第二十五話 さらば暑さよ、永遠に(強調)
〜服屋〜
外気よりかは涼しい店内にて、ヴァラックはアハートら3人娘に引っ張り回されていた。
「…元気だなアイツらは…」
そこは服屋であった、だが女性専門の可愛らしい服屋ではなく、どちらかと言えば男性向けのガシャガシャしたゴツい服ばかりが並ぶ店であったのだ。
「ヴァラックさん!こちらのカーゴパンツなんていい感じですよ!」
「今のと殆ど変わらんだろう…」
「お客様、こちらは遮熱性に優れた商品となってます、少々値段が張りますが、従来の大凡45%の熱の伝導を防ぎ…」
「それ3着貰おう」
あまりに早い会計にデルタたちはまたも驚いた、アハートらは可愛らしく喜ぶのだが、金遣いが荒いヴァラックにデルタはもう若干引いている。
「金…大丈夫なんです?」
「いや常温で歩くのも辛い現状、耐熱装備は必要経費だろ?」
「そうですが…大金貨何枚いきました?」
「白金1と銀ちょろちょろ」
ヴァラックの浪費に顔を覆う…、だが思えば年収で言えば『上銀等級』冒険者は収入上位職種ではあるのだ、上銀等級冒険者の平均年収は「白金貨12枚」(※1.200万)である。
「……よく買います…ね」
「500mクラスのドラゴン倒したんだ、痛くない出費だ」
「500…?」
「死ぬほど強いがな」
_どこか目を細めて毛先を弄るヴァラックは何もない空間を見詰める…、その脳裏にはかの竜…『山王の翁竜子』の死にざまを思い浮かべていた。
気高き竜の地に伏す姿…理性なきかの竜は最後まで抗ったのだ、肉裂け骨砕けて4足が立たなくなる最後の最後まで立ち向かうあの姿に耽っていた。
「また戦いたいな…」
「500…mのドラゴンって…地竜種ですかね?」
「多分な、よし…そろそろ店でるか。」
「「「またのお越しをお待ちしております!」」」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
いくつもの買い物袋を手提げで中央街道から少し外れた道を歩むヴァラック一行、服屋から出てきたヴァラックだが…服装は依然変わらないものであったのだ。
「ヴァラックさん、折角買ったのに着ないんですか…?」
「そ、そうですよ!実際今も汗だくじゃないですか!?」
「フッー…あ、あぁ…せっかくなら…フルカスタムしようと思ってな…」
だくだっくに汗を滴らせるヴァラックさんを見て私たちは、疑問を唱えた…けど、ヴァラックさんは冷感の服に着替えることはなく、真っ直ぐ『魔法街道』へと歩を進めるのでした。
私たち3人組とデルタさんは目を合わせてただヴァラックさんの後を辿る…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おじゃまするぜ…」
「…らっしゃい」
からりとスライドドアを開くヴァラック、そこは煌めく宝石や鈍く光る鉱石がディスプレイされた少し小さな内装の鉱石店であった。
店主の男は丸い鼻に小さな身長の『土長命亜人』が、切り株のスツールにドッカリ座り込み宝石を磨きこんでいた。
「いくつか能力を付与する用に石を買い込みたい」
「…目利きぐらい出来んだろうな?」
「(うっわめんどくさいタイプの職人かよ…)ヴァラックさん、こうゆー店はモノがいいとか適当いって、客を騙すタイプですよ…」
ぼそ…
ヴァラックは店主のジト目に素知らぬ顔で近づき、中腰で目線を合わせるのだが…やはりというべきか、ヴァラックを試すように磨いていた鉱石をカウンターに置き、ヴァラックに真っすぐ視線を合わせてきた。
そんな店主にすっかりアハートは直帰を選びたくなった、確かに一般的な宝石店より個人経営の店の方が品質はいいが、大体気難しい店主ばかりなのだ…職人気質といえばいいのか形骸化した価値観に置いてかれた老が…なのかわからないが…。
だがヴァラックはそんな店主や背後から「帰りましょう」と呟くアハートをよそに、ドワーフの店主の視線に真っすぐ答えた。
「多少、だが詳しくは知らん…だから教えてくれ」
「おう、まずこの青い宝石はな…」
「「「あれぇ!?」」」
騙されるかさっさと帰れと言われると思った三人娘は素直に解説してくれる店主を、変なモノをみたような顔で見つめる…。
ドワーフの店主はあたかも当たり前というように、肩をすくめて言葉を続ける。
「ふん…知らないのに知ったかするヤツが多いからな…、そういうやつぁ帰らせる」
「な、なるほど…?」
「この嬢さんは素直に知らんと言ってくれたからな、なら誰かが教えてやらぁ…イカンだろう」
ドワーフの店主曰く…、
所謂気難しい職人ってのは…自分の子でもある商品を大切に扱ってくれる人を探してるんだ、無知な人間に自身の傑作を渡すなど出来るはずもない…と。
「だけんど、誰も最初からそういう知識や目利きがキクわけじゃないけ」
「なら…俺ら職人が教えてやらな、誰が教えてくれるんだってんだ。」
「そういう事だ、アハート…は素直に聞きそうだが、イマチュイアとかホリーナ…、特にデルタ、知らんなら素直に聞けよ」
…まぁ、コイツらは意外と素直なヤツらだから問題ないだろうな…そう思いながら私は店主の丁寧な説明を相槌をしつつも、静かに傾聴する…、にしても暑い…。
暑さに汗が止まらないヴァラックはまずこの暑さを何とかしようと、店主に質問を問いかける。
「耐熱、冷感の付与に向いている石って何がある?」
「…ふむ…それなら加工屋で買う方がいい、嬢さんが欲しいのは恐らく日常生活用のモノだろう、向こうなら付与済みなのが買える。」
「そうか…じゃあ今はいいや、それじゃさっき言ってたヤツと…ソレを50g頼めるか?」
お安いご用だ…とディスプレイから宝石を革袋に包み、カウンターでいくつもの革袋を列べる、中から聴こえる硬質な音が宝石や鉱石だとデルタには分かった。
…正直な話デルタは防具などに拘りがないし、ましてやオシャレや装飾品にも拘りが本当にないのだ、なんとなく「綺麗だな」とボンヤリ観ていたのだが、カウンターでヴァラックが取引しているのを見て意識を変えた。
「おう、いい買い物だった」
「そう言ってもらえて嬉しいよ、加工屋は反対の3つ先の店だ。」
「ヴァラックさん次は加工屋…ですか?」
そうだ…、そう一言デルタに言いイマチュイアの頭を撫でて店を出た、少し暮れてきた陽を見上げて加工屋へと足を伸ばす、滴る汗を軌跡に真っ直ぐへと私らは加工屋へ入店する。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ん、いらっしゃいませ」
入店すると、先ほどまでの圧迫感溢れる宝石屋とは異なり、広々とした高級感あるモダンな店内で、爽やかな木長命亜人の男がカウンターで直剣の柄を叩いていた。
「初見さんだね、はじめまして」
「はじめまして、早速だが急ぎで一つ購入したいのが…!いいか?」
「急ぎっ…て…その汗を見て察したよ、防熱系のアクセサリーだね」
ヴァラックがカウンターへ近づくや否や、店主の男は握手を求めてきた、特に断る意味もないが…汗が凄いのであまり近づきたくなかったのだが、失礼だと思い軽く握手を交わす。
「じゃあ、アクセサリーコーナーはそこにあるから選んで下さい。」
「そこか、…防雷発熱に空中失速……あった!防熱と冷却…1つ大金貨5…高っかいな…!」
財布の紐を弛め貨幣を指先で弾きながら大金貨を取り出してカウンターへ向かう、もちろん片手にはアクセサリー二つを握りながら。
「『防熱の指輪』と『冷却のイヤリング』お値段大金貨5枚、2つ購入で値引きして…大金貨7枚と銀貨6つです。」
「2…4…6…、はいちょうど!」
「拝見します……、はい確認致しました、ご購入ありがとうございましたー!」
「イ、イヤリング…取り敢えずマスクの布に付けて…と」
貨幣を手渡して急いで購入したアクセサリーを身に付ける。
指輪を中指に…、イヤリングを口元を覆うマスクの布部分に着けると、見る見るうちに大量の発汗が鎮まり、辛そうな顔も次第にクールな顔付きに戻っていった。
「ヴァラックさんの今にも溶けて死にそうな顔が…!」
「ヴァラックさんの滝の様に流れた大量の汗が!」
「ヴァラックさんの過呼吸気味な吐息が…!?」
「「「普通になって、カッコいいヴァラックさんになったーー!!」」」
「ふっー…、すまんな迷惑掛けた、これからは普通の生活に戻れそうだ。」
汗を流した事で、引き締まった顔付きで髪を指で梳かすヴァラックは、アハートら3人娘には果てしなく美しく見える、憧れの人…という補正はもちろんあるだろうが、女性にとっての憧れの的なのだ、仕方ないだろう。
汗をポケットから取り出した布で拭うと、店主に向き直り言葉を交わすのであった。
「いやぁ、すまない助かった」
「僕はただ商品をお出ししただけですよ」
「いいやこの商品を置いてくれたアンタに感謝しているだけだ、チップの一つでもお届けしたいが…お礼と言っちゃぁなんだが、客として服の加工を頼もうかとな。」
「あはは、最高のお返しですね!それでは、何を加工なさいますか?」
「そうだな…まず…」
アクセサリーのおかげで清々しい気分になった、本当はいつも着ているこの服とは別に、買った服を普段着として「耐熱と冷感の付与」をして貰おうと思ったが…あまりに良い商品を買わせてもらったんだ、もう少し金を落とそうかと思う。
「とりあえず、この手提げに入ってる服に『防熱と冷感』の魔法付与お願い出来る?」
「もちろんですよ、…っと、これは…普通の服ですがよろしいのですか?」
「普通の服って…服は全部普通だろ?」
加工屋の不思議な質問に首を傾げる、服に見た目の差異はあれど所詮服だ…そこになんの差があるのか分からなかった、しかし…エルフの店主から紡がれた言葉に耳を疑う。
「いえ…てっきり戦闘服のオーダーかと…」
「…見た目だけで私が戦う様な人間に見えるのか?」
「僕の本職は戦う人たちの装備を整える事ですよ?」
__一目見れば分かります、その服は明らかに常在戦場を意識された装備ですよね?
そう言われた時に自身の背中に稲妻が走った、目の前のエルフの店主が自身の装備を細めた目で見つめていることに、そしてこの装備のコンセプトに気付いたことに驚いたのだ。
「じょうざい…戦場…?」
「『常在戦場』…、師匠から例え寝ていてもすぐに戦える様に貰った私服兼装備だ…、にしてもよく分かったな」
「あはは、何せ僕はこの国の闘技大会王者の装備を作ったんだよ!」
加工屋の店主の一言でデルタらこの国の3人娘はめちゃくちゃ驚いた、店のはじの壁に背を預けて腕を組んでいたデルタなど驚きのあまり声が出させていないほどだ。
「ほ、本当なんですか!?」
「店主さん!あの覇者がここで!?」
「サ、サインとかないんですか…!」
「…(あれコイツら、私に憧れてるんじゃ…)」
「…ヴァラックさん、アイツらのアレは憧れじゃなくてもう…恋か何かですよ」
ヴァラックは3人娘が目をキラッキラさせながら店主へ質問する背を見て目を白くして少し…落ち込んでいた。
肩に手を置かれて手を視線で辿るとデルタがいた、しかし「恋」とはなんぞと気になり目線で質問を促す。
「…『闘技国覇者』リール、何百年の歴史がある中、闘技国過去ぶっちぎりの最長の連続優勝者。」
「ほう」
「……まぁ、あとめっちゃイケメンなんですよ」
ヴァラックはバッ!と視線を3人娘に向ける。
こ、こいつら…イケメンに浮いているのか…!…とまだ見ぬイケメンへ少し…嫉妬しながらも、咎めるような視線を三人娘に向けてやった。
…視線に気づいたイマチュイアが他2人の肩を指で突いてヴァラックへ指先を向け、ようやくヴァラックの退店する後ろ姿に気付いた。
「「「まってまってまってまって!!?」」」
「"うぅ…"…浮気者めィ…!…くそぅ…」
わざとらしく泣く振りをしたら3人組のアイツが分かりやすく動揺してて面白かった、これくらいで泣くわけないが…
同性の憧れより、異性のイケメンを好きになるのは乙女共通なのかね…。
__やはり少し胸を燻る『嫉妬』に唸ってしまうヴァラックであった。
こんばんは!
第25話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!
作品を投稿してから気付いたことがあるんですけど、反応がないとキツイんですよね、なので最近はいいなと思った作品は素直にいいねとか押すようになりました。
…いいね押し過ぎてどれがどれだか分からなくなった…。
いつも有り難うございます、なるべく毎日投稿頑張ります!