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2度目のラグナロク  作者: 雪華将軍
第一章 山の竜編
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第九話 暴力知略ミキサー


「…って格好付けたがテメェも手伝えやオラ、コトト…」


「え!?あんな啖呵切ってた の  に…」


ダラ…ッ


「ははははッ…ッ!コイツぁいい強さしてやがる…ッ!」


 …前話で放った必殺『ヴラック・ファルコン』は全力の溜めから放たれる鈍重な鉄槌攻撃、本来対人想定の必殺技なのだが場合が場合であった為、リスク承知でスライムに放った…


ギュゥ…ボタッ…ボタッ…


「ッッ…ククッ…!」


 ヴァラックら両手を震わせながら拳を握った、その握り拳から垂れる液体は地面を溶かした(・・・・)


「ッヴァラックその手はッ…!」


「流石に負けるか…私の肌っ…」


じゅーーー…っ


 ヴァラックの小指から手首までの側面が赤黒く滲み、血液を漏らしていた。


 ヴァラックは対面するスライムを睨みつけながらも、マスクで見えぬ口元は"ニィ…"と上がっていった、しかしそれと同時に危機感を覚えた。


「大ッ変不本意だが、1人で勝つのは被害が拡大し過ぎる、コトト手を貸せ」


ゴキュッ…


ぎゅ…


「コトト」


「ジュワンヌ…」


 コトトは迷った、一度嫁の死を覚悟し向かってきたがまだ生きていて安堵した…しかし再びこの抱いたジュワンヌの肩をこの場でどうして離せようか。


 だがその迷いは抱き返された暖かな温もりに晴らされる、ジュワンヌの抱擁に視界は鮮明になり、迷いに曇った瞳に光が宿った。


「行ってらっしゃい…っ」


ぎらり…ッ

「ああ…!」


 コトトは手に持った大斧…蛇の巨髪(ジャ=イアント)を歩みながら"ぐるり""ぐるり"と鈍く回しながらヴァラックの元へ歩を進めた。


「遅いッ!」


ビシビシッ…!


『ボビビビビビィーーーッ!!』


タタタタタッ!


「どっちに言ってんだっ!」

ザシュッ!!


 ヴァラックは既にスライムと戦いを繰り広げていた、コトトにヘルプを求めていた割にはかなり余裕そうに圧倒している様に見えた…


 …しかしながらちらりと覗く手の側面は痛々しく、ヴァラックの戦い方も足技がメインに行われていた。


シュタッ…

「どっちにも?」ヘラッ


ガシャンッ!

「さては余裕だなッ!?」


ゴソゴソっ…

「馬鹿言うな」 

かちゃ…


 スライムを斧で三度弾き飛ばすと、ヴァラックの下へ駆け寄るコトト、軽口を言い合いお互いの戦意を確かめながらもチラリとコトトはヴァラックを見る。


「!あった。」


すっ…


「ん?ヴァラック、掌合わせてどうし」


「あ?」


 ヴァラックはズボンのポケットを"ゴソリ"と漁り一つの小瓶…水色の液体が入った下級回復薬液ロー・ヒーリングポーションを…


バギャッ!!ゴリゴリ…


「ったく、アイツ相手に素手じゃキツイな」


ドクドクっ…じわぁ…


「っつぅ…馬鹿沁みる…」


ぽわ…っ


 両手の掌で擦り潰した、ポーションは手の隙間からポタポタと垂れたがそれと共に手についていた強酸を洗いながされた。


 手を振り払うと血とポーションが混じった液体が飛び散る、真っ赤に染まった手の側面が現れる…両手の傷は完全に癒えていた。


「変なやり方だな…ほんと…」


引きっ…


「手についた不純物をポーションが洗い流してくれるんだよ」

ぐぐっー…


 両手を組み身体を伸ばして「意外と使える」と言い放つヴァラックに頭を抱えたくなったコトトだが、相対する相手が相手はだけにそんな事は出来なかった。


ズリッ…ズリッ…!


「!ヴァラック、戻ってきたぞ!」


「見りゃあ分かる…それでどう戦う?」


「そう…だな…(どうするか…せめてヴァラックに武器でもあれば…)」ちらっ


じーーーーっ…


「…何考えてる?」


 這いずり戻ってきたスライムに再び緊張感を持つコトト、しかしヴァラックはどう攻めるかに思考を巡らせていた…だが1人でどうにかするべきではないと思い、コトトへ声を掛けた…


 …のだが、返ってこないアンサーにヴァラックはコトトの顔を見つめた。


「いや…ヴァラックが使える武器でもあればなと…」


「…まぁ流石にもう拳で戦う事に固執するべきじゃないか…」


ぐっ…フサッ…


 武器がいる、その答えにヴァラックは少し悩むフリを見せてから肩から掛けている『毛皮』(※第一話の挿絵参照)を外した。


 コトトはヴァラックの謎行動に声を掛けた…だがそれより早くヴァラックはその毛皮を力強く握った。


フサ…ビキッ…バキャキャキャッ!


「…そういやコレ(・・)初実践だな」


ギラァ…!


「な、何だソレ…」


 肩に掛けていた毛皮を強く握った瞬間ソレは柔らかさを失い、『荒々しい剣山の如き金棒へ変わった』…マットな質感は黒鉄の様に鈍く光を反射し、最も近しい物体で言えば『金棒』か『ウニ』だろうか。


 ヴァラックは一息吐くとソレ(・・)を振り回して手に馴染ませた。


ズリッ…ズリッ…!


「え、キモ…」


「てめぇ本当さっきから失礼な奴だな!」


「いやお前どうなってんだよソレ!その肩掛けだけ見た目浮いてると思ったらソレ武器なのかよ!?」


「これは随分前に倒したモンスターの皮(・・・・・・・)だ」


ブゥン…ッギリャッ!


 何故毛皮が硬まるのか、1番近い原理としてはダイラタンシー現象がある、つまり外圧により柔らかい毛皮が鋼鉄の様に固まったのである。


 鋼鉄と言いつつそれは『毛』なので肩に掛けられるほど柔らかくなるのだ。


「名付けるなら…そうだな」


「悠長だな…ッ!?」


ズリッ…ズリッ…!!!


『ゴパァーーーーーーッ!!』


ポポポポポポポっ!!


 眼前まで迫ったスライムにコトトは構えた、ヴァラックはゆったりと斜め下に構えた、2人は示し合わせた訳でもないのに構え終わったのはほぼ同時であった。


 スライムは再び自身を震わせ、そもそもないはずの口から咆哮を上げた。


『ポビィイイイ!!!』


ズァッ!!


屠鬼閣落(トキコツラク)!」


「『破魔の蛇撃ハマッジャーストライク』!」


 閃光、まさに一閃にしてスライムよりも早く、横に斜め上にと2人の大物は振り翳された、地面が割れるほどのまさに暴力…そして巨大なスライムは粉々に砕けた…!


『パァッ!!!!?』


ドッパン!!


 もう何度目かの撃沈にスライムは遂に弾けヴァラック等に降り注いだ…が、流石にただ降り注ぐだけの物体に当たるほど銀等級(シルバー)は甘くなかった、お互い武器を振るいながら凌ぐのであった。


びちゃびちゃびちゃ!


ぶんっ!ぶんっ!ぶおっ!


「ふんっ…こんな感じか」


ブオオオオオオオ!!


 降り注ぐ数多の強酸性の残骸を全て耐えた2人は、武器についたスライムを『血振るい』ならぬ『酸振るい』を行い、振り払った。


「ふっー…ってかその武器の名前がソレなら」


ぶん!ぶんっ!


「あ?」


「さっき武器の名前を技名みたいに叫んでたのか」



「…なんか恥ずかしいな」


 ヴァラックはまさかの指摘に少し恥ずかしくなり、顔に出ないように眉間を抑えた…まぁ出た所でマスクで隠れているので殆ど分からないのだが。


「…にしても」


「お前もそう思うか」


 既に粉砕されたスライムの残骸に2人は目線のみを動かす目配せをして、足を肩幅に広げた。


「「まだ死んでない」」


ずももももも…っ

『ぐぷぷ…っ!』


 なんとスライムは地面の隙間から"こぽっ"と生えてきたのだ、それもかなりの広範囲にポツポツと伸びてきたのだ。


 …しかし2人は何一つとして焦っていなかったのだ。


「…なぁ、そろそろ(・・・・)だよな」


「ん?ああ…お前がジュワンヌちゃん見つけて先行するから予定が崩れた(・・・・・・)がな」


「だっ…自分の嫁のピンチに焦るのは普通だろ…!」


『『『『ごぱぁっ…!』』』』


 スライムはないはずの『知能』は目の前のコイツらの焦った様子のない佇まいに、頭の上に『(ハテナ)』を浮かべた。


 こんな広範囲に広がった無数の『自分』に敵う術などない!と言わんばかりの勢いで2人(・・)に迫った。




 そう、2人(・・)である。


フワッ…


「じゃ送迎頼むわ」


 突如として空中から現れた男、そしてその男はヴァラックとコトトに触れると『ふわり』と2人を浮かび上がらせた。


 その男はゴーグルの下に眼鏡を掛けた…変な男だった。


「お任せでゲス!」


『ごぽっ!?』


「『下位空飛(ロー・エアフライング)』だガス」


ふわぁ…!


「お前どんどん語尾変わるのね…」


 「それは言ってやるな」と言いながら浮かびあがるコトトはちらりと『ジュワンヌがいた場所』をみた、そこにはもう誰も居らずただ草原が広がっているだけだった。


ふわぁー…

「ジュワンを移動させてくれたのか、すまないな」


ぐっ!

「2人が時間を稼いでくれている間にパパっとやったでガメス」


「もうお前が何だか分からんくなった」


『ごぱぁーーー!!』


 コントでもする様に楽しげに空へ浮上する3人をただ地面から見つめるしかないスライムは恨めしげに粘体を伸ばしたが、薄く地面に張り巡らされた粘体はそれ以上伸びる事なくただ空気を掴むのみだった。


「おい!やっていいぞ!」




「エミー!」


ボワッ!!


『!?』


 スライムは恐怖した、『なんだあの量の魔法陣は』…スライムは『目が見えない』、それもそうだそもそも無いのだから…しかし音は自身の体の振動で分かる、そしてもう一つ感知できるモノがある。


 魔力だ(・・・)


「『  ける蹄は罪が所為か?否、怠惰が所為か?否、それは無情の(イカヅチ)である。』」


「『均せ 均せ 均せ 我は山を砕く矛であるぞと、火を放てと囃し立てる、それは人類の創造物である。』」


「『奏でる音はもう聞こえない、僻むな 遜るな 我望むのは貴様の命』」


「『闇は知らぬ、我は神々(轟々)しきモノ、ひとたび輝けば普くは灰と化す』」


 ありえない、こんな長文詠唱を一度も噛まずに(・・・・・・・)言い切るなど…


 まるでそう言わんとするスライムは、地面に広げた体を一部に集めてその魔力源に向かった…その魔力の渦の中心はエミが陣取っていた。


「…『最上位魔法(ハイエンドマジック)爆心地(・フライトグラウンド)』」


 強大な魔力の渦が一つに集まり物質を創り出した、その物質は小さく…小さく小さく凝縮し、砂粒程度に凝固された。


『ぷぴーーーー!?』


ズゾゾゾゾ…!


 エミは浮遊するその《砂粒》の浮遊を解除し、スライムに落とした、不思議なくらいにその《砂粒》は風に影響されずに真っ直ぐ真下に落下し、スライムに触れた。


 スライムはその《砂粒》を振り払おうとしたが、一瞬静電気(・・・)程度の雷が《砂粒》に落雷した。


バリっ…


『!?』


「『恐れろ(ゼロ)』」


ぼっ…!


 落雷した《砂粒》が恐ろしい速度で膨張したのだった、スライムの体を覆う爆破…否、それに収まらず膨れ上がり続ける、


 連続で特大で凶悪な爆破…頭の悪い表現だが、それ以外表現のしようがない、それほどの爆破であった。


BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON……ッ!!


『 』パンッ!


「ぐぅ…!」


「アイツやっぱり天才なんだな…」


「眩しいぃぁぁああああ目が!目がぁッでザメンス!」


「「もう語尾でもなんでもねぇ!!?」」


 ミナサーン!!


 フワリと地面に降り立つ三人の元に、1人の少年が現れた…エミである。


 あのレベルの魔法を放った後で飛行魔法(空を飛ぶ)この少年はかなりヤバイのではないのか?そう再認識したヴァラックは、自身よりちっちゃいエミの頭を撫でた。


ナデコリナデコリ…


「###…ありがとうございまふ…」


なでこりなでこりっ…

「おつかれ(…こいつ…本当に同一人物…??)」


 人知れず恐怖するヴァラックはエミの頭を撫でながらも、惚けるエミにカワイイなんて言葉は浮かばなかった、本当に天才なんだろうなとちょっと撫でる力を強めた。


もみもみもみ…


「もふゅ…むにゅ…むぅむ…」


「…こんな細ぇヤツがようやるよ」


トトトトっ…

「はははは!ウチのエミは強いだろ!」


みゅにーーーぃ…

「あぶー…っ」


「よくお前らよくコイツ引っ掛けられたな」


 ヴァラックは本気でそんな事を思ったが、敢えてそこで言葉を詰めなかったのは理性からか何からなのかは分からない。


 エミはヴァラックの大きな手に顔を揉まれたからか嬉しさによる笑みからか、暫くずっと頬が痛かった。


痛ぁぃ(ひたぁぃ)…」


モニモニ…


こんばんは!

第九話をご覧頂きまして本当にありがとうございます!


 本当見てくれて嬉しいです!目指せ書籍化!!

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