第十二話 気分転換
カランっ…
ごきゅ……ごきゅ…
「ふっー…」
すっかり雪も消えて、優しく冷たい風が吹きながらも春の暖気を感じてきた今日この頃。
ヴァラックはいつかの日の様に縁側に座りながら、ゆったりと冷えたミルクティーを流し込む…
「はぁ…」
ザッ…ザッ…ザッ
「どうしたヴァラック、溜め息ばかり吐いて」
ちらっ
「ん…いやぁ…」
ごろん…
「暇」
ヴァラックはどうも煮え切らない雰囲気を漂わせていた、ガルンはそんなヴァラックを見て"あせあせ"とどうしたのか不安になり、取り敢えず隣に腰を下ろした。
…身長が3mあるため、足を投げ出す形になったが。
ギシィ…ッ
「暇…って修行も冒険者の仕事も毎日頑張っているだろう?」
アセアセ…
「…何というか…刺激が足らない」
__刺激が足らない…それもそのはず、ここ最近に色々な事が起き過ぎたのだ。
銀口鎧虎に魔王乃唾液躍動体に仮面の猫獣人…言ってしまえば上澄の強敵たちと短期間で3度も戦えたのだ、他のモンスターなどぬるく感じるだろう…
「…そうか」
「そ、まぁあのレベルのヤツらはそうそう居ないから仕方ない」
ゴクッ…ゴクッ…
「…」
ガルンは静かに冷や汗を掻いた。
「…(慢心…)」
「(ヴァラック、お前は強い)」
「だからこそ…何故…」ボソッ
「?どうした師匠?」
「あぁいや…」と言葉を濁すガルンは、垂らした冷や汗を隠すように顔を背け腕で拭ったのだ、ヴァラックはそんな師匠の様子に小首を傾げつつも、気温が上がったから汗をかいたのかなと特に気にする様子はなく、また冷たい飲料を喉に流し込んだ。
…ガルンはそんなヴァラックを流し眼で見つめながら、一人深い思考の海に漂っていた。
「(……その慢心は必ず身を亡ぼす…)」
「ねむぃ…」
なで…
「?なに師匠?」
「…いいや何でもない」
ただ優しくヴァラックを撫でるガルンの目には、何かを覚悟する光が宿っていた…。
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ひゅっ…!パカン!
コツ…コツ…
「ん~……」
ガルンの薪割り音に合わせ、ヴァラックはすっかり空になったカップを大きな指で小突きながら今日はなにをするのかを考えながら、縁側で両手を着き天井を”ぼっー”と見上げるヴァラックは、遠くに霞んで見える白む山を視界の端に捉えた。
「あれは…」
「モンブラン山か…」
_『モンブラン山』以前スライム討伐の際に語っていた、
『「一応暖気に暖かくなったからか、冷山を越えて入ってきちまった奴となら…過去何度かある」(ep.6参照)』という発言に出てきた『冷山』…くだんの山がこの『モンブラン山』である。
モンブラン山は周囲の山々より高く一面雪の降り積もった真っ白な岸壁、溶岩ドーム状の山なためか木々は一切生えておらず、生物が暮らせるような環境ではない…、
そんな山を見てヴァラックはフと思った。
「…登ってみるか」
「え急にっ!?」
「思い立ったらってやつ、行って来る」ギィ…
「あ、あぁ気を付けて…」
ガルンはまたもいきなりの行動に驚きつつも、なにかやりたい事が見つかったのかと見送ったのであった、「ふっ…」と息を漏らし先ほどの緊張がほぐれたのだ、
マスクから覗く顔が明るくなり、丸太を叩き割る音が気持ち軽快に鳴り響いたのであった。
カァン!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ガリガリガリ…ガリリッ!!
わずかに広葉樹の木々が緑色を帯びたとあるなだらかな山の麓で、緩やかな山道を歩く一人の人間…ヴァラックであった。
ポケットに手を差し込み、片手で木の枝を持ちながら地面をガリガリと枝先で弄り、地面に木の枝で作られた軌跡を途切れ途切れに描いていた。
ガリリ…ガリ…
「~~~…」
「~~~~…」
がさっ…
「~~…、まぁ」
鼻唄交じりに軽快に進むヴァラックの背後から聞こえる足音…、
当然の様に気付いたヴァラックは地面に擦り付けていた木の枝を長く持った、既に地面から枝を擦れる音は消えさりただヴァラックの足音だけが山に残った。
背後から聞こえる音に感じる気配…木々の囁きがイヤに不安を煽るのであった…。
「モンスターも出てくる季節か」
ブフーーーッ…
「ぷごご…」
…黒曜等級モンスター『巨槍猪』4m級の猪型モンスター、口元からはみ出る下犬歯は槍の如く伸び、突進はまるで騎兵の一突きに見間違う迫力である。
【※家畜化したランスボアヒュージは騎乗することが出来るぞ!】
「…微妙だな」
ズシャ…ッ!
「ぶきぃぃぃぃぃいいい!!」
ひゅ…ひゅう…
「ンーー…」
ブン!!ビュッ!!ビュンッ!!!
「相手にするメリットないな…」
ヴァラックは長く持った木の枝を軽く振り回した、風切り音に警戒心を高めたランスボアヒュージはその場で地面を蹴り、いつでも突進ができるように体勢を構えた。
しかしいつまでたってもその時は訪れないのである…、目の前の普通より大きいニンゲンが振り回すアレがドンドン『ウルサクなっている』。
ビュッッッ!ビュッッ!ビュッ!ビュッ!ビュ!!
「ブコ゚…っ」
びゅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!
「…冬眠明けで気怠い時に気を荒らさせてすまんな」
振り回した木の枝を徐々に…徐々に加速させていきついに枝先が消えて見えるほど速度をあげた、
枝が大きく『しなり』空気を叩く音がモンスターの恐怖心を刺激し、モンスター…ランスボアヒュージは警戒しつつ後退する、しかしモンスターのプライドからか未だ逃亡には至らないのであった。
「ブゴゴゴ……!」
バシッッッ!!!
「帰れ」
だがそんなモンスターのプライドも、地面に打ち付けられた木の枝により完全に折られてしまったのだ、ランスボアヒュージはその場で足を絡ませてコケながらも後ずさった。
ドタタっ!!
「ぶきぃ!?」
「ぷごぷごっ!?」
「…いっ…たか」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ギラッ…!
「眩…しっ…」
そんなモンスターの逃げる背中を見届けたヴァラックは、ゆっくりと残身しながら完全に見えなくなった後にようやく体の向きを変え、緩やかな山道に足を向けたのであった。
緩やかな山道を抜けた先に見えたのは、目を焼くほどの真っ白に光り輝く景色が広がった…雪に太陽の光が反射した、雪の降り積もる銀景色を生みだしたのは目的のモンブラン山であった。
「っ…っうお…」
ギラッ…
「…綺麗だな」
この網膜を焼くようなギラつく光にようやく目が慣れた時、目に飛び込んできた光景にヴァラックは真っ黒な瞳に美しい白銀の雪山の世界取り込んだ。
…ヴァラックは普段、家があるこの北側の地方から離れずにこの街を中心活動している冒険者である、ヴァラックは普段このモンブラン山の方には行かないのである。
「(…普段この山には近づかない…)」
ごくっ…
「(でも、なぜか今は行ってみたい…!)」
ヴァラックは普段この北の地方から出るのを嫌がる。
魅力を感じないからだ、だが今はあの山へ行ってみたい…そんな気持ちが今まで感じなかった時間を取り戻すように湧き出て止まないのである。
ヴァラックは先ほど師匠に適当に言い放った言葉を思い出した、
なぜ適当に言い放ったのか…『恥ずかしかったのである。』、自身がこんな子供みたいにあの山に興味深々なのが恥ずかしかったのだ。
「はぁ…師匠に素っ気ない態度しちゃったなぁ…。」
「思い立ったら…か」
ザッ…ザッ…ザッ…!
ぐっ…
自身の幼稚なプライドでの恥ずかしさから師匠へのずさんな態度を恥じた、今に思えばあんなに心配してくれていた師匠にする態度じゃないな…と頭を掻きながら反省をした。
ヴァラックは少し儚げに目を伏せながら若々しく太い木に手を着き、力づよく握ったのだ。
「ん…」
ぎちっ…
ぎちちちッ!!!
バキャッ!!!
木を掴んだヴァラックは、強く強く掴まれた木は外側の木の年輪に沿い綺麗に剥がれたのである。
「せめて師匠に山でみたこと話そうかな…と!」
ゴトッ!
ズリッ…!
「なッ!」
ザーーーーーーーーーーッ!!!
綺麗に剥がれた木は半円の一枚板で作られた船の様になり、ヴァラックを乗せ緩やかな下り道を勢いよく駆け下ったのである、
だがこんな緩やかな下り道を駆け抜けるのは普通には不可能であるが、ヴァラックの体重やソリの上から地面を蹴る事によって生まれる推進力により、地面とソリの間の摩擦が減り走行を可能としていた。
ズォーーーーーー!!!
「ん~~~~風が気持ちいな」
ちらり…
「さてさて、頂上の景色はどんなもんかね…」
ズザザザーーザッザッ!
「おばばっば!?」ガタタタ!
…山道を駆け抜けるヴァラックはモンブラン山を眺めながら勢いよく滑り下る…、
しかし山上がどうなっているのかを想像して思考に浸かっているせいで速度が落ち、摩擦が増えたため木の根にガツガツぶつかりながら情けない驚いた声を出しながらなんとか体勢を直したのであった。
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???「ゴロロ………」ピクッ
山がピクリとウネリだした。
オオオオオオオオオオオォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!!
こんばんは!
第十二話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!
※仮面の猫獣人
コツコツ…コツン…
「…思っていたより」
コツ……コツ………
「弱かったな」
カツン……
これからも頑張ろう、私なら書籍化出来るぞ!私ならアニメ化出来るぞ!うぉおお!