第四話 素晴らしい1日…?
コゲコッコォォーーーオ!
ヴァラックの朝は早い____。
「くぅぁ〜〜〜…」
「…眠いな…」
「寝るか…」
バァアァーーーンっ!!
「おぅっふぉ!?」
二度寝をしようと起こした上体を下げ布団に潜ったその時、カーンと高い金属音が鳴り響きヴァラックは飛び起きた。
そこにはシンバルを持ったガルンが立っていた。
「相場はフライパンだろ!?」
「今パン焼いてるんだ」
「というか昨日はコングで一昨日なんてミュゼッ…そもそもミュゼットってなに!?」
「今日の朝はイチゴと林檎を乗せたフルーツトーストだ」
「話…ッ話聞こうよ…!」
何故か毎日独特な起こされ方をする事に言い難いイライラを覚えつつ、ヴァラックはカーテンを開けた。
寒冷地特有の曇り空に鳴きもしないモコモコの鳥…リアルな朝なんてこんなもんだよなと思いつつ、いつもの朝の景色に安心感を覚えた。
ふぁぁぁ…ぁ…
「あ〜…あぁ…ネミィ…」
グツグツグツ…
「"スン…ッ"…昨日のブイヤベースの残り…!」
とっとっとっとっとっ…♪
ヴァラックはいい匂いを嗅ぎながら朝ごはんに胸を膨らませた、軽い足取りで廊下を歩く音が僅かに聞こえる…。
そんな足音に「フ…」と目を閉じ思いに耽るガルンは、ストーブで鍋を温めながらフライパンの上に乗せたフレンチトーストを皿に乗せ盛りつけた。
そ…っ
「ハハハ…(ったくアイツは大人になっても変わらんな…)」
ザクっ…
かちゃっ…とろっ…
「ん…と、これでいいか」
「ご飯出来た?」ひょこっ
「ああ、座りなさい」
ガルンはトーストに焼き林檎と苺ジャムをのせ、軽く塩を振った…これにより果実のさっぱりとした甘さが際立つのである。
ひょこりと顔を覗かせたヴァラックに(やはり変わってないな)と、人よりも大きな体であるヴァラックよりも更に大きいガルンに取っては可愛いものだった。
「いただきまーす」
「はいよ」
カチャカチャっ…ぱくっ
「うまっひ」
「良かった、鍋の残り率先して食べてくれ」
2人は甘いトーストにキリッとした目元を僅かに緩め穏やかにした、トーストとブイヤベースという甘いしょっぱいというエネルギーの塊…
普通なら太ってしまう量だが2人は常人よりも大きな体躯の為これくらいは必要なのであった。
もぐもぐ…ズズズ…
「ってか…"もぎゅもぎゅ"組み合わせ"ごきゅんっ"っふっー…悪くない?」
「ふっだがそれが」
「「良い」んだよな」
「甘いしょっぱいは無限だよ師匠」
「クククっ…はいはい、いっぱい食べなさい」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
食事を終えたヴァラックは洗い物と庭で軽い運動を始める、何か特別な…厳しい…という事もなく普通のトレーニングである。
ヴァラックは軽く屈伸し、前後に素早く飛ぶ反復運動を始めた、いわゆる反復横跳びの前後版である。
トトトトトトトトトトトト…
「フッ…フッ…フッ…」
トトトトトトト トッ!
「ふーーーー…」
ザッザッザッ…
反復運動を繰り返ししばらくが経った時、ガルンが尖れていない被殺傷の棒を構え…上段から突き刺した。
それに合わせヴァラックが一際大きく後退した次の瞬間、鋭い音と共にハイキックを打ち出した。
「はっ!」
パァン!!
「速い、いい速度だな」
ギリリリッ!!
「ハァーーッ!」
バギャッ!!
あまりの速度に竹が粉々に破壊される暇もなく綺麗な断面で切断された、それを兆しにヴァラックは前方に鋭く攻め込んだ、しかし…
ばしっ
「なっ…(掴まれっ!?)」
ギチッ…
「軽過ぎる、切ればかりを求め過ぎている60点」
「ぐぅ…っ!」
グイッ! シュッ…!
簡単に首を掴まれたヴァラック、微妙に足が地につかない高さで掴まれた。
即座に下半身を持ち上げて、ガルンの掴んでいる側の肘を自身の膝で狙った、がまたも
ぶんっ!!
「投げっ!?」
それよりも早くヴァラックを真上に投げ飛ばした、くるくると上下左右が分からない状態で、体勢を直す間も無く空中に放られた。
ヴァラックは自身にかかる浮遊感が消えて落下している事を把握した。
「くっ!?体勢をっ…(このままじゃ下から突き刺される…!)」
「ならばっ!(地上から刺してきた所を狙えば…!)」
ヒュゴゥッ!!
「!」
ガツン!
「……〜〜〜っぐあッ!」
ガルンが地上から投擲したのであった、ヴァラックは折角直しかけた体勢を崩されくるりと半回転し、背を向けた状態で落下した。
ガルンは二つに割れた棒の残った方を足刀で尖らせ、地面に突き刺した…当然鋭利な方を地面に向け、大怪我しないように配慮した。
「 」ボソボソボソ…
「いてぇッ…!」
「し をつ ろ」ボソボソ…
「?(何かいっ____
ゴスッ!
ぶぇ!?」
ヴァラックは何かガルンが話しかけているのに気づいた、しかし何を言っているのかは聞こえなかった…次の瞬間に背中に猛烈な痛みが走った。
ドサァッ…!
「あばっばっばっ…」
「いやだから…したに気を付けろ…って」
「 」ぐったり…
棒だ、地面に突き刺さった棒がヴァラックの腰に突き刺さった…常人ならギャグじゃ済まないが、ヴァラックの耐久力ならば皮膚を突き破ることはない、そんな安心もあって投げ飛ばしたのであろう。
…まぁ流石のヴァラックも立ち上がることは出来ないのだが。
キュポンっ…
「戦いの基礎も基礎だが…飛んだら死ぬからな…」
ドプドプドプトプトプトポポポ…っ
「………〜〜〜〜ガッ…!ハァッ…ッ!」
「調子に乗るからあんまり言わないが間違いなくお前は強い…概念的じゃなく遺伝子からすでに優秀なんだ。」
「〜〜〜っはっはッ…!くっ遺伝子ぃ?何だよそれ…」
ふっーーー…いてて…
ガルンはポケットから取り出した緑の試験管をヴァラックにかけた…いわゆる即時回復薬液である。
背中の痛みが取れてきたヴァラックは呼吸を整え、ストレッチをしてすぐに体の疲れを和らげた。
「…まぁ…経験不足だって事」
「はぁ…私上銀級なんだけど一応」
むす…っ…
「それ止まりだ、等級は細かい所まで厳しく定めているらしい、このままじゃお前は金にはなれないな」
《冒険者等級システム》
一番最初の公式的な記録は1500年前に作られたとされているが、実際はそれよりも昔からあるシステムである。
とある大帝国の帝が作った冒険者ギルドという組織、その中で適切な実力を分かりやすく区分したものである。
下から、
『原石』
『青銅』
『黒曜』
『銅』
『銀』
『金』
原石級は文字通り真っ白な状態である、登録して最低一ヶ月から最大三ヶ月まで如何なる場合に於いてもこの等級になる。
そして青銅、黒曜、銅級のいずれかに振り分けられる、実質的に青銅級が一番したであるが7割方この等級に収められる。
「まぁ…確かに私も最初は黒曜級スタートだったな…」
「ヴァラックはその時確か12〜3だった、有名な冒険者も最初は皆んなブラウンなんだ、それをお前は一つ上のオブシディアンで通った、確かに凄い…が」
いきなり銅級は本当に珍しく、500分の1程度の確率だ、というのも等級上げにはかなり厳しい審査が掛けられており、申請を受けた支部は当然…国にある総支部による精査、そして前述にあった大帝国にある冒険者ギルド本部により承認され始めて等級が変化するのである。
更に等級には「下銀級」「銀級」「上銀級」と言った細かな区分もされているが、あまり重要ではないので割愛する…。
「若いうちから強過ぎたんだ…失敗や敗北を知らなかったせいで今伸びが悪くなっている」
「…自覚はしてる…けど」
「…分からない…か。」
ん…
ヴァラックは強かった、確かにガルン鍛えられたというのもあるだろう…しかし一番の原因は『そもそも遺伝子から強い』のだ。
ガルン曰く、ヴァラックの両親も強い細胞人たちだったらしい。
「…(コイツの潜在的能力からしたら大した鍛え方はしていない…やはりお前はアイツらを越えた才能があるからなのか…)」
グッ…
握った拳を静かに見つめるヴァラック…
「確かに自分でも慢心している自覚はある…でもこの流れる血が上手く誘ってくれる…いっちまう…」
「…」
「文字通り…血が騒ぐんだよ…」
「…すまないヴァラック…」
ぎゅ…
ガルンは静かに抱き寄せ、後頭部を撫でた…寒冷の暗雲がガルンに影を落とす
ぎゅぅ…
「お前の父と母も似た様な悩みを持っていた…」
「…」
「今は…まだお前に話せない事だが…いずれ時が来て…俺の覚悟が出来たら全てを話す…」
「…ん…ゆっくりでいい」
ガルンの脳裏にはかつてのヴァラックの両親が映った…ヴァラックの成長を見せてやれなかった後悔と……………から深く刻まれた眉間の皺が更に深い溝を作った。
ガルンはヴァラックに向き合いヴァラックの顔をしっかりと見つめた。
その瞳に映ったヴァラックの成長と過去がフラッシュバックし昼間なのにも関わらず暗雲の暗い影がガルンを包む…顔は既に元通りに戻っており優しくヴァラックの頭を撫でた。
「…ハハハ…急にごめんな、ハァ…もう俺もジジイだな…ノスタルジックになってしまう…ハハハ」
「…師匠って何歳なの?」
「はははは、さ、汗掻いたろ?休憩にするから水浴びしてきなさい」
「何歳な「山登り12セッt」
「行ってくるわ!」
びゅんっ!!
「あっちょっ速っ」
ガルンは山登りのトレーニングをさせようと落とした瞼を開けた、しかしそこには既にヴァラックは在らず…砂埃とヴァラックの声だけが響いた。
ガルンはそんなヴァラックをみてやれやれと肩をすくめて、ヴァラックの頭を撫でるために座っていた体を立ち上がらせた。
「…気、使われちゃったな…」
「…あの子は立派に大きくなった…だがお前らと一緒って戦いでの驕りが凄い」
「まぁお前らを育てた俺が鍛えるんだ…だから安心してあの世で見守ってくれ」
「モーラルト…ピュルテプル」
こんばんは!
第四話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!
※飲酒しているヴァラックを見るとガルンはこうなるぞ!
"ごくっ…ごっ…くん…"
「ふー…新酒の割に旨いな…」
ガララっ
「ただいm」
「あ」
「お酒…そっかぁ…飲み過ぎるなよ…」シオシオシオシオ…
ガララっ…ピシャっ
「師匠の目が八の字に…っ!えっそ、そんな目元だけで分かるほど萎れる!?」
〇ガルンの脳裏に浮かぶ謎の影
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