第十話 貴族
「それでどうするか」
ごきゅ…っ
「何がでヤンス?」
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ…
「あの野盗共の事だ」
魔王乃唾液躍動体を討伐し終わったコトトチームとヴァラックは、一度近場の大きな町まで村民を避難させた後、その町の冒険者御用達の集合ログハウス前にあるテラスで軽食を取っていた。
ごきゅ…っふーーー…
「っふぅ…身なりこそ野盗らしい粗末な物だったが、」
ゴトッ…
「あの動きは間違いなく訓練されているモノだった。」
ひょいっぱくっ…
「"もぐもぐ…"取り敢えず今リーダーさんはログハウス内でお嫁さんと付きっ切りなので、僕たちはリーダーさんの指示待ちですね。」
もぐもぐ…
ヴァラックは悩んでいた、あの野盗然としていた者達は間違いなく野盗ではないと確信していたからだ。
スライム…それも特殊討伐許可が必要なモンスターが現れた時に、そんなタイミングよく野盗なんて不自然であるのだ。
「…ふん…(何より野盗なんてそもそもいない、それに…)」
0…ではないが、この世界に野盗もとい盗賊の人間は限りなく少ないのだ、なぜなら…
「(モンスターが強過ぎて盗賊なんてやっていられん)」
カチャッ…ぱくっ、もぐもぐ…
モンスターが強過ぎて盗賊がいない…一見なにも関係がないように思えるが、どこの国もモンスターの対処やらなにやらで忙しく、『必然的に国間での戦争が起きず』、国益を上げる余裕が出て来るのだ。
「(国益が潤沢…つまり国民の生活も安定していて、盗賊になどならなくても普通に問題ない。)」
もぐ…もっ…
「(まぁ元々の悪性からやる人間もいるだろうが…)」
ごくっ…ん
それに何故か何処の国も戦争を起こしたがらないのだ、当然と言えば当然であるが、あからさまに避けている。
「これも美味しいですね!」
もぐもぐ…
「あ、それヴァラックの頼んだやつでアンス」
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ
「別にいい、好きに食え(…どの国もモンスターが出る以外めちゃくちゃ平和だけど…)」
ひょいっ…ぱくっ
「なんか変だよな…」もぐもぐ…
ヴァラックはこの言い難い違和感に首を傾けながらも、平和ならいいやと、思考を中断して今は目の前の食事を楽しむ事に注力した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…そこは黒き荘厳な円状の建物の中であった、内装はただ広いのではくcm単位の装飾が敷き詰められている円卓なのだろう…
そこに存在する人間は種族年齢性別問わずに皆が皆…それに見合うだけの装飾を身に纏った者達だ、そんな者達が1000を超えた数おり、席に座っていた。
「それにしても…急な召集は久しぶりじゃな…」
「俺…あぁいや私も初めてですよ」
ぺしっ
「アイタッ」
「《月例会》の集まりなら良いですが、この召集の時は貴族としてもっとシャンとなさい…」
いい身なりの年老いた男が、立派に拵えた髭を摩りながらどこか吹く風を漂わせていた…その老紳士の独り言に返事を返す男はまだ若く、こちらも豪華な装飾品に包まれていたが、少々くたびれた様子であった。
「んでこれ何なでしょうか?」
「…これはの…」
でぷっんっ
「貴族の処刑なのさあ」
くたびれた若い貴族の疑問に答えたのは、
デップリ肥えた腹肉を蓄えた…いってしまえば醜い男だった、茶髪で髪の毛がはねまくっているその男は特に豪華なデザインを施した衣服をしていた。
「ファビア・ウィズダミア=パラディアン五世様…!」
「ぶふふ、初めましてタイアト・ニャッカくん」
「名前を…..!」
「ブフフ...なぁにそこのジイさんとの付き合いで少し聴いた事があるだけだ...」
「ふん」と鼻を鳴らす男…つまる所タイアトの血縁者である、ニャッカ家は横の繋がりが広い一族。
つまる所かなりの階級にあるためタイアトも貴族間ではかなりの上澄み…しかし相手はそれよりもさらに上。
「(我ら貴族に錠を掛ける権利を持っている一族…その中でもこのお方はトップ…!)」
「ぶひひひ!まぁそんな緊張なさるな、それよりそろそろ時間だから私は失礼するよ」
「ハッ!パラディアン五世殿!」
パラディアン家…ローパヨット大陸国に属する大貴族である…しかし大陸国で行う政治的権力は一般的な貴族と同じく、その地の統治を行うだけである。
しかし、パラディアン家は唯一貴族でありながら王族と同じ様な地位に就くことを許された一族である。
ドス ドス ドス!
「ぶふー、年は多少いっているがかなりいい頭をしている者だなぁ…、そう思うだろ?」
「知りません、貴族社会にあまり関わりたくない」
ファビアが席を立ち、円卓の中腹にある大扉を抜けるとそこにはマントを羽織った5人の人間が、3mはあろう大男が座っている周りを囲む様に佇んでいた。
その中からマントから口元だけ覗かせるその男はさぞスラリとしたイケメンであろう、そんな声をしていた。
「ラーヌのいうとうりでーよ、というかあんまりしゃあると敬語崩れそうになりまーから黙ってたいです。」
「ぶほほほ!お前は元から所々敬語が怪しいから大丈夫だぞ!」
「名前…何処で聞かれているのか分からないから言わないで欲しい…ああ主よ、そろそろご登壇を」
スッ…
大男を囲んでいた5人のうちのもう1人…口調が特徴的な低身長な女性がその男、ラーヌと呼ばれた男はフードから見える口元を歪ませた。
大男は口をただ閉じファビアを見つめていた、他のマントの人間らはただ静かに待機を続けた。
「んまぁ、ないと思うが万が一侵入者が来たら頼むなぁ」
「了解」
「りょかあ」
「「「「…」」」」
「相変わらずくらいなぁ…」
ファビアの消えた暗闇を見つめていた口調の変わった女性はマントを弄りながら言葉を紡いだ。
「…ここの防衛が突破するよーなヤツを私らで抑えるの無理じゃーい?」
「……それは言うな」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
どすっどすっ!
「えっ…ほっ…ほっ…」
コツコツ…カツン。
「また太りましたね…」
ファビアは表に対し地味な螺旋階段を下ると、踊り場で1人の猫獣人に会った…その猫獣人は黒い短毛の猫の顔におかっぱサラサラヘアー…
見る人が見ればあまりの癖に卒倒しそうな美貌である。
どっどっどっ…
「おお、大帝国の総大将様がワザワザすまんなぁ」
コツ…コツ…
「貴方もかなり年老いた、階段で死んでいたら大変ですので」
づるっ! どてっ
「酷くな…おっ!?」
ガシッ
「…痩せなさいよ」
悠々と階段を降りるおかっぱ猫獣人に対してファビアはドタドタと忙しくその脂肪を揺らしながら階段を降りていた、だが階段を踏み外し体勢を崩してしまったのだ。
階段を踏み外したファビアはそのまま転けそうになった…しかしおかっぱ猫獣人が腕を掴み体勢を戻させた。
「きゅん…」
きゅん…
「キモ…」
キモ…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
がやがやがやが…
円卓場の中央、いっそう低くなっている中心部にあるのは円柱状に囲われた柵…そしてその柵の中には呆然とする1人の中年が拘束されていた。
ギ…ギチっ…
「…?うっ…えっ…?」
コッ…コッ…ドスドス…っ
「さて…ファビア様は彼の隣へ…」
「うむ…」
ドスっ…どすっ…
それぞれの席で話していた貴族たちもこの2人の登場に口を閉じ、その時は待った…
タイアトやまだ若い成人したての貴族は、初めてのこの集まりの始まりに分かりやすく緊張する者もいれば、取り繕い冷静な態度の貴族もいた。
シィーー……ーン…
「これより高貴な裁判を始める。」
「んんっ…被告人、バアリ酒造国がアルマ統治者...カルムトン・ルコール=アルマ!」
「…」
ぱんぱんっ
「っ!?はっぁ!?ここは……、…」
先ほどまで呆然としていた中年の貴族…カルムトンはおかっぱ猫獣人の手鳴らしで意識を覚醒させた、何か術か魔法を掛けられていたのか、目が覚めた男は酷く混乱していた。
「…え」
「……ありえない…」
ガタガタガタガタガタ…
混乱が落ち着き冷静になった時、気付いたのだ…今ここがどこで何が起きるのかを…
「これよりこの者の裁判を開始する!」
ざわざわ…ざわ…
「んなぁっ!?(小さくて見えなかったが…あれって!)」
「…まさか私たちの分家だったとは…」
タラッ…
タイアトやその隣の爺…周りにいるニャッカ家に連なる者たちは酷く動揺した。
…しかし見せた動揺は2種類、比較的若い者たちは自身の系譜からまさか裁判に掛けられる者がいるのかというショック…そして年老いた者たちは頭を抱え、冷や汗を垂らした。
「?…どうかしました爺さん…」
「口調…いや、そんな事を言っている場合ではないな…」
「?」
ダラッ…だらっ…
「下手すれば我ら一族も危ういかもしれん…」
冷や汗が止まらず、ハンカチでいくら拭いても垂れ続ける液体が自身の服を濡らし続ける…
あまりの異常事態、そしてさきほどの発言にタイアトは眉をひそめ、血族から罪人が出て同じ血筋の我らがどうなるのか容易に想像できたのだ。
「っ…まさか…」
「…っごきゅッ…しかし罪状による…だがある程度は覚悟するべきじゃ…」
「…っく、何とか俺らの命だけで済めば…「静かに」!?」
バチンッ!
バァッ!!
何とか大人たちの首だけで手打ちにしてもらい…自身の娘だけは恩赦をと、可愛い愛娘の顔を思い浮かべ膝の上で拳を握った。
しかしその思考はおかっぱ猫獣人の『フィンガースナップ』に消し飛ばされた、ただの指パッチンでショックウェーブが起き、ざわめいていたニャッカ家の席のみに風圧が飛んだ。
「罪を裁くのは私でもファビア様でも御座いません。」
!?
「…タイアトよ…この場の支配者…我ら貴族が国を越え交流を持てるのは、お越しになられる方のお陰なんだ」
「っパラディアン様ではないのですか…ははは…それは…」
恐ろしい…
バサッ…
…言ってしまえば実質の世界最高の権力者である者の存在を知ったのだ、民を動かす上で大切な権力を重視する貴族にとってそんな存在はまさに恐怖の対象だろう…
バサッ…バサッ…!
しかし、若い貴族らは別の意味でも恐怖するのだった。
「何の音…?」
「…降臨なさるぞ…」
ぎゅぅぅ…
爺さんは年甲斐もなく目を"ぎゅぅ"と瞑りながら下を向き、ただただ手を合わせて祈った…無事済むように…と。
人も獣人も亜人も全ての貴族がその者の登壇を迎えた。
バサッ!バサッ!バサッ!
ある獣人の貴族は両手を掲げて仰いだ。
ある人の貴族は祈りの讃歌を歌った。
ある亜人の貴族は涙を流して祈りを捧げた。
バサッ!!
おぉぉぉ…ぉおおおお…
ドンッ…!!!
柔らかく美しい声、雄々しく勇ましい声、慈しむような声…貴族たちそれぞれの声が合わさり指し示ずとも生まれたそれは、一つの入場歌となりその者を…ついに迎えた。
ギィィ…カコンっ…ばらっ…!
ばちん!ぱち!
突如円卓場の天井のスタンドガラスが色ごとに外れて地面へ落下した…しかしそのガラス片はピタリと空中へ静止したのだ、あまりの美しさにそれを夜の星空と見間違うほどに…
「お!おぉぉお!?」
おおおぉぉぉ…ぉぉぉおおおお!!
「…出るぞ」
ズアアアアアアア!!!
スンッ…
シャラララララララ…
それは一瞬であった…突如半円状になっているドーム型の天井の天辺から何かが伸びてきた。
ガラスを掻き分け伸びたソレはその場の普くを夢中にさせたのだ。
「ああああああああああ!?」
カルマトンの絶叫と共にカルマトンの丁度真上にソレは現れたのだ…それは…
次元の違う存在…
完璧な彫刻…
神の最高傑作…
『……』
ぱちっ!
ドラゴンであった____。
「高貴な裁判責任者、石竜様、ご降臨なさいました。」
おおおおおおおおおおお!!
「竜様ーー!」
「いつも我々を守って頂きありがとうございます!!」
「…(相変わらず神々しいな…)」
現れた竜はひたすらに大きく重厚な灰色の外殻に包まれていた。
角は雷の様に曲がっている黒角、首は蛇の様に長く、頭部には反射のない漆黒の長毛…首しか表れていないのにここまで芸術的なのは、かの竜だからだろうか…
『…』
「…はい『今日は急な呼び出しに申し訳ない』と申しています。」
\大丈夫ですわー!/
わいわいわい!
『…』
「…えぇ『本当は皆が語り合いながら交流を深めている所をみていたいのだが、今回はそうはいかない』」
『…』
「…『我の再三の《忠告》を無視した者へ罰を与えなくては「まってください!」』…なんでしょう」
おかっぱの猫獣人が石竜の言葉を何かしらの能力で受け取り、言葉を介した。
石竜はただ静かに貴族たちを見つめ、おかっぱ猫獣人に会話を代わって貰っていた…しかしこの議題の当人が待ったを掛けたのだ。
「わ、我…私はッ!今回の件についてはモンスターの所為であると主張いたしますッ!!」
『…』
石竜はただただ…静かに優しい目でカルマトンを見つめていた。
こんばんは!
第十話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!
謎の竜が登場して、何故こんなに貴族たちに支持されているのかまだ分からないですが今日はここまで!
中途半端でごめんなさい!でも今22:26なんですッ!!ちょっと雑で本当申し訳あぁ今22:27!!?
※前回の武器を少し掘り下げ!
○大斧《蛇の巨髪》
厚身片刃の斧、持ち手に対して刃が大きく通常振り回すのは不可能であるが、《技術》を駆使して振り回している。
いっそう厚くなっている『ミネ』の部分は刃の薄さを補強し強度を出すために作られており、押し斬る時には『ミネ』を叩く。
(※コトトはまじのいわゆる『モブキャラ』なので今後多分出番はありません。)
○毛皮《屠鬼閣落》
とあるモンスターの『外敵による攻撃で毛を硬化させる能力』にピンときたヴァラックが加工した特注の一品。
特殊な能力もなくただただ硬く、毛皮の時点でもかなり重い棘が凄いので、一般には普及しない。
鍔迫り合いでもしたら自分にも刺さるし、金棒なんて取り回しが悪くて使う人はいない。
ヴァラックが素手で倒せない相手に限り使用する臨時の武器である。
※「手に刺さらないの?」「相手に握られたら首に刺さらない?」Q.二章か三章で語ります。
〇石竜(下書き)
https://47325.mitemin.net/i976307/
最近平均PV数が40くらいになって嬉しいです!毎日確認するせいで寝不足!