険度が直結しているからだ、だが…特殊討伐許可制が掛かっているモンスターは『強さ』より『特殊性』による討伐の厄介さだ。
ここでも一部例で過去にいたモンスターを紹介する…
強さ自体は下黒曜等級…適当な鉄剣で叩き切れる程度の強さしかない砂漠化蟻群というモンスターがいた。
シンプルな名故、知らない人達は侮りがちだったモンスターで実際かなり弱く、このモンスターが増殖してしまった国があったのだが当国の兵士によって討滅されたとおもわれた。
だがその3日後にその国は滅んだ、
実はこのモンスター…地中で生活をするのは平均的な蟻型モンスターであったのだが…コイツは土を食らうモンスターだったのだ。
表面上は討滅したと思われたモンスターが地中で、その国の地面を食らい増殖…国の地面は瞬く間に液状化し多くの建物が一斉に倒壊したのだ。
「確かあの蟻を殲滅するのに金級が4人も駆り出されたらしいな」
「結局…金級2人掛かりで結界を周辺120kmまで円球状に張って3日3晩の水責めで、人を除く全ての生物諸共窒息で殺したんだとよ」
「120…ククク…ッ恐ろしいな…私も逃げられる自信がない、流石金級サマだ」
ヴァラックはココトの話を聴きながら自身が慣れない金級の逸話に肩をすくめた。
そして今回の異常性に片眉を歪めずにはいられなかったのである…しかしながらそれは当然である。
「…あんまり言いたくないけどさ」
「…俺も多分同じ事思ってるから気にするな」
「んー…んーその…」
「…つまり…えっと…役不足過ぎないか」
「あれだけ悩んで結局言葉が厳しいッ!!!?」
事実だけど…!事実だけど…ッ!…とわざとらしく目元を袖で覆うココトに『下手な演技ー…』と心の中で思いながらも表面だけは慰めるふりをした。
2人は下手な小芝居をそこそこに、今回の依頼について2人で思案を加速させた。
「んー…何故なんだろうな」
「…私が思うになんだが」
「なんだ」
「……使い捨て前提の威力偵察」ぼそっ
ヴァラックの言葉に眉間から流れる冷や汗を感じつつ、何処か心の奥底で納得していた。
そもそも一介の冒険者…依頼の内容と銀等級に出す依頼書にしては文面が簡略化されすぎていた、それに特殊討伐許可制モンスターの討伐許可が異常に早かったのだ。
「な…るほど、なるほど…確かに一番しっくりくるな…」
はぁ…
(そんな事がまさか自分に…くそ…)
「…多分、金等級を出すには情報が不測だったんだろ、まず適当な冒険者向かわせて倒せれば金等級よりも破格に安く済み…」
「負けても…死体を回収して復活させれば金等級に情報提供が出来るから多少安くなる」
「それにお前たちが敗れた場合は任務失敗という理由で報酬を減額するつもりだろうな」
「確かにこの貴族様ならやりかねない」
「…ってやっぱり貴族か…許可が出やすかったのも大方領内であるからだな」
ココトの心情はやはり複雑だろう、当然その家族に対しての怒りや嘆きもある、しかしながらこの件を無視すれば別の者が許可を取る必要が出てくるため被害が拡大するかもしれない。
恐らくそんな思惑もありスムーズに許可が降りたのだろう…外堀を埋め選択肢を減らす為に…
「くだらんな」
「?ヴァラックそれはどういう…」
「行く価値がなさすぎる、この依頼は流した方がいいと思う」
「な!?」
ヴァラックは何も被害を受けている者たちを見捨てる発言をしたのではないのである…そもそもこの依頼は色々と荒過ぎる。
結局詳細を聞いたヴァラック…コトトから聴いた話では、既に被害が出ているらしい…なのに避難の一つもせずにいるのだ、見たわけでは無いが…この依頼通りに考えれば被害が出た場所や規模を考慮したらこの街にも噂話のひとつでも流れるはずだ。
「崇高な騎士を気取る訳じゃないが流石にこの依頼は見過ごせない…」
「被害が出てるかすら怪しいが…」
「いや…無能貴族がわざわざ依頼を出している以上、既に被害が出てるはずだ」
「よく分かってるな、この貴族が被害が出る前に行動ができる程機敏には思えん」
別にその貴族に詳しいわけではないがこの時代だ、近隣の貴族の話など毎日の様に耳に入る…特にこの依頼主である貴族は自国民よりまず保身に入るタイプというのはなんとなく察せた。
ヴァラックは苦い顔をするココトの肩をぽん…と叩き選択を迫った。
「2択だ」
「…」
「1、依頼を断る、そもそも金等級が熟すレベルの特殊許可モンスターだ…逃げても仕方がないと周りの冒険者に追求される事はないだろう」
「…」
「2、私と共に火急発つ、情報もなく…準備もなく、依頼主に乗せられ…時間もない、不安定要素を抱えたまま未知のモンスターに挑む」
ごとっ…ぐび…
どうする?と言いたげに顎でコトトを指すヴァラックは、マスクをずらしてコトトの酒を奪い飲んだ。
コトトは閉じた瞳を開き机に両拳を叩きつけた…周囲の喧騒は止まり、ヴァラックの目玉とコトトの視線が交差した。
「直ぐに行く…!俺についてきてくれ!」
どん!!!
「なら今からだ!旅行はまってくれないぞ?」
貴族の思量に自分から乗せられた、危険な危険な弾丸旅行が決行された。
※ヴァラックはガルンに伝えず出た為、ガルンは1人で2人分のご飯を食べる羽目になった。
「アイツ割とノリで動くんだよな…」
モモモモモモモモモモモモモモモ…
「うま」
ごくん…っ
こんばんは!
第五話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!
※どこでガルンが起床用に楽器を仕入れているのか!
ガヤガヤガヤガヤ…
「ん…これは…」
がしゃ…
「…っ」そわっ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「毎度ー」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
朝
しゃーーーーーーん!
「うるっさ!!?」
「朝だ、今日のご飯は ……」
楽器屋さんで購入していた。
いつも見ていただき本当に感謝しています!ありがとうございます!