第三十二話 守護者の眷属
もうなんか止まらんのだが、カクヨム先週の週間1100位台、なんか上位2.9%らしい…そ、そんなか…?
『さぁーーー!『オリオン』!ヴァラックの登場だーーーーーッ!!』
オオオオオオオオオオオオオ!!!!
「…頑張って下さいヴァラックさん…」
遂に『オリオン』の登場に会場は、最高のボルテージを刻んでいた…、というのも、オリオンの塔は今の王者が君臨してから「初めて」使われたシードなのだ。
…私自信初めて見た…、毎年見ているが「覇者」以前の「王者」も殆ど使う事はなかった…、そして「歴代の王者」が初めて使ったのは「王者」が「王者ではなくなる」年の事だった。
「(つまり、このシード…『オリオン』が示す暗示は『希望』…)」
—ここ6年、一度もなかった偉業である…、そんなシードの存在にすでに登場していた参加者たちは、静かに注目を集めた。
———まさか、北西辺境「ルアン」の「黒隼」が来るとは…。
参加者の誰かが、若しくは誰もがそんな事を考えていた…、それもそのはず、度々出てくる「黒隼」の名前は、ある意味力の象徴的に有名なのだ。
「あれは…やっぱり『黒隼様』…!ま、まさか会えるなんて…!」
蒼い軽鎧にショートソードを腰に下げ、赤いマントを背負う少女が独り言を呟く…。
「ガフガフガフ…まさか『北西の暴力』が来るとはのぅ…」
脇に刺した打刀を撫でながら、頭を掻く糸目短髪の爺が周囲の参加者たちに同調を求める様にあえて大きな声で発する…。
「ふふふ…まさか私たちを差し置いて…シードに選ばれるなんて、誰かしらと思ったけど…あの子なら妥当、ね」
扇子で鎖骨辺りを隠す淑女は、紫のレースで顔を覆い、服装はドレスのように細かな装飾と、ヒラヒラとした服装、レース越しに見える目の輪郭が何かを考えるように細まった。
「…」
ヴァラックよりも二回りほど大きな男は、上裸で仮面を被っている…その頭はスキンヘッドで、細い筋肉と長い手足が何処か不気味だ…。
現れたヴァラックには目も合わせず、一言も発さなず静かに棒立ちしていた。
…全員強いな、流石に…特にあの『仮面の大男』、上裸に長身が合わさってまるで「師匠」みたいだ…が、肉のつき方が違う。
アイツの肉は明らかに武器使いだな…、にしては武器も持たずにぼっーと立ったるだけだしな…。
変な奴もいたもんだ…
『さぁ!これで決勝戦登場の「覇者」を除く、全ての選手が入場しましたぁー!どいつもこいつもソーソーたる顔触れだーーーーっ!!』
『入場によるボルテージがマックスになったところで、毎度の事ながらお知らせです!』
『参加者のみなさまは、試合開始の準備が15分後に行われます、参加者たちによる「パフォーマンス」の準備をお願いします!!』
「えっ」
パフォーマンス…?チケッ———…トの裏には書いてない…な、あれ…パフォ…パフォーマンス…!?
えっ、私何も準備してないぞ?そもそも師匠からそんなに見目の良い技なんて教えてもらってないし…。
突如として宣告されたパフォーマンスをするという事実に、ヴァラックは酷く困惑した、それと同時に視線をゆるりと他参加者たちに向ける。だが、いやに自信ありそうな人ばかりで余計に焦るという地獄。
「よ、よーっぅし!頑張るぞ…!」
(黒隼様、見ててくださいね…!)
「ふふ…魔法使いの私たちにとって…、映える舞踊は、やっぱり、一番最初に鍛えるモノでしょう…?」
「ガフガフ…、この爺さんも若い頃ぁ…よく前座として舞ったもんだ、魔法だけが華じゃねぇと魅せてやる…」
「…」ぽりぽり…
まぁ唯一、仮面の大男だけは「しまった」と言わんばかりに無言で額を人差し指で掻いていたが、仮面も合わさり、そこまでの動揺は見られなかった。
当然ヴァラックもポーカーフェスで凪いだ真顔で、親指で人差し指を掻いていたが、内心『バクバク』である。
——やべぇよ、なにもねぇよ…んだよ戦うだけじゃねぇのかよ…。面倒くせぇ…だから嫌だったんだよ…ああ本当にどうしようか…。
「…15分か、何か用意しなければ…」
今の今まで、クールにポケットに手を突っ込んで立ち尽くしていた私だが、参加者たちが捌けるのを見て、ようやく悠々と歩き出す。
…もし『見せ物』を用意してなくて焦っているなんて知られたら流石に恥ずかしいからな…。
ヴァラックは、焦りを隠す様に敢えてゆっくりと歩を進める。やはりと言うべきか、そんな様子のヴァラックを見て他の参加者は舌を巻く、『覇者』に認められた人物だ、期待が高いのは当然であろう。
「(本当、なにしよう)」
まぁ、いくら格好付けても、何やるか決まってすらいない私の現状は何一つ変わらないがな。
ヴァラックは、とりあえずデルタたちの下へ行くことにした。行ったところで何かある訳ではないのだが、何もしないよりマシだと思いながら、控え室へ歩く。
○控室
「で、どうしようか…?」
「「「何も決めてないんですか!?」」」
「ごめんて」
本当情けねぇよ私…、折角『専用装備』まで着込んで、カッコいい着地決めて登場!でも必要になる芸なんて何も仕込んでないって言う、どうしようもねぇな…。
若干自暴自棄に思考を投げ打つがこのままじゃ何も変わらないと、重い頭を持ち上げて、立っているデルタたちに視線を向けた。
意外に視線は優しいのだが、それが逆に「効く」のは仕方がない事であろう。
「…服、そう、新しい装備!かっこいいですね!!」
「やめてくれイマチュイア、私にその慰めは今、効く」
「あ、あはは…いやでも本当かっこいいですよ?」
今の装備は…確かに格好いいと思う、そりゃあプロに外注してデザインされたオリジナルだからな、並よりはいいだろう。
——
いつものマスクとズボンに肩、しかしそれ以外の装飾が大きく変わった。
・より全身は黒い装備に包まれた。
・フード付きのヘソだしジャケットを羽織り、フードを被る。
・トップスはいつものタートルネックから、腹筋の形が分かるくらいにピッチリした黒のタイツ
・緩く首元を覆うネックウォーマーに、金色のゴテゴテしたチェーンを付けてある。
・左側のみ伸びた腰布は、少し厚手でコートの様な質感だ。
・左手に括り付けられたアームシールドは、『手の甲側』ではなく、『手の平側』に付けられた少し珍しい付け方。
・何より、ヴァラックの背中に下げられた『中サイズの剣』が、拳で戦うヴァラックしか知らないデルタたちにとって、新鮮なものであった。
——
「その剣…使うんですか?」
「ん?ホリーナよ、そう言えばお前は剣の扱いに長けていたな、確かにお前からしたら私が剣術を使えない様に思うだろう…」
「実際特別得意でもないが…」と言葉を綴るヴァラックを見て小首を傾げるホリーナの反応は正しいだろう。しかし、そんなホリーナを見て、ヴァラックはフードから除く目元を細めて笑う。
「まぁ、折角の舞台だ、ちょいと遊び心がな?」
「いやいいんですが…ってそれよりパフォーマンスどうしましょうか?」
『がっくり』と首を再び傾げるヴァラックは「現実逃避」で目を背けたい事実にしっかりと向き合うことにしたが、目を向けたところでどうしようもない事もあるのだ。
——ふと、頭を上げると、パフォーマンス内容に頭を悩ませるデルタたちの背後で、『無機質で大きな物体』が目にぼんやりと飛び込んできた。「醜悪な顔をした怪物の石像」だ。
「石像」
「?…ああ、『グロテスクの石像』…ですね、立派」
「グロテスク…?」
「はい、あの【世界創造の三柱】『法解の守護者』様の眷属を模した悪除けの装飾品です、ヴァラックさんの地域ではないのですか?」
——そう言えばあったな…、街の小さな教会とかで飾られているのを見た事がある。あれは確か『ガーゴイル』?とかササキさんが言ってたか?
何故か師匠はその石像について何も教えてくれなかったけど、周りの人たちにとって常識的なモノらしい。
「こっちは街の教会で、口部分から雨水を吐き出す奴ならあったな」
「あ、それは『ガーゴイル』ですね!ガーゴイルは建物内の悪いモノを吐き出す建物の装飾のコト、まぁ実際は建物に水が貯まらないように排水する雨樋ですが…」
「『グロテスク』は、排水機構のない石像の事です。」
「『ガーゴイル』が悪を吐き出し、『グロテスク』が悪を寄せ付けない…って意味が込められたモノらしいです」
『グロテスク』と『ガーゴイル』の違いを高らかに話すアハートと、人差し指をピンっと立てて、メガネを「くいっ」と動かす様な動作をするホリーナ。純粋に「そうなのか」と感心する、やはり物事には何かしらの理由があるのだと。
—そこで「はッ」とする、これはもしやいけるのでは?と——。
「よぅし…それで行こう。」
「「「???」」」
「ヴァラックさん、何か…思いつきました?」
「ああ、デルタよ…、お前たちに頼みがある。今から言うモノのできる限り『大きいモノ』を買ってきてくれ、すぐにだ。」
座っていた椅子から『ギィ』と音を鳴らして立ち上がる、正面に立っていたデルタたちが左右に捌け、私は数歩前に歩き、『グロテスクの石像』を撫でる。
——数撫でした所でヴァラックは振り返り、財布を投げ渡した。買うべきものを聴いたデルタたちは目を丸くし驚いた。
「「「そ、それですか!?」」」
「『大量』ではなく、『巨大な』物を頼むぜ。デルタ、3人娘だけじゃあ持てないだろうから、荷車もついでに借りてそれに載せな」
「ん…?…大金貨が123…、上限まで買うんです?」
「ああ、それまで悪いが…私は『ソレ』をどうするか考える…10分くらいでよろしく出来るか?場所は会場ど真ん中、放り出してくれればいい」
アハートたちはそれを何使うのか…そして何より、『そんなモノを持ってくる事』が出来るかどうか分からず頭を捻る、しかし、デルタは一切の迷いなく言い切るのだ。
「任せてくださいよ、タイミングは?」
「それも任せる」
「了解、よしお前ら行くぞ」
まだ会って数日…しかしこの女は私の考えをよく分かっている。
薄らニヤリと笑う私の目元に気付いたデルタは、腕を組んだまま、したり顔で親指を立てて呼応する—。まったく…果てし無く素晴らしきかな、デルタ・カーネーション。
「さぁて…」
「『作ろうか』…」
酒か何かあれば構想が捗るんだがな…。などと思いながらもポケットからたまたま出てきた「『パステルミルク』風カクテル」という、少し変わったカクテルを楽しめる小瓶を開いて、マスクを僅かにズラして瓶をマスクの内側に放る。
きゅ———……ぅぅ…
——頭を真上に傾けて、酒を愉しむ…、再び顔を真っ直ぐ前に向けてマスクを僅かに浮かせば、下に構えていた手のひらに、空になった瓶が『ぽとり』と落ちてくる。
そんな『パステルミルク』の「酒言葉」は——
——『遊び心』
こんばんは!
第32話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!
※パステルミルクなんてカクテルはありません、造語です。しかし『カルーアミルク』というカクテルに『悪戯好き』的な意味合いがあります。『パッション』という蛍光色をイメージする無邪気さ、『ミルク』という子供らしさを合わせて『遊び心』と言う意味にしました。
いつもご覧になって頂き、ありがとうございます!!文章力少し上がったと思いません?カクヨムで私の作品を紹介して下さった方にオススメされた作品を読んで勉強させて頂いたんですよ。
ヴァラック コロシアム用装備
https://47325.mitemin.net/i995105/
割と真面目に、良くなったと思う方は ☆☆☆☆☆ でお教え下さい!