第十四話 怪物群襲来
ォォォオオオオオオ!!!
唐突であった、慟哭…まさにそう表現するしかないような轟音がヴァラックらの住んでいる街に響いた。
あまりの音圧にガラスはヒビが入り、数棟が倒壊し街はパニックに陥った。
「な、何の音だ!?」
「イヤァァアアアアア!」
!?
「ッ何だこの音圧は…!」
ゴクッ…
街の住人に混ざって空を見上げる男…いつの日か『ササキ』に『カス』と呼ばれた人物、『カセトー』であった。
ボサッとした髪を震わせ、この明らかに異常な事態に息を呑んだ。
オオオオオオオオオオオオオオオ!!!
「とにかく…まずギルドへ向か」
ダッ…!
カンカンカンカン!!
「!?次は何だ!」
未だに続くこの恐ろしい音に負けず、気迫に満ちたベルの音が街を中心に立っている巨大な物見櫓から鳴り響く。
それはこの重音に掻き消されない様に大きく鳴らされていたのだ。
オオオオオオオオオオオオオオオ!!!
カンカンカンカンカンカン!!
「…これはッ!」
「モンスターだ!!」
『ギギャギャ!!』
そう、このベルの音はモンスターの襲来を知らせる音だったのだ、そしてこの何度も鳴らすベルの打ち方は…
スーーーッ…
「怪物群襲来の合図だな」
「!ササキちゃん!」
ぷあぷあ…
「カス、私が食い止めに行く間に武器取りに行け」
怪物群襲来…文字通りのモンスターたちが無差別に人間の集落に攻め入ること。
モンスター達が何かの影響で、普段近づかないモンスターが人の多い集落まで押し寄せてくる二次災害の総称。
『hooooooooooo!!』
『ワン!ワン!!』
『ゴアアアアアアア!』
それを知らせたのはカセトーをカスと言うただ1人の人物…冒険者ギルドの人気受付、ササキである。
…手にはひたすらに長い、身長ほどもある長物の鞘を持ち、白シャツは二の腕の位置まで巻かれていた。
ぐ!
「スマン、すぐ戻る!」
ぐ!
「"スッー…プフッー…"おう」
かちゃ…
しかし武器を持てどもササキはギルドの受付である…周囲の人々はこの街のギルドの顔でもあるササキが戦えるとは思えなかった。
「ササキさん!早く避難を!」
スッーー…プハっ…
「あぁ大丈夫です、早く避難して下さい。」
『ギャオオオォォン!』
「「「ササキさん!」」」
相変わらず葉巻を口に咥えるササキは、
煙を吹かせながら迫るモンスター達を半目で見つめていた…モンスターの毒牙がササキに迫るのを、街の住民たちは顔を青くしてササキから目を逸らしたのだ、いつかくる悲鳴に怯え”ぎゅ”っと目を瞑ってた。
「…~ッ~~~!」
「…?」
ちらっ…
「ササキさん…?」
…だが、いつまで経っても悲鳴は聞こえてこず、街の住民は目を開きササキの安否を確認するために、恐る恐る振り返った。
ガキャン!
「「「!?」」」
…だが目の目に広がる光景は、いい意味で裏切ったのだ。
ぷあ…ぷあ…
「”ふっーーー…”」
『ギュゥゥゥウウ…ッ!?』
かちゃ…カチャカチャ!
「獣如きに刀ぁ抜きたくないんだが」
それは手に持っていた長物の鞘で牙を受け止める美女であった、
柄を逆手で持つササキは”ぶつぶつ”と呟きながら鞘を持たずに、大きく跳び鞘からすらりと…抜いた。
しゃらっっ……!
「こんな時そんなプライドは捨てた方がいい」
ぶんぶんぶんぶんぶん!!
『ガウ!』
ふわっ!
高く跳び抜刀したササキは刀の先の丸み『ふくら』に沿い半円を描き、モンスターの頭頂部に刃が食い込ませた、しかし食い込むだけでモンスターは頭部から流血するのみに留まった。
モンスターは頭部にいるササキを捕食しようと顔を振り乱した…が
「そうだよな、そうするしかないよな。」
すらり…
ズザッーー!
『ギゃォォオオ!!?』
ササキは既に頭頂部にはおらず、その牙は血に染まることはなかったのだが…自身の背からは真っ赤に染まった花火が咲いたのであった…
ササキが”するり”と「切っ先」から「刃先」モンスターの背肉をなぞり、「刀の上身」がすべてそのモンスターの背面に飲み込まれた。
ずぅ…ぅん!
「全員山まで避難を!」
しゅる… ズシャ!!
『GaaaaaAAA!?』
「はい!」
「わ、私他の人たちに知らせてきます!」
ササキの血振るいに合わせ攻め入るモンスターを切り捨てると同時に、周囲にいた住民は行動を開始したのだ、ササキがモンスターに対抗できる存在であると気付くと、安心してササキに任せられると避難に踏み切れたのだ。
『がぉぉぉおおん!』
ガキャン!ギリリリ!!
「ぐっ!」
すーー…はぁーー!
「…早く来いよ!カセトー!」
煙を燻すササキは風で舞い落ちる灰をぼんやり見つめる、脳裏には先ほど別れたあの男の背中であった…、住民らを安心させるためについた強がりであったのだ。
確かに戦えるがかなりのブランクがあり、現役の冒険者に比べればかなり弱く、既にかなりの疲弊具合であった…その証拠に汗が滝の様に流れていた。
ダダダダダ!
『オオオン!』
がちち!
「はぁ…!はぁ!」
ササキは7体のモンスターを切り捨てたあたりで、刀を振り上げることすら既に難しくなっていた、防戦一方になっていた。
汗は止まらずシャツが体に張り付く…だがそんなことを気にする事が出来ないほどに、モンスターの攻撃が苛烈になってきたのだ。
『オオオオン!』
…下青銅等級モンスター『棘黒狼』ヴァラックの首に巻いているアレの下位互換の性能の体毛を持つモンスター
『げこり』
…銀等級モンスター『火災蛙』人の皮脂を空気中に感知すると、その油分で発火する。
ごくり…っ
「はぁ…はぁ…」
ざっ… ガクッ!
危険なモンスターの登場でさすがに身を引いたササキ、この周辺地域には現れることのないモンスターであるが、
ササキはギルドの受付という立場であるため知っていたが通常ならばそのまま近づけば、攻撃は弾かれ爆死していたのであろう。
ササキは建物の裏に隠れ膝をついた…
「はぁ…”すぱっ…!”(もういいだろう…私も避難を…)」
ひょこ!
『げこり』
「な!?」
BON!!
しかし建物の角から火災蛙が突如として現れ、散々発汗したササキの皮脂に反応し爆破した…、近距離の爆破攻撃に巻き込まれたササキは驚愕の表情を浮かべて閃光に吹き飛ばされた…。
路地裏か這い出されたササキは全身に大やけどを負い、棘黒狼の横っ腹に衝突し、地面にズリ落ちた。
ドン!
「……っは…」
ドシャ!
くる…
『がう…ッ!』
スン…スンスン!
ヴァラックの屠鬼閣落同様に、ササキがぶつかった衝撃で体毛が固まったせいで、ササキは強い打撲を食らい意識を失った…
モンスターは自身にぶつかったササキを鼻先で小突き、匂いを『スンスン』と嗅ぎ…
くぁ!
『アー!』
ダダダダダッ!
口を大きく開け、ササキに口を近付けた。
…だが、それよりも速く近付く一つの重鎧がササキを掻っ攫った…その重鎧はササキの顔を一撫でし、大きなササキを片腕で抱える重鎧…を棘黒狼の口腔が重鎧の兜を弾き飛ばした。
…ッ!
「…っ助かった!」
「カセトー…」
「後は任せてくれよ」
重鎧の下から現れたのはササキがカスと呼ぶ男…カセトーはササキに中位ポーションを掛けると、ササキの顔の火傷が見る見る直ったのだ、ササキは安心したように顔を緩め意識を再びシャットダウンしたのであった。
「グハハ!俺が相手してやるよぉ!」
ガチャン!
『ぐるる!!』
ぴょん!ぴょん!
『げこん』
ササキを抱えたままカセトーは、大剣を振るう___。
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ヒュォォォォオオオ…
『オオオオオオオオオオオオ!!!』
…冷風が響く岸壁の空洞…モンブラン山の山王の翁竜子によって造られた洞窟、未だ山王の翁竜子の鳴き声が響くこの洞窟に大きな人型の氷像が転がっていた。
その氷像は黒いマスク黒いズボンに黒い頭髪…ヴァラックである、氷像といいつつ微かに聞こえて来る擦れた呼吸音…まだその氷像は息をしていた。
ひゅーー…… …!
「…アァ……」
ひゅーー… ひゅーーー… !
「熱イ……」
…黒きハヤブサはもうすぐ目覚める。
こんばんは!
第十四話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!
遅れてしまい申し訳ございません!!
前話のPV数が80PV行きました!ありがとうございます!!なんで急に倍!?あ、あと総PV数が500PVに到達致しました!
え、まだ全然1000PVのイラスト完成してな…
アニメ化したい…それで得た利益で自分の作品に貢ぎたい_(強欲?)