第十六話 原点
『ボアオオオオオオオオ!!』
「シャァァァァアアアア!!!」
ドゥン!!
開戦の狼煙はヴァラックと山王の翁竜子の正面衝突による、ショックウェーブから始まった。
山王の翁竜子は地面を削りながら、頭部の外殻で突進するのに対して、ヴァラックは口元を覆うマスクで迎え打った。
ガキガキガキガキ…ッ!
『オオオオオオ!!』
ガキガキッガキ…ッ!
「オオオオオゥ!!」
ズザザザザ…!!
だが、山王の翁竜子との体重差があり過ぎる為、流石のヴァラックも押し負けて、少しずつ後退させられていた。
「流石に負けるか…ッ!」
ズザッ!
『オオオ!』
ビカッ!
しかし、自身に比べ小さなヴァラックが力比べで僅差なのを知った山王の翁竜子は、眩い光を口から漏れ出させる…、
ヴァラックは目を剥いて驚き、竜の鼻下に飛び込んだ。
ひょいっ
「マズイ…!」
BOAッ!
『オオオオオオオオオオオオオオオアアアアア!!』
ドパンッ!
ワンテンポ遅れ、山王の翁竜子の口からまるで、溶けた鉱石のような液体が高圧噴射された。
地面は灼熱の溶岩の如く、ヴァラックは融解してしまった地面に足をつける事が出来なくなり、竜の鼻下でしがみつく。
ポコッ…ボコボコっ…
『ボオオオオオオオオ!!』
ぶんぶんぶんぶん!
「あっぶっなっいぃッ!」
当然、山王の翁竜子はそれを良しとはせず、頭を大きく左右に振るって引き剥がそうと努力するが、ヴァラックの握力からすれば耐えられないモノではなかった。
グググ…
「舐めんなゴラ!」
ブンブンブンブン!!
『オオオオオオオオオオオ!!』
ピタッ
目が血走りながら顔を振り続けていた山王の翁竜子だったが、"ぴたり"と動きを止めたのだ、ヴァラックも頭に「?」を浮かべながらしがみついていたが…
ブオッ!
『ガゴオオオオオオ!!』
つるっ
「なっ!?」
顔の振る向きを縦に変えたのだ、大きく上に顔を振り上げた山王の竜翁子はついにヴァラックを振り払う事に成功した。
ヴァラックは高速で吹き飛ばされながら比較的に近場の針葉樹林の山に強く叩きつけられた。
どぱん!!
「ガプォっ…」
どぼぼ!
「ふっーー…ふっーー…ふっー…"ゴロゴロゴロゴロ…"」
マスクの下から大量の血液がボタボタと滴り、ヴァラックは"ゴロゴロ"と呼吸音が鳴った。
「ゴロゴロ…」
「(不味い!肺に血が入ったか…)」
ぐっ…!
それは肺に血が溜まった音であった、それはとても危険な状況で命に関わる状態に陥り、既にヴァラックの胸に酷い痛みが走った、
ヴァラックは喉を強く握りしめて苦しみ、四つ這いになって何とか血を吐こうと踠く。
「ごぼっ!ごえっ!"ゴロロロ…"」
ごそごそっ…!
「ボ…ボージョン…!」
ポーションを探したヴァラックであったが、雪山で全部ダメになったのを思い出し、すぐにポケットから手を離した…いや、そんな力も無くなってきたのである。
ガクガクガク…ッ!
「ゴロロロ…!ッ!ッ!」
(意…識ッガッ!)
いわゆる心不全に陥る寸前の状態にあった…。
剣を弾く体、鎧を砕く拳、モンスターを萎縮させる瞳…だがそんなヴァラックもただの一生物である、
呼吸が必要なら、食事も睡眠も必要、超再生なんてしないひ、ましてや心臓がなければ生きられない。
そんな当たり前の生物であるのだ。
「…ッ……ッ…」
(も……保たない…ッ!)
ビク…ビクッ…
ヴァラックは程なくして意識を失った、目を開けたまままるで薄い膜を張った様に黒目が白くなった…。
次第にヴァラックの脳は活動を停止した…酸素がなければ脳は働かない、これは生物として当然である結果である。
くる
『ヴオオオオオオオオオオオ!』
ズシンズシン!
今度こそ殺した!と山王の翁竜子は方向を再び街へ変え、その歩を進めた…
「…(アァ…)」
…ヴァラックの脳はこれまでの人生を振り返っていた、竜と戦い数撃で負け、仮面の猫獣人と戦いに負け、魔王乃唾液躍動体は仕留められずエミに頼った…、
最近の辛勝具合には自分ながら鼻で笑いたくなった。
「(そう言えば…いつからだろう…)」
「(戦いに魅力を感じたのは…)」
脳が活動を停止し掛けて尚何故か思考できている…そんな疑問を退け、一番深く強く思った疑問はそこにあったのだ。
滲む視界の中、ヴァラックは微睡む思考に比例して、徐々に鮮明に写ったのは脳裏に焼き付けられた記憶。
__幼少期の記憶。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…ヴァラックはいつも住んでいるあの山道を歩いていた、映る視線はいつもより低いが、それは誰かに抱かれている景色であった。
ざっ…ざっ…
「ヴァラック、ガル#¥+々さんのお家そろそろ着くよ」
「ん…んん…お母さぁん…私眠くなっちゃった…」
「ナハハ、ヴァラックはアッタカクなると直ぐにお眠だなぁ」
青々とした葉っぱを木々が宿す陽気の日中、幼く小さいヴァラックは「母」と呼ばれた人物に抱かれながら揺られていた、隣には母に比べ大きな男が並んで歩く。
「おい、うるさいモラン」
「お父さんうるさぃ…」
「ゴメン…」
…姿は見えない、影を落とした様に真っ暗に染まってしまいその姿は認識出来ないのだ。
しかし、母と父と言った様にヴァラックの両親である事は間違いないだろう。
「着くわよ」
「んん…あっ!ガルンししょー!」
パコン! トスッ…
「いらっしゃい3人とも」
石畳を抜けたそこには、ヴァラックの住むいつもの家と師匠であるガルンが木を斧で叩き割っている姿であった…。
ガルンの眉間の皺が少し、ヴァラックが知っているより少ない。
「何度も来てごめんなさい」
「気にするなピュルテプル、久しぶりヴァラック」
「ねえねえ、ししょー」
「ん?どうした」
「お父さんがさっき、眠いって言ってるのにうるさかったんだよ!」
「ほう」と呟きながら小さな小さなヴァラックを撫でるガルンは、ヴァラックの「父」をジローっと見た。
じーー。
「だそうだモーラルト」
汗っ…
「ヴァラック!告げ口を覚えたのか…!」
タジタジになるモーラルトから目を逸らし、ヴァラックへ視線を合わせた。
口角を上げてニコニコ笑うヴァラックを膝の上に"チョイチョイ"と手招きし、足が汚れるのも構わず膝に乗せて耳打ちをした。
「…」ボソボソ…
「うん……うん、うん!」
「何の耳打ち…?」
「よし、モーラルトを倒せ!」
「おー!」ととととっ!
「ええ!?」と驚くモーラルトを他所に突撃してくるヴァラックから緩く逃げるモーラルト、その顔は何処か困った様な楽しそうな顔で、追いかけっこをしたのだ。
「ったくモランったら…」
「元気いっぱいでいいだろう、俺は飯の準備をする」
「私も手伝おうか?」
「いや、お前には他の事を頼みたい」
「なに?」と尋ねるピュルテプルの頭を一撫でして指を指した、それは今も追いかけっこを続ける自分の子供と夫であった。
よく分かっていないピュルテプルを見て乾いた笑い声を短く上げる。
「それはヴァラックに加勢する事だ」
とんっ
「…そうね…!じゃあご飯お願い師匠!」
とととと…
「!…久しぶりにお前から言われたな」
3人の親子の追いかけかっこを眺めながら、ガルンは家に入り料理を作った。
「…一品足すかな。」
「私らが相手だ!」とヴァラックと駆けるピュルテプル、それに追われる嬉しそうなモーラルト…その追いかけっこは暫く続き、ガルンの集合まで仲睦まじく庭で駆け回っていた。
カチャカチャ…
もぐもぐ…
「相変わらず料理上手ですね…」
もぐ…
「そうだな…なんでこんな美味しいんだ…?」
もっもっもっ…
「うまっひ」
少し薄暗くなる夕暮れ、ヴァラックら3人とガルンは一緒に食事をしながら楽しい団欒を過ごした。
何故かガルンの料理が上手なのは、このころから既に上手かったらしい。
もぐ…
「良かった、その海鮮は "ブツッ"
…脈絡もなく、ヴァラックの意識が暗転した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
場面はまた戻り…恐らく心不全で意識を失ったヴァラックが意識を吹き返したのだ。
体をフラフラと揺らしながらもゆっくり上体を起こした、ヴァラックの瞳は未だに微睡み、顔は青い。
ズザッ…ググゥ!
「うっ…ぐっふぅ!"ビチャビチャビチャッ"」
「ゲホッ…ガフッ…ゥー…」
キラリッ
「ふっー…、…思い出した。」
大量の吐血…肺に溜まった血を吐き出す事に成功し、顔色はみるみる内に良くなり、土色の顔は健康的に赤みを浴びてきた。
…一時的に仮死状態になり、肺周りの筋肉が動かなくなる事で、溜まった血液が阻止される事なく排出されたのだ。
「憧れたんだ…」
「優しさに、勇ましさに…なにより…ッ」
___強さに。
…脳裏に広がるは、幼い自分が窓から眺める師匠…ガルンの構えであった。
脇を締め、それでいて大きく下に構える両腕、背中は仰け反りながらも前傾姿勢…字面で描かれると非常に弱そうに聞こえる構えである。
「ごほっ…あの構え、あれから私は戦いに魅入られた…」
__幼いながら思ったのだ、空間を支配する様な異様な威圧感を覚えるあの構え…アレから放たれる攻撃は一体…
「どんな攻撃なんだろうなぁ…」
ズシンッ!
『ォォォォオオオ!!』
「…やってみたいな」
グググ!!
ヴァラックは緩慢にクラウチングフォームを取り……空を駆けた。
ぴくっ…
『オォォ…?』
ひゅぅぅ…ぅうう!! くるくるくる…
「…どうなるんだろ」
空で乱回転しながら思考を続けるヴァラック…空中でゆっくりと構えを模倣していく…
右腕…左腕、肩、胸、頭に腰、脚と…記憶を辿り構えを完成させるヴァラックの体の回転は、既にヴァラックが静止させた。
ピタッ
「おお…空中でこんなに自由に体勢を変えれるのか」
!?
『グオオオオオオオオオオ!!』
あの構えによって空中での行動能力が向上した、そしてそれと同時に降り注ぐヴァラックに山王の翁竜子が気付いた。
大咆哮を上げ、噛み殺そうとしてくる山王の翁竜子を瞳だけ見つめるヴァラック…ぼーっとしている様に見え、その目には本当に油断が消えていた。
チラリ…
「油断も慢心も手加減も殺意も…全部私だ」
『オオオオオオオオオオオ!!』
「勝手ながら…
『オオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
相手願う」
前に出していた脚を軽く上げると、体は後方へ回転を始めた…しかし、その回転数がおかしい、明らかに急速に加速していき…
シュルルルルル!!!
「技ぁ…真似させてもらう…ササキさん」
ドゴッ! メキ…メキメキメキメキィッ!!
蹴り上げた、それはまるでササキの斜め切り上げの様な軌道を描いたが、傷一つ付かなかったササキの『小鳥鳴き』とは違い__。
「『ヴラック・スパロウ』!」
ドギャ!!!
『ギアオオオオオオオオオ!!!?』
バキバキバカバキバキ!!
__山王の翁竜子の眉間の外殻を更に粉々に砕いた。
ズゥゥ…ゥゥウウン!!
山王の翁竜子はその地で沈み、山の様な竜から…
竜の様な山へと化した、こうして激しくも短い攻防の後に、ヴァラックの完全勝利として終戦を迎えた。
「ありがとう竜よ、お前は私にとっての分岐点だ。」
「生まれ変わったら…また…いや…」
「2度目の戦いを。」
こんばんは!
第16話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!
一日遅れてしまって申し訳ございません!大学のレポート難しいんです!
いつもご覧になっていただきありがとうございます!本当嬉しい、疲れた時にPV数みるとニヤニヤしながら元気になります!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
なかなかタイトル回収出来なくてごめんなさい!無理矢理ラストに詰め込みましたが、蛇足かなぁ…
まぁヴァラックが一戦一戦大切にしているから再びじゃなくて「2度目」と言い直したって…無理矢理かなぁ…
〇ガルンの構えを見る、ヴァラック(幼女期)
https://47325.mitemin.net/i979334/
いつも本当にありがとうございます!!!