表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2度目のラグナロク  作者: 雪華将軍
第一章 山の竜編
18/36

第十七話 山を抜ける

「"ゴクッ…ごきゅ…"」


ぷはーーぁ…


コツコツっ…コツ!


「あぁ!!病院でまたお酒飲んでるの!?」


「(しまった…)」


 夜の冷たい風が抜ける窓際…ヴァラックは全身を包帯に巻かれた姿で、冷たいアルコールを摂取していた。


 …当然ながら夜の巡回をしていたナースに見つかってしまい、酒を取り上げられ、「ちぇっ」っと少し捻くれてみる。


「まったく…そのお酒好きだけはガルさんに似てないわね…」


「師匠は特別酒嫌いだからな、師匠が変わってる」


コツンっ


「イテッ…」


 「そういう所も昔から似てないわね」と、額を小突くナースは実は同年代の人間であった。


 人一倍大きな体で勘違いされがちだが、戦闘以外は割と荒くれ気質なのを除けば普通なのである。


ごろんっ

「ったく、明日退院なんだしいいだろ」


はらり…


 文句を垂れながらも、大人しくベッドに身を倒すヴァラック…その顔は、いつも上げている髪が下ろされ、いつもとは変わった雰囲気を漂わせていた。


じーーっ


「…アナタ、髪下ろした方が美人よ?」


「そう?」


「クール系の美人に見えるわ」


「そりゃあ嬉しい」

ごろん…



「オールバック似合ってないし」


「おい一言!」


 「冗談冗談」と可愛く笑うナース…自身にとって幼馴染のような女の子をジロ〜っと見つめながら、軽く息を吐き呆れた動作を見せた。


「ったく…」


「ふふ…、あぁでも本当なんでいつもあの髪型なの?」


「あ?…そういやなんでか…」


 自身のあの髪型について聞かれたヴァラックは、寝転がりながら頭の上で腕を組み天井を眺める…ふと、いつかのガルンとの思い出が蘇った。


「あっ…確か覚悟(・・)だったような」


「覚悟?」


ぐしっ…

「前髪を下ろすのは、いつでも現実から目をそらせる壁を作っちまう無意識の防衛本能」


「どんなに辛くても絶対に目を隠せない(目を逸らせない)様に常に髪を上げるんだと」


 ヴァラックから語られる覚悟の話は幼少の頃にガルンから聞かされた話である。


ヴァラックが幼い時に戦い方を嘆願した際に、前提条件として出されたモノの一つだ。


「だから覚悟...」


「らしいよ、だがシンプルに前髪が目に入ると戦い辛いから、あげた方がいいだろう?」


「そうなのかしら?」


「そうそう」


そう笑うナースと共に目を瞑るヴァラック、真っ暗な病室の中で一際静かで、賑やかな夜となった...。


~早朝~


「ふぁぁ...あ」

ぐぐぐ...


 まだ日も昇り切らない朝方に、ヴァラックは目を覚ました。


 ぐぐ…と背を伸ばし、いつもの服に着替えたヴァラックは病院入り口のエントランスで朝食を摂っていた。


もぐ……もぐ…

「病院の飯って味薄ー…」


ガタッ ギィィ

「酒は飲むし病院食に文句か」


ふっーー… ぷあ…


「院内で葉巻き吹かす人に言われたくない」もぐ…


 「まぁな」と葉巻きを咥えたまま器用に笑う人物は、山王の翁竜子戦で吹き飛ばされたササキであった、その体はまだまだ包帯だらけで不便そうだ。


「ササキさんは…」もぐ…もぐ…


「ん」ブイッ…


 静かに食事を続けるヴァラックは目も向けずに質問する、ササキは指を2本静かに立ててヴァラックの視界でチラつかせた。


「2週間か…」


「いや2ヶ月」


ガタッ!!

「おいささっとベッド入れ!!」


 いかにも「元気ですが?」という平然とした顔をしていたササキを抱え病室のベッドに押し込んだ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「寝てろよ…ホント」


ごろん

「"ぷふーー…"」


「寝ながら葉巻き吸うな」ピッ! ぐしゃ


 ベッドに転がされたササキは葉巻きを取り上げられて寝かしつけられた、かなりキツかったようで真っ直ぐ立つ事すら出来ていない様子に、ヴァラックは呆れながら葉巻きを弾き…握り潰す。


「な…悪い子だ…」


「火事なるわ」


ギッ…

「はぁ…午後退院で師匠が迎えくるらしいからそれまで時間がある…話し相手くらいになってやるよ」


 「ハマキ…」と未練がましく握り潰された残骸を流し目でみるササキ…あまりの重症具合に首を動かすのも痛過ぎるので流し目である。


「せめて散歩の一つでも出来るまで吸うなよ…」


「はいはい…で?どうだった?」


「どう、とは」


「あの竜だよ」


 ふざけた雰囲気を"スンッ"と変えたササキは、ヴァラックをゆるりと見つめた、急に変わった態度にふざけているのかと目を合わせた…がササキの目は明らかに「ちゃんとした答え」を求めている目だった。


「強かった…ひたすらに」


「…」


「…あのレベルがこんな身近にいるのかと…」



「興奮した」


 マスクから漏れる笑みに震える声は、ヴァラックの体を震わせた、初めての命を賭けた闘争…殺し殺される緊張感…自身を越えうる強敵に挑む…、そんな…


「…ヴァラックちゃんはどうしたい?」


「わ…たしは…、」


 窓ガラスの外を見つめるヴァラックの瞳には、大きな穴が空いた山…モンブラン山が映っていた。


 この寒冷地を抜けた先に、一体どんな未知(・・)がまっているのだろうか…どんな出会い(強敵)が…強敵(出会い)があるのだろう…、そんな…




「…っ冒険をしてみたい」


 ヴァラックの興奮冷めやらない瞳に静かな炎をみたササキは、優しく微笑む…。


「私は…あのドラゴン…いや、それよりも前から」


「この世にはどんな強い奴らがいるんだろうって」



「よし行ってこい」

「情緒ッ!!」


 ササキはヴァラックのツッコミに笑みをこぼした…折れた肋骨がズキズキと痛み「イテテ…」と抑えながら。


 ヴァラックは痛がるササキを支えながら言葉を待った…。


「テテッ…」


「大丈夫かよ…」


「ははは…」


「お前にはこの世界は大きいんだってしって欲しいんだ」


 ササキはヴァラックの頭を撫でた、ヴァラックはなぜ撫でられたのか分からなかったが、少し恥ずかしそうにしながらも、その手に頭を預けていた。


「(ピュルテちゃん…貴女の母は、貴女に大きな世界で色々な経験をして欲しいって…)」


「?」


「自由に世界を羽ばたけよ?」


「ああ」


 愛しむようにヴァラックを見つめるササキは、ヴァラックの嬉しそうな返事にクールな雰囲気を崩して笑みを浮かべたのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ようヴァラック、病院食はどうだった」


「第一声がそれなのか師匠」


 すっかり明るくなった街の中、「冗談だ冗談」と笑みを深める男…ガルンである、その手には食材を詰め込んだ大きな木カゴを腕に提げていた。


「院内にいると思った」


「いやぁ…この身長だからなぁ…入れる場所なんてギルドくらいだし…」


「…色んな種族いるけど、師匠ほどの大きさの種族ってなんだ…?」


「退院明けは胃が弱ってるだろうから全品菜食でいい?」


 明らかに逸らされたが、夕食が野菜オンリーになるのは嫌なので口を閉ざした、まぁ種族が何であろうと師匠が師匠であることには変わらないと、思考を変えて並び歩いた。


「っあ、師匠」


「?なんだ」


「…私、冒険に出掛ける」


「気をつけてな」


「情緒ッッ!!」


 ササキと同様に呆気なく旅に出るヴァラックを認めるガルン、ヴァラックは続けてツッコもうか考えたが、ガルンの目元が細められた微笑みにツッコミを辞めて言葉を続けた。


「いつから気付いてたの?」


「あのスライム討伐から帰ってきたとき」


「…やっぱりか」


「あんなにあの山(未知)に目を輝かせた子供に気付かないお…大人はいない」


 「そっか」と呟くヴァラックは、恥ずかしそうに顔を伏せて陽光に照らされた顔は隠した、ガルンの大きな手で撫でられたヴァラックは更に恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、どこか嬉しそうだった。


「早速明日行くね」


「は、早くない!?」


「そ、そうかぁ…じゃあ今夜は新たな門出にご馳走にするか」


「急にゴメン…」


 急過ぎる旅立ちの日程の宣言に、流石に驚いたが「大丈夫だ」と冷静さを取り戻して、ヴァラックをより強く撫でた、寂しさと子供の成長を喜ぶようにガシガシと頭を撫でながら、2人の住まいに向けて帰路を歩いた。


 2m越えのヴァラックは3m越えのガルンの隣では、ただの子供になるのであった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ざっ…!

「よし…」


「ついにか…」


 「ああ」と返事するヴァラックの後方にはガルンが建物に寄り掛かる…その顔には少しシュンとした寂しさを滲ませていた。


 旅に出るヴァラックは、大きな(※ヴァラックから比較しても)バックパックを背負い街の入口で佇んでいた…。


「…昨日言った『3つの約束(・・・・・)』を覚えているな」


「もちろん」こくり…


「…こっちに来い」


「?」

ぎゅぅぅう…!!


 ヴァラックを自身の下まで呼びガルンは…抱きとめたのだ、いきなりの抱擁に驚きつつも嬉しくなって目を細めた。


ぎゅぅ…


「最後に…」

「?」


「どうしようもなくなったら、()を頼れ」


「ん…分かった」


 「そうか」と呟くガルンは目一杯抱きしめてゆっくり離した、


 ガルンは成長したヴァラックを見つめこれからの門出に柄にもなく寂しくなった、しかし大人が子供の旅立ちを妨げるべきではないと顔には出さなかったのだが…


ばっ!


「じゃあ師匠、行って来る」

ぎゅ!


ダダっ!


 普段見せない元気な声色で首元に抱き着き、街を飛び出した…ガルンは泣きそうになった。


「…大きく…なったなぁ…」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 街を抜けたヴァラックは顔を赤くして無人街道を駆けた、「柄にもないことしたなぁ」と恥ずかしがる所はガルン共々似ている。


 ヴァラックの速力が昼間の時点で既に山の山頂にその両脚を着けていた、赤面を隠すように息を切らせながら黒髪を掻き上げた。


「はぁ…はぁ…」

ゴクっ


「張り切り過ぎたな…ふーーーーーっ…!」


 「____じゃ」


 大きく背を伸ばしたヴァラックは振り返り…自身の住んでいた街を見下ろした___。


「しばらくお別れになるな…」


 _____ルアンの街___。


「そして来い」

くる…



「未知なる世界…!」


 __固執していた街「ルアン」を離れ、振り返った先…新たな世界へと猛禽類の如き眼力を向けた、その瞳には確かな期待と未知への憧れをギラつかせた。


 ヴァラックの冒険は今、ようやく始まったのである…




 【第一章:山の竜編】~終~

こんばんは!

第17話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!


 大学のレポートしながらっ!小説を書くという文字文字文字…文字尽くしの生活…ッ、気が狂う!

 一日2000文字小説を書いて、2500文字のレポート…流石に大学を疎かに出来ないので、投稿頻度については許してください!



 …すっごい悩んでて、ヴァラックの冒険を1人にするか、パーティにするか悩んでるんですよね、

 …序盤の終盤のストーリーで1回、追加するのは確定なんですが、次章から相棒的なヤツいた方がいいのかなぁ…まぁ


 ここまでが序章!次章…ここからヴァラックの冒険がスタートします!


いつもご覧になっていただきありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ