第二十一話 話し合う
07.06投稿予定
日のサンサンと照る地面に座るのはヴァラックとデルタ…、誰かが通り掛かると迷惑になることだが、幸いここは草が刈られただけの野道…。
2人は向かい合い、汗に光る肌を拭いながら休んでいた。
「ヴァラックさん話し合う…とは?」
「ああ、お前がただの悪人じゃないのは…まず分かった」
そこそこの流血と大量の汗によって服が貼り付く不快感に顔を顰めながら、デルタはヴァラックに質問を投げ掛ける。
…デルタはさっきまで戦った相手が、戦い終わった後に「話し合おう」と言い出した事に疑問…、いや、いきなりの事で着いていけてない様子だった。
「ただ…あれはやりすぎ」
「…それはそうです…ね」
「何となく如何してやったのかは察しがつく」
ヴァラックからの指摘に、コメカミから冷たい汗が滴れるのを感じつつ、顔を伏せるデルタ。
ヴァラックはそんなデルタを…そしてデルタを囲むように立っている3人組を見た…3人組は先程の戦いを見たからか、かなりビビっている。
「そこの蜘蛛亜人の女、初戦か何かだったんだろう」
「ええ…」
「多分だが…良いトコまでいったが惜しくも敗戦した」
「…ッはい」
「それでお前は興奮のあまり…やってしまった」
更に目を伏せるデルタは、遂に目元を手の平で覆っていた…、恐らくは後悔からか…懺悔の気持ちか、そう察したヴァラックは敢えて気にせず話を続けた。
「目…掛けてたんだろ」
「…っぁあ!」
「コイツが…ッ!あんなに頑張ってたのに…負けたのがッ…!」
_悔しくてッ!!
「っっ〜ッ!!姉御ぉお!!」
「それはそうと…」と声を掛けたが、デルタと蜘蛛亜人の娘が抱き合い慟哭する…特に蜘蛛亜人の娘がだが…ヴァラックの声は掻き消された。
「姉…御ぉ!!私!私の為にッ!!」
「頑張ってたもんなぁッ…毎日毎日毎日ッ…」
「…それは…そうと…!」
蜘蛛亜人の娘の頭を胸に抱え、互いに涙を流すデルタ…、流石に待ってられないと語気を強めたヴァラックの言葉に、指で涙を掬い言葉を止める2人。
「グズッ…うっぎゅぅ…ずびません"」
「汚ねぇなおい」
「ヴァラックさん…みっともない所を…」
「ああ問題な…
鼻水!!」
ヴァラックはしたくもない真面目な話をしようとしてるのに、泣いててそれどころではない2人を、只人の女と蜥蜴亜人の女に介抱させ、木陰まで移動させた。
「「グズ…うぅ…」」
「姉さん!泣きすぎです!」
「蜘蛛の…下半身だから…どう…介抱すれば…ッ!?」
「はぁ…」
…本当に気疲れしたヴァラックは、顔を額を覆うざるを得ないのだった…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜木陰〜
「う…ぅあう…」
「首首首…辛そうだろそれ…」
蜘蛛亜人の娘は泣き疲れたのか、デルタの膝枕をされて眠りについた…、水牛獣人とだけあり脚が太いため、首が辛そうだが…。
「えっと…それで…なんの話でしたっけ…」
「あ、ああ…(無視か…)」
ごほん…
「…お前らがただの悪じゃないのはわかったが、人様に迷惑掛けたんだ…、着いてってやるから後でまた謝れよ」
その言葉にチンピラ2人は驚いた、なぜ何度も自身らを手助けするようなことをしてくれるのか…、あまりにもヴァラックにメリットがないのだから。
「…何故ウチらにそこまでの…ことを?」
「何度でも言うぞ、お前らが悪人じゃないからだ」
三度言われたこの言葉…「悪じゃない」これにここまで良くしてくれる意味があるのか、只々疑問だ。
ヴァラックは緑色のポーションを器用に片手で開け、瓶の口を指先で軽く閉じながら、傷口目掛けて振る。
プシッ! ぷしっ!
「ぐ…沁みる…」
「「なにその奇妙な使い方!?」」
「あ?…擦り傷にはこうするといい…霧状になって薄く散布されるから、ポーションの節約になる。」
ヴァラックの変なポーションの使い方に、蜥蜴亜人と只人の2人はツッコミをせざるを得ない、普通ポーションといったらただ「かける」か「飲む」かの2択…
掛け方に拘りを持つ人などそうそういないものなのだ。
「そ、そんなことより、なぜ…悪人ではないから助けてくれるのです?」
「なぜなぜばっかりだな…、2つ」
「…2つ?」
「そうそう」と雑に頷くヴァラック…、そうヴァラックには2つの目的があってデルタ達と、こうして話し合っているのだった。
「1つ、この辺彷徨ってもう私は8日目、腹も空いたし、暑いし、そろそろ人気のある場所に行きたい」
「…彷徨って…たんですか」
「2つ」
デルタの呟きを聴こえないフリをして話を続ける…、土地勘がないと言い訳を心の中でしながらだが、まぁ事実だから仕方ない。
「お前に興味がある」
「それが…最初の"話し合おう"ですか?」
「ああ」
やはりいくら理由を捏ねくり回そうと、デルタに興味を持ってしまったのが一番の理由だろう、なにせ山を数度越えて初めて会った相手がここまで強いのだ。
未知を求めて街を出たヴァラックに我慢しろとは無理な話である。
「さて、お前がいい女ぁなのは…分かった。」
「…どうも」
「そうだな…まず聞きたいのは『女傑』…だったか」
ヴァラックの質問に意外そうに目を丸くするデルタ、他の2人も「そこ!?」っと言いたげに目を剥くが、ヴァラックは何が何だかわからない様子だ。
「?ダメか?」
「あ!いいえ!…まさかそこを聞かれるとは…と!」
「は、はい…!」
「…コイツらは…(ヴァラックさんを前に今更緊張し出したな…)」
「そうですね、簡単に言えば…女専門の武闘グループ…ですかね」
「犯罪グループじゃなく?」…と揶揄うとデルタは手を振り否定し、2人はアワアワし出した…その様子が面白くて軽く鼻を吹かす。
「ヴァラックさん…おちょくるのもソコソコに…」
「ふん…悪い悪い」
「まぁ…女傑は…色々な所から集まって、お互いに武力を学ぶ身に付ける、女専門のチームです。」
「…なるほど、自営の格闘技を学ぶ団体か」
「なんか安っぽい言い方…」
…いわゆる流派を持つ武闘家の弟子として入門するのはハードルが高い、だからあくまで『スポーツクラブ』として活動している…そんなイメージだ。
ヴァラックがなんとなく納得したように「んー…?」とハミングする。
「あくまで集り…師事を仰いでる訳でもない…か、確かに戦い方も雑だったしな」
「ぐ…」
「弱くはないが」
「!」
デルタのわかりやすく変わる表情に、「(愛奴め)」と思ってしまうのはヴァラックの癖だろう。
…エミの時もそうだが、ある程度仲良くなるとやはりヴァラックは雰囲気が丸くなる、相手の見え方も変わるのだろう。
「それで?何で私が聞いた事にそんな驚く?」
「そ…」
「それは…」
「「「…」」」
…やはりこの質問をすると、蜥蜴亜人と只人の2人は動揺する…いや、"モジモジ"し出す。
「こ…」
「こ?」
…ようやく口を開いたデルタも、少し口吃るのは何故なのだと思わんばかりに、デルタに顔を詰める
「この…女傑…は、あ…」
「あ?」
「貴女の事…です。」
…
……
………
「ああ…!?」
…知らない所で『女傑』扱いされてた、それもチーム単位でやられていたのだ…知らない所で。
それはそれは驚いた、確かに『女傑』とは言われた事などいくらでもある、あのエミが語っていた私の吟遊詩人の歌も…有名なのは自分で言いたくないが、周知の事実だからだ。
「いや…え…?無許可…」
「そ、それはすいません!!で、でもリーダーや私含め『女傑』古参メンバーはノリノリで…」
「決めちゃって?」
「はい…決めちゃって…」
「まじか…」…となるヴァラックの横で、デルタは顔の前で手を合わせてただ一言…
「…すいません!」
「いやもう…いいけどさ…私の名前が入ってる訳でもないし…」
そう、別に個人名が明確に出てる訳でもないのだ、何も法的にも問題はないのだが…やはり、自身の知らないところで崇められていたという事実がどうもむず痒い。
「ってかそういえばお前、副隊長って…」
「あ、はい…2番手…で…す…」
_デルタはヴァラックの顔を見て声を詰まらせた…マスクの上からでも分かる…、それほど目に見えて伝わってくるのだ。
「お前レベルで二番目…ね…ふーん…お前が二番…ふーーーん…」
__会いたがっている。
「…ふ…(リーダー…よかったですね)」
「…リーダーも貴女に…逢いたがっている」
デルタの言葉により一層ヴァラック上機嫌になった、木に預けた背中をズラして木の根に頭を据えると、横になった。
「バハー…ッ!…んんっ…、そうか」
「……私は前座としては十分でしたでしょう…か」
「あ…姉御…っ」
…デルタは自分に渦巻くこの感情に戸惑った…、ヴァラックの視線が自身から架空のリーダーへと向いてから、デルタはモヤモヤしていた…この感情は…
__嫉妬
「あ?」
「私より強いですよ、リーダー」
_そう、嫉妬だ…自身より強いリーダーに興味が移ってしまった事に嫉妬したのだ。
自身でも子供っぽいなと思いながら、片膝に顎をうずめる…だが、ヴァラックはキリリとしながらもキョトンとした顔で…
「お前が前座?」
「…えぇ…私より全然強いですから、それに
「馬鹿言うな」
っ…」
顔の位置を変えず、視線すらも変えずただ声色を低くしたヴァラックは、デルタに言葉を投げ付ける。
「私はお前をモブなんて思ってない」
「慰めは…いいです…」
「慰めじゃ…」
「弱い私がッそんな訳!?」
…ああ、私は何をしているんだろう…、そんな事を思いながらも言葉が溢れて反論してしまう…、憧れの人の視線が違う人間に移ったのだ…誰でも嫌だろう。
__しかし、当のヴァラックは本当にそんなことなど思っていなかったのだ。
「お前は私とは別の一つの道だ」
「…っ道?」
「お前を人生の1部と考えれば…確かにお前は私にとって取るに足らないモノかもしれない」
「なら!」と顔を歪めるデルタを見て、蜥蜴亜人は慌ててデルタを抱き止める、只人の女もどうすれば分からず冷や汗を掻く。
それでも視線を変えなかったヴァラックが、黒い瞳を…眼球をデルタに向ける。
「お前は私にとって、デルタというスタートとゴールだ。」
そう…ヴァラックは、デルタという人物を人生の一部なんて薄い存在に考えてはいないのだ。
「はあ…?」
「お前にとって、私は人生の一部じゃない」
「そんなことは!」
「いいや、お前にとって私とは」
「デルタという一つの道に現れた、ヴァラックという一つの道だ。」
…正直、デルタは上手くこの言葉を飲み込めなかった、デルタは今までヴァラックの様にカッコよく美しく…強い女性になることを目指して生きてきた。
「そして今日、お前と私という一つの道が重なった…」
「私は、お前を私の人生の一部として薄める気はない。」
「わ、私はそんな大した者じゃぁ…ッ!」
「弱い、大したことない?さっきから変な事言うな」
__それに
…また反論しようとしたデルタの言葉が終わるまで待たずに、ヴァラックは言葉を投げる。
「_あの戦いで終わりだと思っているのか」
「……はい?」
「バハハーー…ッ!」
ただ笑うヴァラックにデルタは唖然としながらも、何処か漠然と納得してしまったのだ…。
「(この人は…)」
(__私を過去の記憶として消したくないから、人生の一部と言わないんだ…)
「ッ〜…!いつでも相手になり…ますっ!」
「ふ…それでいい、少し休んだら近くの集落まで教えてくれ」
_互いが互いに尊重し合う、そんな相手を自分の一部としてカウントする…それがヴァラックにとって『人生の一部として雑るその程度のモノ』として思えてしまう。
__だから、ヴァラックは決して他人を自分の人生の一部なんて思わないのだった。
サーーー…ーー…
暑い日差しを遮ぎる木陰に吹く風に肌を撫でられながら…、ヴァラックは、落ち着いたデルタをみて目元を細める。
「風が気持ち良いな…」
こんばんは!
第21話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!
なんか最後のやつ人生どうこう、書いてて分かんなくなってきた…。
ついに1000pv!嬉しくなって描いちゃったイラスト↓
https://47325.mitemin.net/i985346/
*この世界の通貨単位 円換算
銅貨→100円
銀貨→1.000円
金貨→1万円
大金貨→10万円
白金貨→100万円(※貴族の王族への上納金へなど、一般的には使い勝手が悪いので使われない。)
金剛貨→10億円(※随分前に廃止された硬貨、純度の高いダイアモンドで出来ている装飾の細かい硬貨の為、今は金持ち間の自慢品)
本当にありがとうございます!ついに1000pv、コメントもいただけた上にこんな大きな数字に正直酔ってしまいそうです…!
これからも、慢心せず頑張ります!目指せ、挿絵を使った作者初(※多分)の書籍化!